写真新世紀 2020年度 [第43回公募]

審査員(敬称略)

ポール・グラハム写真家

写真は美しい表現手段で、「見ること」「記憶」そして「光」でつくり上げるものです。自分の家でも、地球の裏側でも撮ることができて、自分自身も、家族も、赤の他人も被写体にできます。見たものを記録するというシンプルな作業ですので、かなり簡単なように思えます。その反面、上手に表現する――本当の意味で「見る」――のがとても難しい芸術的な作業でもあります。最近は内面的なものを撮る写真家が圧倒的に多く、外の世界ではなく内の世界の真実をとらえようとする傾向が強くなっています。時にはそれもいいでしょうが、外の世界をシャットアウトしてしまうのは残念なことです。外の世界と関わりを持とう。新しい手段で自分の生活を表現してみよう。自分が誰であるかを伝えよう。どんな出来事や人びとや場所が私たちの生活を形づくっているかを明らかにしよう。私は写真家みんなにそう望み、そうするようにアドバイスしてきました。この姿勢こそが、人間らしさに明確に貢献できるのではないでしょうか。すなわち、いろんな人の生活のとらえ方、人生の生き方、物事の感じ方を理解することにつながるのだと思います。

プロフィール

イギリスの写真家。ニューヨーク在住。氏の作品は35年以上にわたって世界中で展示されており、2009年のニューヨーク近代美術館での個展や、2010年のホワイトチャペル・ギャラリーでのキャリア中盤の作品を集めた回顧展は特に有名。また、第49回ヴェネツィア・ビエンナーレや、テート・ギャラリーが20世紀の写真家をテーマにして主催した「Cruel and Tender」などの著名なグループ展にも参加している。写真集も20冊以上出版しており、代表作に2008年出版でパリ写真賞の過去15年で最も価値ある写真集として選出された『a shimmer of possibility』がある。グッゲンハイム奨励金やドイチェ・ベルゼ写真賞のほか、写真界最高の栄誉とされるハッセルブラッド国際写真賞など、受賞歴も多数ある。

オノデラユキ写真家

写真的というのは写真的ではないこと?
先ず写真が発明されて間もない頃を想像してみたい。カメラという光学器械で目の前の事象を平坦に定着させる、あるいは自分の姿を写真を介して眺める。このような行為は極めて奇妙な経験ではなかったか。この最初の「奇妙さ」を探求することも私が写真にこだわる理由のひとつだ。

アート=芸術とは、それが成立するためにはそのメディウムに対する問いと探求がなければならない、ということは自明であろう。まずはすんなり受け入れず、その表現手段自体に作家は抵抗しなければならないのだ。 そして、何といってもオリジナリティ、オリジナリティ、オリジナリティ。これこそが作品の作品たる中心だ。何よりそこを見て行きたい。 私は第一回写真新世紀(1991)の受賞者。「写真」でさえあれば、サイズや表現形態を一切制約しないこのコンペティションは当時大きなインパクトがあった。進化し続ける「写真」は今でも可能なのか。不自由な社会に於ける自由な表現の場、そこに現れる作品群とは。これらに出会えるのだろう、と想像しただけでも興奮してしまう。

プロフィール

東京生まれ。1993年よりパリにアトリエを構え世界各地で活動を続ける。
カメラの中にビー玉を入れて写真を撮影したり、事件や伝説からストーリーを組上げ、それに従って地球の裏側にまで撮影に行ったり、あらゆる手法で「写真とは何か」「写真で何ができるのか」という実験的な作品を数多く制作し、写真という枠組みに収まらないユニークなシリーズを発表。さらに自分自身で2m大の銀塩写真をプリントし、油絵の具を使ってモノクロ写真に着彩するなど、数々の独特な手仕事の技法でも知られる。
その作品はポンピドゥ・センターを始め、サンフランシスコ近代美術館、ポール・ゲッティ美術館、上海美術館、東京都写真美術館など世界各地の美術館にコレクションされている。
主な個展に国立国際美術館(2005)、国立上海美術館(2006)、東京都写真美術館(2010)、ソウル写真美術館(2010)、フランス国立ニエプス美術館(2011)、ヨーロッパ写真美術館、パリ(2015)などがある。

椹木 野衣美術評論家

写真が(日本語で言う)「写真」からこれほどかけ離れた時代はないのではないか。今ではもう「写真が変えようのない真実を写している」などとは誰も信じていない。むしろ写真はいま、日ごとになにか得体のしれないものになりつつある。その得体のしれなさを、いったい誰が他に先んじて捉えるのか。いや、そういう言い方自体が(ありもしなかったかもしれない)主体性に重きを置く過去の表現の言い回しにすぎないのかもしれない。捉えるのではない。誰が写真そのものになることができるか。どこまでが撮る者で、どこまでが被写体かがわからないような淵に立つ世界を呼び寄せることができるだろう。そういう生々しい危機感のようなものを、いま、写真に対して抱いている。

プロフィール

1962年秩父市生まれ。美術批評家。91年に出した最初の評論集『シミュレーショニズム――ハウス・ミュージックと盗用芸術』(洋泉社)は「サンプリング/カットアップ/リミックス」を核に据え、美術、写真、音楽ほか後に続く多くのアーティスト、クリエイターに大きな影響を与えた。ほかに多くの議論を呼んだ「悪い場所」を唱えた『日本・現代・美術』(新潮社、1998年)、第25回吉田秀和賞を受賞した『後美術論』、平成29年度芸術選奨文部科学大臣賞(評論等部門)を受賞した『震美術論』(いずれも美術出版社)など多数。現在、多摩美術大学美術学部教授、芸術人類学研究所所員。

清水 穣写真評論家

「リアル」「天然」「野蛮」といった、写真を見ない者が無責任に垂れ流す抽象的なキャッチコピーは通用しません。
写真はどんな物語でも引き受けるでしょうが、決して物語に染まりはしません。
「身近な友人」ではなく、あなたの理想の被写体を選び抜いてください。
「なにげない写真」ではなく、考えつくし見つくしたうえで見せてください。
デジタル技術は、もはや「アナログ写真ではないもの」ではないデジタル「写真」の、未知の領域を開いています。
その未知の領域が未来へも過去へもつながっていて「写真」を再発見させてくれる、そんな表現を待っています。

プロフィール

1995年頃より現代美術・写真、現代音楽を中心に批評活動を展開している。 1995年『不可視性としての写真:ジェイムズ・ウェリング』(1995年 Wako Works of Art)で第1回重森弘淹写真評論賞受賞。 主な著書に『写真と日々』(2006年 現代思潮新社)、『日々是写真』(2009年 現代思潮新社)『プルラモン』(2011年 現代思潮新社)『デジタル写真論』(2020年、東京大学出版会)などがある。
現在、同志社大学グローバル地域文化学部で教授を務める。

瀧本 幹也写真家

「写真新世紀」の審査員を今年も務めることになり、とても嬉しく思っています。新世紀という名前の通りここから新しい写真表現が生まれてきました。これまでの受賞者の方々を拝見すると、その後の活躍が目覚ましく、まさに写真の登竜門と言える賞だと思います。昨今の写真を取り巻く流れとして、誰が新しいことを最初にやったかということや、誰かに似た表層的な写真が取り上げられたりしています。そうではなくて、もっと自身の写真表現と言えるもの、自身と向き合って滲み出てくる大きなうねりのある写真に期待したいです。新しく出会える作品に心から楽しみにしています。

プロフィール

1974年愛知県生まれ。94年より藤井保氏に師事。98年に写真家として独立し、瀧本幹也写真事務所を設立。広告写真をはじめ、グラフィック、エディトリアル、自身の作品制作活動、コマーシャルフィルム、映画など幅広い分野の撮影を手がける。主な作品集に『CROSSOVER』(18) 『LAND SPACE』(13) 『SIGHTSEEING』(07) 『BAUHAUS DESSAU ∴ MIKIYA TAKIMOTO』(05) などがある。18年にはCANON GALLERY Sにて個展 『FLAME / SURFACE』 を開催。
また12年からは映画の撮影にも取り組む。自身初となる『そして父になる』(是枝裕和監督作品)では第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞を受賞。15年には『海街diary』で第39回日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞。17年『三度目の殺人』第74回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門。東京ADC賞、ニューヨーク ADC賞、カンヌライオンズ国際広告祭、ACC グランプリ、ニューヨーク CLIO AWARDSなど、国内外での受賞歴多数。

野村 浩美術家

私は29年前の第一回写真新世紀の出品者でした。
自作を茶封筒に入れポストに投函した時の事を、今でも鮮明に覚えています。結果は佳作でした。
それから四半世紀以上が経ちましたが、実は今こそが、『写真(の)新世紀』なのではと感じています。写真は、針穴のアナログ技術からデジタル、AIまでを手中とし、素朴さと凶暴さを併せ持つ怪物に成長しています。写真は我々人間にどんな姿を見せようとしているのか? いま、現在の『写真新世紀』が見せる写真を見たいのです。そして、その写真群をきちんと受け止めることが出来るのか? かつて出品者だった私自身が試されます。

プロフィール

1995年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。在学中から写真を中心にメディアを横断する作品を発表し続けている。近年では写真とカメラにまつわる ”写真論”コミック本「CAMERAer」(2019年/go passion)を上梓。ゲストキュレーターとして平成30年度横浜市所蔵カメラ・写真コレクション展「暗くて明るいカメラーの部屋」(横浜市民ギャラリーあざみ野)、その後中国・成都のA4 Art Museumにて巡回展(2020年2月23日まで)。主な個展に、2008年「目印商品 展」(LOGOS GALLERY/東京)、2014年『Slash / Ghost』(A-things/東京)、2017年「Doppelopment」(POETIC SCAPE/東京)2020年「Merandi」(POETIC SCAPE/東京)など。海外の作品展示では、「PHOTOESPAÑA 2012 Asia Serendipity(2012年/スペイン)、Belfast Photo Festival(2019年/北アイルランド)など多数。主な著書に「EYES」(2007年/赤々舎)「Slash」(2010年/N/T WORKS)など。キヤノン写真新世紀第3回(1992年)、第5回(1993年)公募優秀賞、第31回写真の会賞(2019年)受賞。

安村 崇写真家

かつての応募者として印象に残っているのは、期限内に作品を仕上げることの難しさです。ひとまずの完成を求められるこのような公募の場において、何をもって完成とするのかという、作品に対するけじめのようなものに不慣れだったのでしょう。応募作に対し心残りがあればもう少し時間をかけて取り組むことも選択肢の一つです。また、完成などないという考えもあるでしょう。しかし応募するということは、たとえ一旦であれ自身とその作品にとどめ刺すことだと思います。そのような思いでご自身の作品と向き合われた時、新たにみえてくるものもあるのではないでしょうか。まだ知らない写真の喜びに出会えることを楽しみにしています。

プロフィール

1972年滋賀県生まれ。95年日本大学芸術学部写真学科卒業。99年に「第8回写真新世紀」年間グランプリ受賞。2005年に写真集『日常らしさ/Domestic Scandals』を発表。同年、パルコミュージアムで「安村崇写真展」を開催。2006年にはマドリードでグループ展「Photo Espana」参加。2017年に写真集『1/1』を発表。

loading