2020グランプリ
ARTIST STATEMENT
some things do not flow in the water
日本では過去の嫌なことを忘れて無かったことにするという意味で、「水に流す」という言葉を使う。
しかし、日本とシンガポールの歴史の中に「許す、しかし忘れない」という言葉があるように簡単には水に流せないこともある。
本作品に登場する写真は、日本とシンガポールの歴史に関係のある場所で撮影されている。
私はその写真プリントと一緒にシャワーを浴び、インクを洗い流した。そしてインクが剥がれた写真を見ながら、そこに写っていたものを思い出す過程を映像で記録した。
写真は過去の証拠となり得るが、証拠がないからといってその事実が消えるわけではない。
しかし、証拠がなければ忘れ去られ、上書きされてしまうこともたくさんある。
応募作品形態:映像作品 21分17秒
審査評 選:野村 浩
シャワーの水で洗い流されていく写真に目を奪われていると、写真の記憶や物質性といった言葉が頭に浮かびます。飄々とした語りとパフォーマンスのうちに、写真上のイメージがあっけらかんと剥離させられました。写真は、むき出しの白い印画紙に変わり果て、脳裏にぼんやりとした残像だけが残る。写真の扱いが新しい。躊躇のないところにまずびっくりさせられ、グイグイと引き込まれ、震撼しました。
PROFILE
樋口 誠也Seiya Higuchi
1995年長野県出身。名古屋学芸大学大学院メディア造形研究科修了。
実物ではなく、敢えて「映像(イメージ)」を介して見たくなることに関心があり、写真・映像を扱った作品を制作している。