INTERVIEW

インタビュー|エミリア・ヴァン・リンデン(Unseen アーティスティック・ディレクター・2018年度[第41回公募]審査員)

インタビュー|エミリア・ヴァン・リンデン(Unseen アーティスティック・ディレクター・2018年度[第41回公募]審査員) インタビュー|エミリア・ヴァン・リンデン(Unseen アーティスティック・ディレクター・2018年度[第41回公募]審査員)

新進気鋭の作家から大御所まで幅広く作品を紹介し、場を提供する現代写真のプラットフォーム的なイベントとして、高く評価されている「Unseen」(アムステルダム)。
写真新世紀2018年度[41回公募]には、その「Unseen」でアーティスティック・ディレクターを務めるエミリア・ヴァン・リンデン氏を審査員にお迎えしました。
公募審査会を終えた感想とデジタル時代における写真の行方についてお話をうかがいました。

環境問題、アーバニズムが感じられる
応募作品の数々

— 「写真新世紀」の審査を終えた感想を聞かせてください。

「写真新世紀」は、年齢や国籍等、応募制限がないフォトコンテストですが、予想どおり、日本からの応募がかなり多くありました。日本が直面している差し迫った問題を知る機会が得られたことは、とても有意義でした。応募作品を通して、日本のアーティストの皆さんが熱心に追求している問題がどのようなものなのか、はっきりとわかりました。そうしたテーマの1つがアーバニズムです。特に東京が東京2020オリンピック・パラリンピック開催に向けてどのように急発展を遂げつつあるのかを扱ったものや2011年に東北地方を襲った地震と津波など、自然災害がもたらした影響をテーマにした作品も目立ちました。日本の多くのアーティストがこの2つのテーマを追求していることはもちろん知っていましたが、このテーマを扱った日本からの応募作品がかなり多いという印象を受けました。

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— 応募作品についてはどのようにお感じになられましたか。

応募者に作品と同時に展示プランも提出してもらうというシステムは、なかなか有益だと思いました。デジタル形式(またはプリント、ポートフォリオ)の作品とその説明を提出するだけでなく、自分の作品を美術館でどのように展示するかを考えるというのが特徴です。
国際的なコンテストとなると、厳しい応募制限があるものが多くあります。例えば、オランダの新人コンテストだと、35歳未満という年齢制限か、教育機関を卒業して間もないという条件が課せられているものが大多数を占めます。「写真新世紀」は年齢を問わず応募チャンスがある点が素晴らしいです。キャリアのいろんな段階にいる幅広いアーティストの作品を拝見できて楽しかったです。

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— 普段出会っている世界各地の若手写真家と「写真新世紀」で審査した作品の応募者との間に何か共通点はありましたか。

私が感じた最大の共通点は、環境問題にスポットを当てたアーティストが目立ったことでしたね。「Unseen」で作品を展示するアーティストにも、環境問題を追求する人が数多くいます。前回の「Unseen」のメインの展示の1つでも、世界各地の氷河融解を取り上げました。もちろん、気候変動は今の時代で最も大事な問題なので、環境をテーマにするアーティストがいるのは驚くことではありません。「写真新世紀」でも環境をテーマにした作品をたくさん拝見することになるだろうとは予想していました。

その他の共通点としては、デジタル技術を使った作品がたくさんあったことが挙げられます。ただし、アーティストの多くが基本的なデジタルツールしか使っていませんでしたが。ヨーロッパで審査したプロジェクトにも同様のものがいくつかありました。
駆け出しの若いアーティストの多くは最先端のソフトウェアになじみがないんです。
高度なデジタルツールを使いこなしたいという意欲は強いのですが、手段や時間が限られてしまっています。『Unseen Magazine #6』では、ルーシー・サターが新しい画像技術を使ってどのように作品を向上させるかについて、素晴らしい記事を書いています。

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© EMILIA VAN LYNDEN

デジタル時代における写真の行方

— デジタル時代への移行とインターネットの隆盛により、写真という表現手段は激動の時期に差し掛かっています。この流れをどのようにお考えですか。

「Unseen」などの活動全体を通じて、私たちはアナログを手段としたアーティストとデジタルを駆使したアーティストの両方と関わっています。アナログとデジタルの両方を、その比率が半々かどうかは定かではありませんが、見事に融合させているアーティストもいます。その一方でここ数年、若いアーティストの中には意識的に暗室での作業に回帰してアナログのテクニックでいろいろ試そうとする人も出てきていて、好ましいことだと思っています。私たちが関わっているアーティストには、アナログとデジタルの間を行き来していて、どちらか片方にあえてこだわるというスタイルは取らない人も少なくありません。伝統的な手法と現代的な手法、それらをどのように組み合わせてこれまでにない斬新なスタイルを編み出すのか、とても興味深く見ています。

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© EMILIA VAN LYNDEN

— デジタルが可能性を広げたことで、かえってアーティストが個性を出すのが難しくなったように思えるのですが、いかがでしょう。

ご存知のとおり、今はスマートフォンで写真をどんどん撮るというスタイルが普及していて、撮影したらそのまますぐにソーシャルメディアなどのオンラインのプラットフォームでシェアすることが可能になっています。したがって現在のアーティストには、他人との差別化を図ること、自分だけの視覚言語を見出すこと、そして魅力と意外性があって自分のメッセージを伝達できる作品をつくり上げるために、見る人に挑戦する術をわからせること、この3つに力を注ぐことが求められています。ストーリーテリングの様式は大きく様変わりしてきました。また、ドキュメンタリー写真のあり方にも、より概念的な要素が含まれて、従来のビジュアルによるストーリーテリングの範疇を超えてくるなど、明らかに変化が訪れています。

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紙媒体の役割

— 写真作品を公開する際に、オンラインと紙媒体では大きな違いがあると思います。どちらの場合も編集する際にはクリエイティブな方法をいろいろと工夫しければいけないと思いますが、「Unseen」ではなぜ雑誌を年1回発行しているのですか?

写真のプロジェクトにはコンテクストが必要になることが多くありますが、これは主に写真を取り巻く状況が常に変化しているからです。雑誌は紙媒体にしかない深みというものを与えてくれると思います。オンラインではテキストを短くしたり動画や音声とともに作品を紹介したりといった手法を使っていますが、紙媒体では作品本体とともに大量のテキストでコンテクストを明確にしています。オフラインだと、オンラインよりも落ち着いてじっくり読んでもらえるようなので、文章を長めにしてテーマをより深く掘り下げることが多いですね。それから、実際に触ることができて、素敵なデザインで美しく印刷されたモノや製品には付加価値があると私は強く信じています。

オンラインでは時には決してできないような方法で写真に命を吹き込むことができるということです。それで、今後は年に1回ではなく2回、『Unseen Magazine』を発行していきます。印刷媒体には今後も価値を置いていきますが、どうすればオンラインをもっと活用できるかも模索していきます。印刷媒体もオンラインも私たちの活動には欠かせないので、2014年には『Unseen Magazine』を創刊し、昨年11月には「Unseen Platform」を立ち上げました。「Unseen Platform」は、写真という表現手段の限界に挑戦し続けるアーティストが、最新プロジェクトを始動させるためのデジタルプラットフォームです。「Unseen Platform」と『Unseen Magazine』は密接にリンクしています。この2つを活用して、現代における写真という表現手段の幅広さと奥深さを紹介していきます。

— 「Unseen」のさらなる成長とエミリアさんのご活躍を心より期待しています。ありがとうございました。

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PROFILE

エミリア・ヴァン・リンデンEMILIA VAN LYNDEN

現代写真の表現の場として注目されるUnseen(オランダ)のアーティスティック・ディレクター。写真界の最新のトレンドにフォーカスし、Unseenは新進気鋭の才能ある写真家に作品展示の機会を提供するとともに、著名なアーティストの最新作も展示している。Unseenでは年間を通して様々な展示を行っており、メインイベントのUnseen Amsterdamは9月に開催される。2014年創刊の年刊誌『Unseen Magazine』の編集長を務めるなど、芸術的才能の発掘と、若手アーティストの支援に力を入れている。

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