INTERVIEW

インタビュー|さわ ひらき「うろ・うろ・うろ」 ビデオインスタレーション 2017(美術家・2018年度 第41回公募審査員)|キヤノン 写真新世紀

美術作家として、見る人が特別な場所と時間となるような
空間表現を心がけています。

マイナス10℃の暗闇の中、氷結した湖の表面に穴を開け、
湖面を光らせるという梅田 哲也氏のフィールドアクションに取り組んださわ ひらき氏。
シンプルに湧き起こるさまざまな現象を映像で捉えたこの作品は、
鑑賞者の想像力を膨らませ、新たな視点を導き出します。

映像表現とインスタレーション、夜の闇での撮影に新機軸で挑戦されたさわ氏にお話を伺いました。

— 2017年度は、日本で開催された3つの国際美術展に精力的に出展されましたね。札幌芸術祭では、猛吹雪の中で撮影された新作「うろ・うろ・うろ」を発表されました。
制作の経緯についてお話しいただけますか?

夜の凍った湖に電球を沈めるから作品を作ってみてくれないかと友人のアーティスト、梅田 哲也さんに誘われました。

梅田さんは、以前、オーストリアの凍った湖に電球を沈めてみた時のこと(はて何故そのようなことをしたのやら)、氷の下、水中に沈んだ電球が氷を透かして足跡が少しずつ光っていき、電球の深度によって光の具合が変化する。その風景が私の作品のイメージを想起させたようです。そこで私と作品を作りたいと思ってくれました。

— そこから、この作品がスタートされたんですね。

実際に真冬の北海道に出かけ、マイナス10度で凍った湖面に穴をあけて、漁船についている集魚用で光の強い電球を水中に沈めました。さまざまな光の具合を撮影するために、そこにドライアイスを沈めて煙や泡を出したり、電球のケーブルを持って振り回して影を動かしたり、さまざまなアクションをしてもらいました。それをひたすら撮影しました。

© HIRAKI SAWA

— 極寒の地での撮影は、たいへんでしたね。暗闇での撮影は、どのような意図を持って進められましたか?

光を湖に沈めたことによる純粋な現象を捕えたいということから始まったのがこのプロジェクトです。いろいろな仕掛けも試みたのですが、自分たちの撮りたいものは何なのか?梅田さんたちが起こすアクションから生まれる様々な現象を捕える、そこに重点を置きました。
作品全体のイメージの中の話になりますが、時間や場所がズレると大きな誤解が生じます。
意識のズレや何かすることによって生じる行為のズレ。私は梅田さんの行為を理解しようとする、答えを導きだそうと努力する。実際答えを聞いてみたけれど、答えはそれほど重要なことではなく、私と梅田さんのコミュニケーションの中で生まれた誤解から始まるズレを表現したいと思って制作を続けしました。

© HIRAKI SAWA

— 意識のズレと行為のズレ。何が行われているのかと、注力を持って見入ってしまいます。

作り始めは、冬の雪山の中でしているその行為を説明するようなドキュメンタリー映像になってしまい、音や音楽をいくらのせてみても、それぞれの行為を説明しているような映像にしかなりませんでした。そこで私は勘違いという感覚をもちつつ、行為ではなく現象や映っている風景を中心に編集をしていきました。表徴的に始めてはいますが、映っている映像・風景・行為・現象からその中に含まれている意図を虚構として作り上げる作業、梅田さんのアクションや風景や現象の説明ではなく、作り話を映像が語り始めたら、それを柱として編集を進めていきました。

© HIRAKI SAWA

— 今回の撮影で意識してチャレンジされたことはありますか?

私がいままで多用してきた映像の加工を控え、撮影した映像のみを編集し作品としていく。それは今までの作品の手法のことで話すと、自分としての挑戦で、そのときにどう、なにを柱にし、軸にして映像を編集するか、作り込もうかと考えた時に、映像とそれに沿う時間を彫刻的に時間軸の中で加工していこうと。撮れた映像を使って、時間を刻む、時間を形にしていくということです。

— 今回は、暗闇を捕えるために高感度多目的カメラME20F-SHを使用されましたね。いかがでしたか?

このカメラは、ほんとに微かに光る、その光を捕えることができます。街灯が1つもない真っ暗な湖の真ん中でも、行われた行為を、まず、捕えることができました。暗闇の中で光るもの、物体を撮影することができたということで、それらが素材として成立するということがわかりました。
僅かな光を撮るためにME20F-SHで撮影して、その可能性をみることで、作品の構成要素の選択肢が増えたのです。たとえば絵画でいえば、色数が増えるというようなことです。12色の絵の具なのか、24色の絵の具なのか、数が増えるからいい作品ができるというわけではないけれども、その可能性を増やすことで表現の幅ももしかして広がるのではないかと思います。

© HIRAKI SAWA

— 作品の世界観がさらに広がっていかれたようですね。展覧会の会場(写真)では、映像に合わせてインスタレーションを施されていましたが、映像作品と空間表現についての関係性についてこだわり、意図があれば教えていただけますか?

近年のスマートフォンやタブレットの普及と同時にインターネットで気軽に映像が閲覧できて、映像はますます身近なものになったように思えます。ただし、私は美術作家として映像は作品の一部であり、空間やその他の構成要素を含め、作品として見る人と一対一で向き合ってもらえる特別な場所と時間を発表していくことを心がけています。

© HIRAKI SAWA

— 2018年度のご予定は?

11月に神奈川芸術劇場で個展を予定しています。それと同時に公演されるダンスパフォーマンスの演出を、ダンサーの島地保武さんと一緒に企画しています。

— 2018年、4回目の審査員を務められる写真新世紀(作品)への期待があれば、お願いします。

手さぐりの状態から写真新世紀の審査員を続けさせてもらい、今まで多くの作品と向き合う機会をもらい、私自身もイメージとは何なのかと毎回勉強しております。毎年いろいろな作品を目の前にして依然として写真表現の可能性が尽きないことを実感しています。今年も新たな表現の可能性に挑戦をしている作品に出会えることを楽しみにしています。

© HIRAKI SAWA

※ キヤノン超高感度多目的カメラ「ME20F-SH」

人工照明や月明かりのない暗闇でも、星明かりなどの非常に僅かな光源だけで被写体を認識します。
このカメラをアーティストが使用すると感性が刺激され、新たな表現世界の可能性を広げ、見たことのない世界を写し出します。

PROFILE

さわ ひらきHIRAKI SAWA

1977年石川県生まれ。2003年ロンドン大学スレード校美術学部彫刻家修士課程修了。2002年『dwelling』で若手作家の登竜門East International Award受賞。リヨン・ビエンナーレ(2003年、2013年)、横浜トリエンナーレ(2005年)、アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2009年)、シドニー・ビエンナーレ(2010年)など国際的なグループ展に多数参加。主な個展に、「Lineament」(2012年、資生堂ギャラリー)、「Whril」(2012年、神奈川県民ホールギャラリー)、国内初となった大規模な個展「Under the Box, Beyond the Bounds」(2014年、東京オペラシティアートギャラリー)などがある。 2018年にはKAAT(神奈川芸術劇場)で個展ならびに、劇場パフォーマンスのコラボレーション作品を発表する予定。 生み出される映像作品と動画インスタレーションは、創造的空間を表し、鑑賞者を魅了する。ロンドン在住。

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