PRESENTATION
トロン・アンステン & ベンヤミン・ブライトコプフ
「17 toner hvitt」
私たちは同じアカデミーに参加し、展覧会を通じて知り合いました。お互いの作品を知ってぜひコラボレーションしようということになったのです。
今回の作品では、ワンショットムービーにメッセージを込め、それをフィルム作品にしようということで、スケッチを描きながら2日2晩じっくり話をしました。そして神話的な要素、メタファーをストーリーラインで表現することになりました。叙事詩というビジュアルな言語をフィルムでとらえたい、これが私たちの旅の始まりでした。
「北極」という言葉を聞くと、すべてが真っ白な世界に思えますが、実は白の中にさまざまな濃さの影があります。それは極地の帝国主義ともいえる影であり、そして、北極をより重要に見せるコンテキストでもあります。
プロローグでは、白い風景の中、黒いビニール袋にくるまれた「人間の鼓動」がおかれ、それがガソリン式発電機に繋がれた機械によって動かされています。
そして、主役の出てくるシーンに移ります。名前を持たない白いクリーチャーが、白の中にある影を皆に見せていきます。見る側としては、この主役は何なのかがわからないまま物語を一緒に歩みます。「白」を感じながら、物語を一歩一歩、主役とともに歩いて行くのです。
そこから鱈漁業のシーンになり、叙事詩の二番目の主人公が出てきます。鱈という魚、これは本当に魚なのかという話になるわけです。この土地の人たちは鱈漁業で生きてきて、社会を形成してきた通底音としてあったものが鱈でした。だから第二の主人公になるわけですが、ただこれは象徴的なものです。見る側は、そこから物語を紡ぎ出すことになります。
ストーリーがわからなくても、構成要素やコンポジションを楽しむことができます。例えば、「雪だるまみたいなのがいて、すごく目に映ったよ」とか、「ロシアの将軍が旗を降ろしているところ、これこそ私の写真だ」などと言ってもらえたら、心が躍ります。
私たちは「動く写真」を撮りました。だから、一つのシーンを切り取って「これがいい」というリアクションだったとしてもかまわないのです。直感的な反応こそが私たちの求めるものであり、歓迎するところです。
私たちが記録したシーンは夜11時から朝3時の間に撮影されたものです。外にいると、薄いあかりが、まったく暗くならない夜が私たちを包んでいました。白の中にある美しい影の数々を捉えることができたのも、この要素があったからです。私たちは何一つ人工的な編集は加えませんでした。見る人に、そこに何らかのストーリーを感じていただき、動画の詩のように思っていただければ嬉しく思います。
審査員コメントと質疑応答
さわ ひらき氏
ベンヤミンさんは昨年も応募されていて、別の方が選んで佳作を受賞されていた。そのときのイメージをすごく覚えていて、今年また目に引っかかりました。昨年、僕が選ばなかった理由は、現実感が強すぎて僕には受けとめられなかったからです。今年の応募作品は、サブジェクトの強さは去年以上かもしれないのですが、フィクションの部分やポエティックな要素が増えていて、僕が見てもいい意味での勘違いができていました。映像はすごく強いのですが、見る側の余白があり、作品として面白いと思います。
シークエンスを撮るとき、映画のようにストーリーボードを準備した上で撮影を進めたのか、それともフィールドにとりあえず出てアイディアを実践していったのか、どちらでしょうか。
(ベンヤミン)撮影前にメタファーを書き出して、そこから撮影計画を立てました。それぞれが突出した絵画のようなアイディアで、それをつなげていく、非常に大きな絵画が壁中に並んでいるようなイメージで撮りました。
(トロン)約1カ月かけて計画したシーンを撮っていきました。私はシーンを作る発明家のような役割でしたが、非常にリラックスしていて、彼も私のアイディアや意図をきちんと理解してくれていたので、撮影に反映することができました。仮に二人の間にギャップがあったとしても、それもコラボレーションの中ではいいと思いました。
(さわ)これは映画なのかということを考えたとき、今日改めて見て、やはり映画ではなく、もう少しスカルプチャーだと思いました。スカルプチャーなのか写真なのかということを含め、いい作品だと思いました。