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2017年度グランプリは、トロン・アンステン氏/ベンヤミン・ブライトコプフ氏に決定!
2017年11月10日(金)、東京都写真美術館にて写真新世紀2017年度(第40回公募)グランプリ選出公開審査会を開催しました。 写真新世紀は、カメラの領域がフィルムからデジタル、静止画から動画へと拡がるなか、ジャンルを問わない新しい視点による作品、作家の創作活動を支援できるよう応募システムを整え、グローバルに公募を行っています。
今回は新たに4名の審査員、アレック・ソス氏(写真家)、サンドラ・フィリップス氏(サンフランシスコMOMAキュレーター)、ダヤニータ・シン氏(アーティスト)、上田 義彦氏(写真家)をお迎えし、さわ ひらき氏(美術家)、澤田 知子氏(アーティスト)、清水 穣氏(写真評論家)の全7名の審査員により審査が行われ、応募者1,705名の中から優秀賞7組8名、佳作11名が選出されました。
グランプリ選出公開審査会では、優秀賞受賞者7組8名(喰田 佳南子氏、214氏、溝渕 亜依氏、澤田 華氏、トロン・アンステン氏/ベンヤミン・ブライトコプフ氏、山口 梓沙氏、ジャンカルロ・シバヤマ氏)がそれぞれプレゼンテーションを行い、審査員との質疑応答が交わされました。そして、審査員の合議の下、本年度のグランプリはトロン・アンステン氏/ベンヤミン・ブライトコプフ氏に決定しました。
開会
2017年11月10日(金)、午後3時00分。期待と緊張感が高まる独特の雰囲気のなか、グランプリ選出公開審査会が開会しました。まずグランプリ候補者である優秀賞7組8名が緊張した面持ちで着席、続いて審査員6名が登壇しました(アレック・ソス氏は欠席)。
続いてキヤノン株式会社 常務執行役員 中村 正陽より開会の挨拶を行いました。
プレゼンテーション
優秀賞7組8名は、それぞれ持ち時間10分の中でプレゼンテーションを行い、自らの言葉で作品の背景や制作意図、作品への思いを語りました。審査員からは、作品に対する賛辞や鋭い批評、質問などが寄せられ、それぞれの受賞者が真剣な表情で応答しました。
表彰式
プレゼンテーション終了後、別室にて約1時間20分のグランプリ審議が行われ、グランプリが決定しました。
表彰式で2017年度のグランプリが発表され、受賞者のトロン・アンステン氏とベンヤミン・ブライトコプフ氏には、奨励金として100万円ならびに副賞としてキヤノンデジタル一眼レフカメラ「EOS 5D Mark IV・EF24-105L IS II USM レンズキット」が贈呈されました。
続いて、昨年度のグランプリ受賞者である金 サジ氏より花束が贈られました。金氏より、「物語性やメタファーや絵作りの部分を興味深く拝見しました。同じ“作品を作る人”として、同じように感じるところや違いから、新しい発見や気づきがたくさんあると思います。今日のような出会いや縁を、これからの作品づくりに活かしたいと思います」とお祝いの言葉が述べられました。
トロン・アンステン氏とベンヤミン・ブライトコプフ氏は、「私たちが受賞するなんて、驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。この場をお借りして、私たちの撮影を助けてくれた撮影班のみんなにも感謝の言葉を贈りたいと思います。これからも新たなプロジェクトに献身し作品を作っていきます」と受賞の言葉を述べました。
総評
さわ ひらき氏
審査はとても長引きました。僕が最初にお二人を選んだのは、イメージの強さと、イメージを作る能力の高さです。作品をディベロップする段階でフィクションを混ぜたことや、シンボルを挙げたこと、それらがある部分では直接的に、ある部分では直接的すぎず表現できていました。またそれらは上手にシークエンスで編集され、一つの作品にまとめられ、クオリティのとても高い映像作品になったと思います。最終的に審査員の皆さんの票が動いたのも、作家が持っている技術、才能、そして何をやったかという結果だと思いました。今後の作品も期待しています。
清水 穣氏
審査が長引いたのは、一つはこの賞が「写真賞」であるからです。優秀賞を選ぶときにもある種の危惧を覚えたのですが、ますます多くの人たちが写真を撮らなくなっています。撮るのではなく、ネットからダウンロードした画像を素材として、写真とは何かというコンセプチュアルな仕事をする、あるいはもう少しアナログに、蚤の市で写真を見つけてそれを素材とする、つまり写真を“使う”人たちがすごく増えています。
しかし、写真をとにかく職人のように撮る、ある種の工芸的なクオリティを評価するだけであれば、この賞はないわけです。現在の写真の幅の広さに応じた、写真とは何であるべきか、このグランプリにおいてどんなメッセージを送るべきなのかという問いに対し、審査員の態度が非常に揺れたということです。もしこれがアートの賞であれば、澤田さんをグランプリとすることに特に問題はなかったと思います。イメージを作って、それを編集する、あるいは写真を見て判断するというクリエイティブな部分をどれだけ入れるか、今回はそれらをまんべんなく兼ね備えていた作品がグランプリに選ばれたということです。写真新世紀が流動的な時代を指し示す先端的な賞であるために、どういう人をグランプリにするかという小さな実験が今回の審査会で行われた感じがしました。
受賞作は映画というよりは、いくつかの動く写真がシークエンスになって連なっているものです。その作られたイメージの強さもあり、そして、動画と静止画という区別が本当に本質的なのかという問いもあり、さらに、それをどうやってプレゼンテーションしていくか、どうやってエディットしていくかということもあって、それらがバランス良く含まれていたことがグランプリにふさわしかったのだと思います。
だからといって、今はもうスティールじゃだめなのか、写真を見ることに特化した表現ではだめなのかというと、そうではありません。ただ、あまりにも一つの傾向として、自分でまったく写真を撮らない、イメージを作らずただ使うという傾向があり、でも、そのことにためらうのは保守的ではないかという考え方もあるかとは思いますが、我々はまだそこまではいかないことにして、やはりイメージを作ることを大切にしてほしいし、それをそう簡単に投げ捨てないでもらいたいと思っています。
2017年のグランプリは私たちにとっても意外な人が受賞しました。だけどその結果に私たちはすごく満足していますし、多角的なメッセージになっていればと思います。