野鳥の撮りかた19
シャッター速度を変えると、表現も変わる
野鳥は飛ぶ、小さい、近づけないなどの理由から「速いシャッター速度で動きを止める」、「シャッター速度を上げて、ぶれていない写真を撮る」と書いてきました。しかし、ピタリと動きのとまった写真だけが、野鳥写真の一番良い表現方法ということではありません。
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ミユビシギ
シャッター速度の工夫の代表「流し撮り」はスポーツや乗り物の撮影でよく用いられる。しかし、野鳥撮影では、飛翔以外に流し撮りはあまり見かけない。列車や飛行機と違って、鳥は地上を走ったり急に立ち止まったり、あらぬ方向に行ってしまったり。動きが読みづらく、撮影しにくいためだろう。しかし、障害物が少ない海岸の浜などを走るシギやチドリなら狙うことができる。
絞り : F11
シャッタースピード : 1/100秒
ISO感度 : 100
露出補正 : -1
焦点距離 : 321mm
一眼レフカメラ(APS-Cサイズ)
シャッター速度で写真はどう変わる?
コラム「チャレンジ!流し撮り」で触れたように、スローシャッターで周囲を流すことで、主役である野鳥を引き立てたり、翼のブレ具合により飛翔する姿に躍動感を加えることもできます。シャッター速度を変えることで、同じ時間、同じ場所で撮影しても、写っている世界がまったく違うこともあります。どのように写真が変わるのか?今回は実例を見ながら、シャッター速度の決め方のポイントを探しましょう。ここでは、シャッター速度について以下のように定義します。
- 1/1000秒以上を「高速シャッター」
- それ以下を「通常シャッター」
- 1/60秒以下を「スローシャッター」
スローシャッターで水流を表現
川の中の岩にとまるオシドリの群れ。早朝で天気は曇り。手ぶれを起こさないように、「高速シャッター」に設定して撮影する。オーソドックスな手法の「普通の写真」です。
絞り : F5.6
シャッタースピード : 1/1250秒
ISO感度 : 1600
露出補正 : 0
焦点距離 : 400mm
一眼レフカメラ(フルサイズ)
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同じ場所で、同じ時間に、スローシャッターで撮影したのがこちらの写真。川の流れが白濁しており、とても同じ場所とは思えない。スローシャッターで、これほどまでに表現が変わってくるのだ。
絞り : F25
シャッタースピード : 0.6秒
ISO感度 : 100
露出補正 : +0.7
焦点距離 : 400mm
一眼レフカメラ(フルサイズ)
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スローシャッター撮影のポイント
スローシャッターで撮影するときは、三脚にしっかりカメラを固定する。さらにブレを防止する機能が誤作動しないように、ISシステム(ブレ防止機能)をOFFにする。シャッターはブレを防止するため2秒タイマーで切るか、電子レリーズやリモコンで切る。当然、鳥は呼吸したり、多少動いたりするものだ。何度もシャッターを切って、後からいいものを選び出そう。
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シャッター速度で広がる表現
速いシャッター速度のほうがスローに見える?
高曇りの夕方、柔らかな光だったので、F18に絞り込み、シャッター速度を1/5秒にして撮影。しかし、光の加減で水面が光っている部分が少ないため、川の流れにシルキーな白濁感が表現されなかった。
絞り : F18
シャッタースピード : 1/5秒
ISO感度 : 100
露出補正 : -0.7
焦点距離 : 500mm
一眼レフカメラ(APS-Cサイズ)
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前の写真と同じ場所で撮影。ササゴイが少し深いところに移動したので、川面が反射して白く見えるようになった。前の写真より速いシャッター速度なのに、白い川面の印象が強いため、川の流れが粘りを持っているように見え、よりスローシャッターで撮ったような写真になった。川の流れを表現するときは、シャッター速度を遅くするだけでなく、写りこむ背景にも注意する必要がある。
絞り : F16
シャッタースピード : 1/13秒
ISO感度 : 100
露出補正 : +0.7
焦点距離 : 500mm
一眼レフカメラ(APS-Cサイズ)
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ふりふり尾羽を写し止める
速いシャッター速度のほうがスローに見える?
曇り空の昼頃に河原でキセキレイを撮影。絞り開放のAvモードでの撮影だったが、シャッター速度は1/60秒と遅め。普通に撮れれば良いと思っていたが、遅めのシャッター速度だったので、尾羽を振る瞬間の動きを表現することができた。
絞り : F5.6
シャッタースピード : 1/60秒
ISO感度 : 200
露出補正 : -0.3
焦点距離 : 700mm(500mmにx1.4テレコンバータを使用)
一眼レフカメラ(フルサイズ)
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上の写真と場所は違うのだが、シャッター速度は同じ1/60秒。2つの写真の尾羽部分に注目してほしい。同じようにブレているのだが、こちらは暗くなっているところに尾羽が重なったため、ブレがわかりづらくなり尾羽がないように写ってしまった。この写真で尾羽を止めて写すなら、1/250秒以上に設定すればいいだろう。
絞り : F5.6
シャッタースピード : 1/60秒
ISO感度 : 200
露出補正 : -0.3
焦点距離 : 700mm(500mmにx1.4テレコンバータを使用)
一眼レフカメラ(フルサイズ)
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水しぶきの表現
この水場は少し暗いので、ISO400・AvモードでF4の場合、シャッター速度は1/160~1/100秒前後にする必要がある。水浴びの時に飛び散る水滴の形は運が良ければ、流れるもの、止まって見えるものの2通りを表現できる。しっかりと水滴を止めたいのならISO感度を上げて高速シャッターにすればいい。より躍動感を出したければ感度を下げるか、絞りを絞り込んで、より遅いシャッター速度にすれば良いが、やりすぎるとブレブレで何が写っているかわからなくなるので注意が必要だ。
絞り : F4
シャッタースピード : 1/125秒
ISO感度 : 400
露出補正 : -0.3
焦点距離 : 500mm
一眼レフカメラ(APS-Cサイズ)
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雨粒の表現
バックが暗いところにオシドリがとまった。雨を表現しようと、シャッター速度1/100秒で狙った。オシドリの身体にはたくさんの水滴がつき、雨が降っている雰囲気はわかるのだが、肝心の雨粒が細かすぎてよく見ないとわからない。通常、雨粒が空に点々に写っているようにするには1/250秒以上で撮ればいい。流れるようにするには1/30~1/100秒がよい。それよりも遅くすると、流れすぎてわからなくなってしまうことがある。
※状況は明るさなどで変わるのであくまで目安
絞り : F4
シャッタースピード : 1/100秒
ISO感度 : 200
露出補正 : -1.3
焦点距離 : 500mm
一眼レフカメラ(フルサイズ)
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上の写真と同じ状況、同じシャッター速度1/100秒なのに、こちらには雨がしっかりと写っている。雨粒の大きさや降り方で写り方が変わってくるのだ。これほど写るのなら、1/60秒あたりで流し撮りしたいが、シャッター速度を遅くすることで手ブレと被写体ブレに注意をしないといけなくなる。
絞り : F8
シャッタースピード : 1/100秒
ISO感度 : 200
露出補正 : -0.7
焦点距離 : 1000mm(500mmにx2テレコンバータを使用)
一眼レフカメラ(フルサイズ)
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不必要にISO感度を上げないためのシャッター速度
曇りの夕方。セイタカシギの親子がいたので、車の窓から狙う。親子自体は激しく動いておらず、必要以上にISO感度を上げて、シャッター速度を速くしなくてもいいので、ISO400・F5.6・1/500秒で撮影した。私は車の窓から撮影する場合、被写体が激しく動いていなければ1/500秒なら十分手ブレを押さえられる。自分で手ブレを止められるシャッター速度を知っていれば、必要以上にISO感度を上げなてくも撮影することができる。
絞り : F5.6
シャッタースピード : 1/500秒
ISO感度 : 400
露出補正 : -0.3
焦点距離 : 700mm(500mmにx1.4テレコンバータを使用)
一眼レフカメラ(APS-Cサイズ)
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戸塚先生コラム
ブラインドタッチをマスターしよう!
ブラインドタッチというとPCのキーボードを見ないで画面を見ながらキーを打つ動作を思い浮かべると思います。カメラも同じです。みなさんは撮影中に設定を変えたくなった時、一旦カメラを下ろして、背面モニターやボタンを確認しながら設定を変えていませんか?
PC同様、設定の変更を背面モニターで確認せずにカメラのファインダーをのぞいたまま行うことを「ブラインドタッチ」と言います。
ブラインドタッチの何がいいのかといえば「チャンスを逃しにくくなる」ということです。大事なシーンでファインダーから目を離してモニターで設定を変えていたら、「一瞬のチャンス」を逃すことになります。カメラのボタンはどこを押せば「何が設定できるか」が決まっています。また最近のカメラの多くは、各種設定値がファインダーの中に表示されるので、いちいち背面モニターで確認せずに、ファインダーをのぞきながら調整ができます。日頃から各ボタンの位置や設定内容を理解して慣れることで、一瞬のチャンスに強くなるはずです。