INTERVIEW

インタビュー|柴田 敏雄(写真家・2016年度 第39回公募審査員)

どこにでもあるようなものを被写体にしても、
新しい写真は撮れるんじゃないでしょうか。

代表作「日本典型」(1992年)のシリーズ等で、日本における写真表現の新時代を切り拓いてこられた柴田敏雄氏。
しかし、コンテンポラリー写真の第一人者として活躍される以前には、独自の表現を確立するため、
試行錯誤にもがいた時期は決して短くなかったといいます。そんな柴田氏が、審査会を終えた感想と、
写真家を目指す若者たちへのアドバイスを語ってくださいました。

新しい表現の可能性

— グランプリ審査会の感想をお聞かせいただけますでしょうか?

まず世界的な趨勢のお話として、どの展覧会を見ても、同じような写真ばかりが展示されるようになってしまったと思うんですね。たとえば、ベッヒャー系のトーマス・ルフやアンドレアス・グルスキーの作品なのかなと思ってクレジットを見てみると、作家は違う人だった、ということが多いのです。つまり、いくつかの確立された分野があって、そこにあてはまるものしか出てきていないという印象があるわけですが、今回の審査会でも同じような傾向にあると感じました。

— 応募作に独自性のある作品が少なかったということでしょうか?

僕らが若かった時は職業として成り立たないものに向かってもがいていました。その分、純粋にがんばることができたと思うんです。今はギャラリーも美術館もたくさんあるし、チャンスがたくさんあるから、職業化していて、逆に創造性が追求できなくなっているのかもしれない。それに技術も進歩しているから、良いカメラで撮って、キレイに映るモニターで画像をみると、どれも素晴らしく見えてしまう。それを完成形だと思ってしまうんですね。昔はプリント一枚を作るのも大変でしたが、そのかいあって、自分の中の指標を作ることができました。今の方達はあまりにも豊かなために、かえって自分だけの見方や表現を見出すことが難しくなっているんじゃないかと思います。

常磐自動車道 守谷サービスエリア1986年 / Moriya Service Area, Jyoban Expressway 1986 © TOSHIO SHIBATA

新潟県北魚沼郡湯之谷村 1989年 / Yunotani Village, Niigata Prefecture 1989 © TOSHIO SHIBATA

Grand Coulee Dam, Douglas County, WA 1996 © TOSHIO SHIBATA

— 写真家を目指している方たちへアドバイスをお願いします。

若い人は、何に出会ってもはじめてのことが多くて、それを新しいものだと思いこんでしまうことがある。でも、美術館に行ったり、歴史の知識をある程度知っていくと、それが本当に新しいものか、すでにあるものの焼き直しなのかということがわかってくると思います。それと同時に、自分の内面や、やっていることをしっかりと見つめることが必要だと思うんです。そうするとことで、知識で得たことではない、他の人とは違う部分を、むき出しにしていけるんじゃないでしょうか。知識の部分で自分を作っていこうとしたところで、世の中にはもっと頭の良い人や、もっと知っている人がたくさんいて、太刀打ちできなくなるということは、僕自身が経験してきたことです(笑)。反対に、自分の意見を持ったり、自分が感じたりするのは、その人だけができることだから、他の人と自分は何が違うのかということを追求していってほしいと思いますね。

高知県土佐郡大川村 2007年 / Okawa Village, Kochi Prefecture 2007 © TOSHIO SHIBATA

— 写真というメディアには、まだ可能性があるとお考えですか?

たとえば風景写真で言えば、世界中で人間が行っていないところはない、と言われます。実際、そうではあるけれども、捉え方はそれぞれ人によって違うわけですから、誰かが行ったことがあるところでも、それに対する考えが違えば、また別のものが生まれてくると思います。だから、必ずしも人類の未踏の地ではなく、どこにでもあるようなものを被写体にしても、新しい写真は撮れるんじゃないでしょうか。写真というメディアと表現の考え方を結びつけて考えれば、まだまだ可能性はあると僕は思っています。

栃木県日光市 2013年 / Nikko City, Tochigi Prefecture 2013 © TOSHIO SHIBATA
Second Scheldt Bridge, Temse, Belgium, 2013 © TOSHIO SHIBATA

PROFILE

柴田 敏雄TOSHIO SHIBATA

1949年東京生まれ。東京芸術大学大学院油画専攻修了後、ベルギーのゲント市王立アカデミー写真科に入り、写真を本格的に始める。
日本各地のダムやコンクリート擁壁などの構造物のある風景を大型カメラで撮影、精緻なモノクロプリントで発表し、1992年、写真展「日本典型」で第17回木村伊兵衛賞受賞。同年、ニューヨーク近代美術館にて「New Photography 8」に選出され出品、1997年にシカゴ現代美術館で個展「Toshio Shibata」を開催するなど、アメリカをはじめ国際的に活躍。2000年代よりカラーの作品にも取り組み始め、その表現の領域を広げる。2008年に東京都写真美術館で「ランドスケープ−柴田敏雄」展を開催し、翌2009年に日本写真協会作家賞、第25回東川賞国内作家賞を受賞。近年の主な展覧会に「与えられた形象−辰野登恵子・柴田敏雄」(2012年・国立新美術館)、「Toshio Shibata: Constructed Landscape」(2013年・ピーボディ・エセックス美術館、アメリカ)などがある。国立東京近代美術館、国立国際美術館、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、ポンピドゥー美術館など国内外多数の美術館に作品が収蔵されている。

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