INTERVIEW

インタビュー|オサム・ジェームス・中川(写真家・2016年度 第39回公募審査員)

現在、インディアナ大学で写真の教鞭をとるオサム・ジェームス・中川氏。
NYに生まれ、日本とアメリカを行き来する中、
どちらの地でもアウトサイダーである自分を感じてきたという。
グランプリ選出審査会を終えて、第39回公募全体について感想をうかがいました。

— グランプリ選出公開審査会はいかがでしたか?

僕が優秀賞に選んだ金サジさんが、最終的にグランプリとなったことが本当に嬉しかったですね。彼女の作品の核となる部分は、在日の韓国人であるという境遇から生まれているもので、そんな彼女の問題意識が認められたわけです。

— 応募作品全体を通して、感じられたことはありますか?

いろんな作品がありましたが、写真と制作意図とのギャップを感じる作品が多数ありました。写真に対する自身の考えが深くない、またはその逆に、写真が追いついていないという印象です。アーティストとしてなすべきことは、その落差をどうすれば近づけていけるのかを考え、実際に表現していくことなのです。特に、日本国内からの応募作の多くは、制作意図が曖昧で、写っているモノについての話を避けている人が多い。ステートメントではたとえ話ではなく、現に写っているものの話をする必要があります。また、手法の説明に終始せず、作品で伝えたいことを濁らせないことが大切です。私事は大事ですが、作品が私事から、世の中や日本で起きている問題の争点に繋がるといいですね。そうすることで、作品は問題をはらんでくる。それが面白いんです。

— 海外応募はデジタルデータのみの受け付けになりましたが、海外、日本と応募作の違いを感じられることはありましたか?

これは海外、日本問いませんが、トレンドを追いかけるのではなく、写真新世紀ならではの、写真の概念を崩すようなリスキーな作品が出てきても良いのではないかと思いました。
特に日本の応募作品は私写真、心象風景のスタイルが多く、個から社会に向けて問題提示をしている作品が少ないなと思いました。

星条旗・アメリカンインディアン、ドライブインシアターシリーズより、1992 © OSAMU JAMES NAKAGAWA
キング牧師、ビルボードシリーズより、1993 © OSAMU JAMES NAKAGAWA

— プレゼンテーションする上で重要なことは?

プレゼンというのは、自分が発信者として中央に立ち、写真に見えない部分を伝える場です。作品のコンセプトをクリアーに伝え、作る過程がどんなものであったのか、そこで思ったことは何なのか。作品に託した、内面的なことや背後にある部分も伝えられるチャンスでもあるし、何よりも、なぜその作品を作らなければならなかったのかを明確にすることが大切です。

— ご自身が、制作をする上で意識されていることはありますか?

僕の作品制作には、二つの側面があります。一つは、パーソナル且つ自分の内面的なものを表現すること。もう一つは、社会や歴史、文化の盲点を指摘し、 日本とアメリカの、両方に疑問を問いかける。つまり、見たくないと思うものこそ、見たほうが良いのではないか、ということを意識しています。

僕にとっての写真とは、単に記録する、現実を可視化するということよりも、 自分自身もそうであるマイノリティという立場から(orという問題を含めて 、)イマジネーションを膨らませ、新しい写真表現に結びつけていきたいと思っています。

— プレゼンテーションも日本人が苦手な分野ですね?

実は、僕自身も決して得意ではないんですよ。アメリカに来てすぐのハイスクール時代に、英語もまだうまく話せないのにみんなの前でプリゼンさせられたから、ちょっとトラウマになっているくらいです(笑)。でも、アメリカでは子供の時から、自分の意見が言えるようにと教えられるんです。そうやって鍛えられているから、小さい子供でもみんなものおじせずにできてしまうんですよ。つまり、これはノウハウの問題ではなく、うまく話せれば良いということでもないんです。

— そもそも何を表現したいのかという核が自分の中にできていないと、伝わることもないということですか?

そう。できている人は、自然と話せるはずなんです。

— ありがとうございました。

Gama#009, 20010 © OSAMU JAMES NAKAGAWA
Gama #021, 2011 © OSAMU JAMES NAKAGAWA

Okinawa#011, 2008, バンタシリーズより、2008
© OSAMU JAMES NAKAGAWA

Saipan#002, 2008, バンタシリーズより、2008
© OSAMU JAMES NAKAGAWA

Okinawa #017, 2008, バンタシリーズより、2008
© OSAMU JAMES NAKAGAWA

INFORMATION

2017年3月、家族や、生と死をテーマに1998 年以来撮りつづけている『廻:Kai』シリーズを国際写真展AIPAD(NY)に出展。2018年、同作の個展を東京とNYCで開催予定。 10月、インディアナ大学グルンワルドギャラリーで、「家族、文化、自然、命」をテーマに撮りつづけている4人(オサム・ジェームス・中川、小川隆之、エメット・ゴーイン、イラージャ・ゴーイン)による展覧会を開催。2018年、日本に巡回予定。 12月、平敷兼七/ジェームス・中川展(沖縄 平敷兼七ギャラリー)開催予定。

PROFILE

オサム・ジェームス・中川OSAMU JAMES NAKAGAWA

1962年、米国ニューヨーク市生まれ。1993年、ヒューストン大学修士課程修了(写真学)。
1980年代より本格的に写真制作を開始し、90年代より世界各地で数多くの個展・グループ展に参加。日本とアメリカという2つの国にまたがる自身のアイデンティティを踏まえ、様々な作品を制作、発表。主な受賞歴に第一回東京国際写真ビエンナーレ第2位(1995)、 グッゲンハイム奨学金(2009)、第26回東川賞新人賞(2010)、さがみはら写真賞(2014)など。主な作品収蔵先は、メトロポリタン美術館、ジョージ・イーストマン・ハウス、コーコラン美術館、シカゴ現代写真美術館、ヒューストン美術館、クライスラー美術館、ネルソン・アトキンズ美術館、東京都写真美術館 、清里フォトアートミュージアム、佐喜眞美術館など。現在、インディアナ大学・ルースH. ホールズ名誉教授、写真学科長。 米国在住。

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