PRESENTATION
松浦 拓也
「音響写真」
私は映像系の大学に進学してカメラを握るようになり、写真について考えるようになりました。また、視覚と音の関係に興味があり、それを写真で表現できないかと思っていました。
それから、写真的なアプローチで音を写真にしたいと考え、さまざまな場所へ出向きました。音をサンプリングするかのように撮りだめた地平線や水平線の写真をつなげ、左から右へ流れるタイムラインに見立て、1つの音楽の連なりとして表現しました。しかしこの作品は、私が持っている音のイメージの視覚化であり、物理的に音をフィルムに収録できたわけではありません。この「物理的」をキーワードに作ったのが今回の作品です。
撮影方法はフォトグラムといって、カメラを用いず印画紙の上に直接ものを置いて感光させる方法です。
スピーカー、銀盤、印画紙を用意し、銀盤の上にセットした印画紙全体に流体(砂糖)を振りかけます。引き伸ばし機の絞りと露光時間をセッティングしたら、サイン波を出力し、銀盤・印画紙・流体に音を伝えます。周波数の音域によって幾何学的な模様が出現しては変わっていきます。その間露光し続け、流体の動きを印画紙に定着させます。
完全暗室の中、一人で作品を制作していると、カメラで被写体を撮る際に感じる被写体との対峙を感じないことがあります。写真という視覚表現でありながら、制作している間は視覚を奪われ、聴覚だけで制作しているからではないかと思います。そのことに気づいたのは、完成したネガをデジタルスキャンして像を確認したときです。そこには私の知らない世界が写し出されていました。またその瞬間こそが、見ることができない音を写真に定着させた瞬間だと思いました。
審査員コメントと質疑応答
澤田 知子氏
デジタル作品が多いなか、すごくアナログ感があって、写真なんだけれど写真表現にはとらわれていない感じが、自分の作品づくりと似ているところがあると思いました。
いろいろと試行錯誤されたうえで、できあがったシリーズであることもわかりました。
制作中は視覚化できず、完全にできあがって初めて目で見ることができる、というところも気になりました。
フィルムをスキャンして、インクジェットプリンタで出力されていますが、その手法を選ばれたのはどうしてですか。
(松浦)小さいサイズで展示すると、像を作っている粒の1つ1つが消えてしまうため、できるだけ大きく出力しようと思いました。大きいロールの印画紙が手に入ればそれでやりたかったのですが、手に入れるのが難しかったのでインクジェットで出力しました。
アンナ・ダネマン氏
音はどのように選んだのですか。また、音を出す手法の選択についても教えてください。
(松浦)音は、自分で周波数を動かせるものを用意しています。また、音にあまり意味を持たせたくなかったのでサイン波を使いました。