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2016年度(第39回公募)グランプリ選出公開審査会報告

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PRESENTATION

金 サジ
「物語」

私は在日韓国人三世です。私のような「ディアスポラ」(民族としての出身国や地域を離れて生活する人々)と呼ばれる人は世界にたくさんいます。

国や民族の問題が起こるたび、「自分はいったいどこの誰なのか」という疑問を持つようになりました。そのせいか、日本にいる他の民族やマイノリティに親近感を持ち、そのようなコミュニティに通うようになりました。私はコミュニティを通して「伝承」と出会い、頭ではまったく理解できないことに体が勝手に反応することがあり、自分の中に懐かしいような、うれしいような、複雑な感情が流れ込んでくるのがわかりました。

これはすごく大切なことだと直感で理解した私は、そのとき出会った音、色、歌、衣装など、自分が出会って大切だと思ったものを自分の中に集めていきました。するとそれが、どんどん繋がりだしたのです。見たり聞いたり感じたりしたものがどんどん繋がって、物語性を持ったイメージとして私の中に現れてきました。それを写真に撮ったのが、私の作品です。

人は国や民族で人を分けてしまうことがあります。社会や歴史が作った「見えない境界線」が無意識のうちにできあがっていて、それが日常のふとしたときに出てきてしまう。私はそういうものと出会ったとき、いい気持ちにはならなかったし、同時に、自分自身の中にもそれがあることは否定しきれませんでした。

物語には、人の固定観念を壊す豊かな力があると思っています。私の写真に民族的なモチーフがあるのは、国や民族を記号的に見てしまう人間の考えを壊したいという思いが込められているのかもしれません。

これからの世界は、人種も、男女も、価値観も、今よりもっと複雑に入り交じっていくでしょう。私は写真を見ることで自分と世界を接続してきたものをたくさん知り、関わっていきたいと思っています。

この物語がどこに行こうとしているのか、何を表そうとしているのかは、私にもまだわかりません。でも今は、ただ自分の中に現れてくるものを写真に撮っていきたいと思っています。

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審査員コメントと質疑応答

オサム・ジェームス・中川氏

僕はこの作品を見たとき、記号がいっぱいあるのに解けなくてどうしていいかわかりませんでした。僕もアメリカと日本のディアスポラだから、中間の、液体のようなところで動いている自分がいて、はっきりとしたものじゃない何かで表現したい、そういう思いをあなたの作品からも感じました。解けない記号を解こうとすること、あなたの作ろうとしている物語性、そしてその物語は何なのかということも考えさせられました。

そして、やはり、韓国と日本という、あなたのビジュアルに入ってくるイメージが、すごく問題を孕んでいるように見える。はっきり言ってしまったらみんなに何か言われそうで、けれどそこをあなたはうまく自分の言葉でそっと提示しています。みんなに考えさせて、あなたの写真を見たあと外に出てから「えっ」と思うような、不思議なコミュニケーションが伝わってきます。
作品にはポートレートがあり、スティルライフがあり、動物も入っていますね。モチーフはどのように選ぶのですか。

(金)生活の中で出会った人に聞いた話や伝承が、自分の中では身近なことになっています。例えば狐が神様であるとか。それを素直に形にしています。実際に像ができあがってから、いろいろ調べます。調べると、他の伝承とつながっていることもあり、見た人がいろいろな連想をするのかなと思います。

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PRESENTATION

  • 金 サジ

    「物語」

  • 松浦 拓也

    「音響写真」

  • 金 玄錫

    「私は毎日、顔を洗っています」

  • 櫻胃 園子

    「フィフティーン ミニッツ オブ フェイム」

  • 松井 祐生

    「hidden space, just like」

  • 高島 空太

    「2016」

  • 河井 菜摘

    「sampling time」

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