INTERVIEW

インタビュー|アレック・ソス(写真家・写真新世紀第40回公募審査員)

アメリカ写真の伝統を受け継ぐ重要な作家として高く評価され、
幅広い世代に支持されるアレック・ソス氏。

現代において写真はコミュニケーションの手段であり、
言語と同じような文化的意味を持っていると語る。

聞き手にサンドラ・フィリップ氏(サンフランシスコ現代美術館・写真部門名誉キュレーター)を迎え、
自身のスタイルを確立していった背景とともに、今回の審査会を経た感想をうかがいました。

— 作品制作のプロセスについてお伺いします。ご自身の関心を軸に被写体を探していくのですか?

若い頃にいろんなプロセスを試し、自分のやりやすい方法を見つけていきました。私の場合、必ずしも被写体ありきで制作を始めるわけではないんです。まずプロジェクトとしてどれだけ力強いか、どれだけ自分が集中できるかということが1番大事です。そして、ロード・トリップ、つまり路上に出て旅をしながら写真を撮るということを初めてみたら、とてもしっくりきたんです。故郷を出て世界を見るということが、私にとっては非常に重要だったんですね。

— アメリカ写真の伝統的なスタイルの1つと言える、ロード・トリップ写真を実践したんですね。この系譜に連なる写真家たち、例えばウォーカー・エヴァンスやロバート・フランク、リー・フリードランダーなどは、みな非常に意義深い作家たちですよね。

実際に旅に出ると、エヴァンスやフランクの作品を連想させるような写真を撮るようになり、意識的に集中してそれを行ったりもしたんですが、同時にちょっとした自分の心の声にも耳を傾けました。

写真は世界のあらゆる場所で撮影され、人々は日々それらを目にしながら生活しているわけです。そして、私は写真が言語のような性質を持つようになっていて、いろんな方言もあると思っているんです。写真の撮り方、もしくは見方は、地理的にも、また歴史からも影響されます。いろいろな伝統と重なる部分もあるでしょう。そして、私が撮る写真は、アメリカの方言に属していると思うのです。私が写真を撮り始め、スタイルを追求していたのはインターネットが普及する前の時代ですから、私自身がどっぷりとアメリカの伝統につかっていました。アメリカの有名な写真家、ロバート・アダムスやスティーブン・ショアなどが撮った写真をごく普通に見ていたわけですし、自分の見方、さらに写真の撮り方が影響されているのは当然ですよね。

Peter's Houseboat, Winona, MN 2002 © ALEC SOTH

— 特に共感した写真家はいるのですか?

写真を始めたばかりの頃、バーンズ&ノーブルという大きな書店で、日本人写真家、深瀬昌久の『The Solitude of Ravens』という本を見つけたんです。そのとき、なんだこれは!と大変な衝撃を受けました。なぜなら、その本はロード・トリップ写真の伝統につながる要素もありながら、ほんの少しだけ列車という要素が入っていたからなのです。そのようなものは見たことがなかったし、これこそ自分が求めるものであるように思えたのです。この写真集は、今でも私の宝物です。

Charles, Vasa, MN, 2002 © ALEC SOTH

— その当時、アメリカでは日本の写真についてほとんど知られていませんでした。日本でも知られていなかったかもしれません。

なぜ、あのような写真集がアメリカのごく一般的な大型書店に置かれていたのか、今思い出してもとても不思議です。しかし、その写真に強く共感したのは確かです。

写真は言葉であり、方言があると言いましたが、ロード・トリップ写真の系譜には、センチメンタルな感性を肯定する傾向があると思います。それを象徴しているのがロバート・フランクの作品だとも言えますし、『The Solitude of Ravens』はその系譜上にある写真集と言えるのではないでしょうか。一方、エヴァンスやジョエル・スタンフィールドの作品は、社会批判的な関心によって撮られた写真であると言えますよね。つまり、地理的な方言とは別に、一つの表現スタイルに脈々と受け継がれてきた方言もあるということなんです。

Melissa, 2005 『ナイアガラ』より © ALEC SOTH

— 今回、審査をされた感想を教えていただけますか?

優秀賞選出審査会ではたくさん作品を見せていただきましたが、本当にリアリティがある人の作品は、すぐにそれがわかるんです。リアリティがあるというのは、つまり本当に自分が魅了されたものを、ちゃんと受け止めることによって表れるものなんです。

自分に関して言えば、ストリートで写真を撮っていた時は、あまりリアリティがないと思っていましたし、画家を目指していた時も自分らしくないなと思っていました。商業写真を撮っていてもあまりしっくりこなかった。そして、アメリカのロード・トリップというやり方で写真を撮りはじめたわけです。しかし、はじめる前は、使い古されたやり方だから、自分がやる必要はないと思っていたんですよ。

Crazy Legs Saloon, Watertown, New York © ALEC SOTH

— しかし、実際には旅に出て、自分にとってのリアリティを感じられたわけですね?

ロード・トリップ写真の全部がそうだというわけではないですが、愛とか憧れといった感情を模索することが許されているジャンルだと思いますし、そこに私はとても魅力を感じたんです。

日本の写真家では、荒木経惟が自身の旅の写真をセンチメンタルという言葉を使って表現していましたね。日本では、写真作品を撮るのに感情は使っても良いものとされているんだと僕は理解していて、そこにとても共感を覚えます。

Bonnie (with a photograph of an angel), Port Gibson, Mississippi 2000 © ALEC SOTH

— 審査では、その人自身が本当にリアリティを感じて撮っている写真、作家らしいと思える作品はすぐにわかりましたね

ですから、写真家になろうとしている人たちへアドバイスするとしたら、最終的にはアドバイスなんてもらえないんだよ、ということになってしまうんですね。自分自身からしかアドバイスをもらうことはできないし、自分らしくいなければならないのです。

若いとき、私が初めて写真家として自分の道を歩み始めた時は、自分自身で感じたことを作品にしようと思ったことから始まりました。それまでに受けた影響を乗り越えて、自分で道を切り開いていかなければならないと考えるようになり、全てはそこから始まったと言えるのです。

A-1 Motel, 2005 © ALEC SOTH

PROFILE

アレック・ソスALEC SOTH

アレック・ソスは1969年にミネソタ州ミネアポリスで生まれ、現在も同市を拠点にしている。「Sleeping by the Mississippi」(2004)、「NIAGARA」(2006)、「Broken Manual」(2010)、「Songbook」(2015)を始め、25冊以上の写真集を出版している。パリのジュ・ド・ポーム/印象派美術館 (2008)、ミネソタ州のウォーカー・アート・センター (2010)、ロンドンのメディア・スペース (2015)などで、50回を超える個展を開催。グッゲンハイム奨励金(2013)などの奨励金や賞を多数獲得。2008年、ビジュアル・ストーリーテリングに注力するマルチメディア企業、Little Brown Mushroom社を設立。ニューヨークのSean Kelly、ミネアポリスのWeinstein Gallery、サンフランシスコのFraenkel Galleryが代理人を務めており、マグナム・フォトの正会員である。

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