2000優秀賞
ARTIST STATEMENT
ID400
私はコンプレックスの塊でした。自分の写真を撮り始めた頃、写真の中では美しくかわいらしい自分が大好きでした。写真の中の私はモデルのようにも女優のようにもなることが可能だったのです。しかし、そんな自分の写真を見れば見るほど現実の自分と写真の中の自分とのギャップがどんどん大きくなっていきました。言い換えれば私という人間は変わらないのに外見というものは簡単に姿を変えていくのです。証明写真というのは、それのみで写真に写っているその人の存在を証明します。つまりこの世に存在しない人でも証明写真に写れば存在したことになるのです。内面は外見に表れてくるといいます。しかし、外見が変わったところでその人の本質的なものは変わらないとも思います。その矛盾がこの作品を生み出しました。証明写真の中の全ての人が私自身です。神戸地下鉄沿線上にある立体駐車場の中に、証明写真機=私のスタジオはあります。まるで私の為に作られたかのように、そのスタジオの前には偶然にもトイレがありました。多い時には10~20人分の変装道具を持っていき、終電ギリギリまで変装し続けました。トイレなので、当然他の方も使われます。作品はモノクロなのであまり分かりませんが、実際メイクした顔はとても正常な人には見えず、ある時は子供が入ってきて私を見るなり固まってしまったり、またある時は若い女性が入ってきたかと思うと見てはいけないものを見てしまったという顔ですぐ出て行ったりと、知らない人を恐怖に陥れてしまいました。駐車場の警備員の方にもかなり怪しまれていたようで、通報されるのではないかと心配でした。撮影中にお会いした皆様いろいろとごめんなさい。
審査評 選:横尾 忠則
この作品は、多面的な自己というものがすごくあって、それが複雑化し増殖化していくという、単純にそういう驚きみたいなものがあります。僕は男性だから、男性として驚いているのかもしれないけれども、やっぱり女性の方が表現が豊かですね。絵画表現というか芸術表現というのは、内にこもったものを吐き出していくという部分があります。今回のこの作品が一番おもしろいと思ったのは、コンセプチュアルな方法を用いて撮りながら、直感的、感情的、生理的、そういったものを付け加えていて、そんなに堅苦しくなく見ることができる点が良かったと思います。この作品を、もし男性がやればこんな風にならないと思います。これを見るとやっぱり女性は圧倒的に元気ですよ。
PROFILE
澤田 知子Tomoko Sawada
1977年 | 兵庫県神戸市に生まれる |
2000年 | 写真新世紀[第21回公募]優秀賞(横尾 忠則 選)、「写真新世紀2000展」特別賞受賞 |
2004年 | 兵庫県芸術奨励賞受賞 木村伊兵衛写真賞受賞 The Twentieth Annual ICP Infinity Award for Young Photographer |
2008年 | 第24回東川賞新人作家賞 |
Selected Solo Exhibition
2015年 | 「FACIAL SIGNATURE」 MEM / 東京 「My Faces」 Pace/MacGill Gallery / ニューヨーク / アメリカ |
2013年 | 「Sign」 ROSEGALLERY / サンタモニカ / アメリカ 「Sign」 MEM / 東京 |
2008年 | 「IDENTITATS」 Fundacio Joan Miro / バルセロナ / スペイン |
2006年 | 「MASQUERADE」 KPOキリンプラザ大阪 / 大阪 「Early Days」 MEM / 大阪 |
2004年 | 「Desire to Mimic」 MAK (応用美術博物館) / ウィーン / オーストリア |
2003年 | 「TOMOKO SAWADA-Two Photographic Series」 Zabriskie Gallery / ニューヨーク / アメリカ |
2002年 | 「cover」 SUMISO / 大阪 |
Selected Group Exhibition
2017年 | 「第9回恵比寿映像祭マルチプルな未来」 東京都写真美術館 |
2016年 | 「Japanese Photography from Postwar to Now」 San Francisco Museum of Modern Art / サンフランシスコ / アメリカ |
2015年 | 「The Younger Generation: Contemporary Japanese Photography」 The Getty / ロサンジェルス / アメリカ |
2013年 | 「13th edition, Le Mois de la Photo à Montréal」 MAI (Montréal, arts interculturels) / モントリオール / カナダ |
2012年 | 「Factory Direct:Pittsburgh」 Andy Warhol Museum / ピッツバーグ / アメリカ |
2009年 | 「LiNK-しなやかな逸脱 Kobe Biennale 2009」 兵庫県立美術館 / 兵庫 |
2008年 | 「オン・ユア・ボディ」 東京都写真美術館 / 東京 |
2005年 | 「mot annual 2005 愛と笑い、そして孤独」 東京都現代美術館 / 東京 「愛・地球博 アートプログラム「幸福の形」展」 スパイラル / 東京 |
2003年 | 「KEEP IN TOUCH - POSITIONS IN JAPANESE PHOTOGRAPHY」 CAMERA AUSTRIA / グラーツ / オーストリア |
2000年 | 「写真新世紀展2000」 青山モーダポリティカ / 東京 |