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2019年度(第42回公募)グランプリ選出公開審査会報告

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PRESENTATION

中村 智道
「蟻のような」

最初に、なぜ「蟻」なのかについてお話しします。僕はこれまで写真という表現をしたことはなかったのですが、何か出来事があるたびに「蟻」で表現をしてきました。一つ前の作品はアニメーションでした。

僕は自分自身を蟻のような小さな存在であると思うことがあります。今回は父の死がありました。父は脳幹梗塞で半身麻痺となり、4年の闘病の末、亡くなりました。僕はその間に過労で体を壊し、もう少しで命を落とすところまでの状態に陥りました。医療措置によりそれはなんとか乗り越えましたが、治療は今も続いています。

僕には自閉症スペクトラム(ASD)という障がいがあります。小さい頃、蟻ばかり見ていたのですが、それが蟻の原点です。一つのものを見始めたら、ずっとそれを見ている感じで、幼い頃だったので、今思えば残酷だと思うのですが、蟻に水をかけたり殺したりもしました。

父の死も重なったのですが、自分自身も死を近く感じたときに、蟻のように無力だと思いました。父の葬式のとき、自分の頭の中には、巨大な何かが僕を踏みつけて去って行った、そんなイメージがありました。死と交錯するイメージを、僕はすぐに忘れてしまうので、忘れないうちに作品にしたいと考えました。しかし、僕がやっていたアニメーションという手法は、僕自身の体を壊す作業だったこともあり、不可能でした。でも、僕の数少ない社会との接点である表現を諦めたくなくて、写真という手法をとることにしました。

アニメーションでもカメラを使います。アニメーションではストーリーが存在しますが、写真でアニメーションのようなことをやると説明的になりすぎます。ではどのような方法にすればいいか。僕は絵も描いていたのでわかっていたのですが、順路で並べるのではなく同時に並べることができることが静止画の利点です。それが僕にとっての写真でした。

作品には重複するイメージがあります。それは、幻影と、再生不可能な物質の差異を表そうとした感じです。生きるとか死ぬとかに近いような、似たような何かを感じる、そういった感じがありました。

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審査員コメントと質疑応答

リネケ・ダイクストラ氏(選者)

私がまずお伝えしたいのは、あなたはとても素晴らしい方だということです。感情を絵で表現しようとトライする内容はとても素晴らしいと思います。あなたの作品で良いと思うところは、フィクションとファンタジー、現実と想像力が組み合わさっているところです。プレゼンテーションもとても良かったと思います。大きな画面に蟻が映し出されると恐怖を感じます。拡大によってさらに力が増したと感じました。また、絵と写真が重なり合っているところも良いと思いました。とても力強い作品だと思います。

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ポール・グラハム氏

お父様が亡くなられてとても辛い思いをされたと思います。でもそれを乗り越えて、有意義なものに変化させたこと、多くの人に伝わるものに変えたとことが素晴らしい。これが芸術の素晴らしさだと思っています。芸術には個人の経験、感情をこのようなポジティブなものに変えられる力があると思っています。

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安村 崇氏

非常に現実的な質問ですが、蟻をどのようにして並べたのですか?

(中村 智道)A3用紙の上で隊列を作って歩いている蟻の姿を数百枚撮影し、隊列の流れをくずさないように、矛盾のないように画像処理で不要な部分を削除して、人の形に作成しました。

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PRESENTATION

  • 田島 顯

    「空を見ているものたち」

  • 中村 智道

    「蟻のような」

  • 幸田 大地

    background」

  • 江口 那津子

    「Dialogue」

  • 𠮷田 多麻希

    「Sympathetic Resonance」

  • 遠藤 祐輔

    「Formerly Known As Photography」

  • 小林 寿

    「エリートなゴミ達へ」

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