PRESENTATION
ジャンカルロ・シバヤマ
「I traveled on an island」
私はペルー生まれ、日系第三世代です。私の祖父が亡くなった日、親族が祖父の写真を家族アルバムからどんどん取り去ってしまいました。その体験から、マインドマップを作りたいと思いました。
私はアイデンティティのルーツをきちんと捉えることができません。ペルーにいると、ペルー人ではないと思う。でも日本にいたら、日本人ではないと見なされます。こうしたことがあり、私は自分のマップ、自分史を作ろうと思いました。そのためにフィクション化した写真を撮りたいと思いました。
同時に、「移住」を正面から取り上げたいと思いました。移住は旅であり、未知の場所に動くことであり、未知の世界に根を下ろすことです。祖父を通じて、日本からペルーに来た人がたくさんいたことを知りました。120年前、桜丸という船から始まった歴史です。桜丸には800人の日本人が乗っていたそうで、祖父は当時1歳でした。
第二次世界大戦のとき、日本人はアメリカの収容所に送られましたが、私の家族はアンデスのほうに逃げ、隠れて生活しました。戦後、ゼロからやり直して現在に至ったそうです。
改めて考えると、移住も、人も言葉もわからない場所で、みんなゼロから始めなければならないんだなと思いました。
私は自分のアイデンティティを探す旅の中で、祖父の故郷である静岡に行き、残された住所を頼りに家を探しました。静岡にはたくさんの砂浜があります。砂浜を歩いていて、ここはペルーだと思いました。同じ海を見ているからです。水の色、海の香り、太陽も同じ。ペルーの祖父の家も砂浜近くにありました。私は日本に来て、ここには所属できないと思ったけれど、浜辺を見て「ああ、ここなんだ」と思えました。
祖父は一度も日本に戻ることはありませんでした。でも、私の写真集や作品と共に日本に戻ったことを嬉しく思います。今回、新たなマップ、新たな写真を作り上げたという思いです。私のイマジネーションと記憶、家族に捧げる作品ができたと思います。
審査員コメントと質疑応答
アレック・ソス氏(ビデオメッセージ)
この作品は、彼が心の奥深く感じたことを表現しています。それでいながらコンセプトは厳格で、知的な作品でもあります。これらが見事なバランスを見せているのです。実に微妙なバランスで、並大抵で表現できるものではありません。
異文化体験を表したこの作品で、彼は、家族の写真だけでなく、自分自身の写真、背景には古い時代の写真を配し、抽象的な仮想マップによって社会的なアイデンティティを創造してみせました。実にユニークで価値の高い作品です。これほどのものを私は今までに見たことがありません。
審査のプロセスでは、ブック、ビデオ、デジタル写真、プリントされた写真など、私はさまざまな作品を見ました。しかしこれら多くの作品の中でも、彼の作品は特別なものとして際立っていました。
ダヤニータ・シン氏
この作品を私自身もいいと思って愛しています。特にマップの部分がとてもいいと思いました。そのインスタレーションのやり方で作品がさらに豊かになったと思います。マップを印刷した素材や、少し壁から離したディスプレイの方法も素晴らしいと思いました。今後の展示方法について、ブックなのかエキシビションなのか、どのような方法で見せていきたいのかをお聞かせください。
(ジャンカルロ)私としては、方法は何であれセンセーションを生むことが重要だと思っています。展示も写真集も、見せる形としては追っていきたい。
エキシビションはトピックが重要です。イメージと見る人をつなぐものが何かないといけない。そして、見たときにセンセーションが起こらなければいけない。写真集は、より細かいところを入れ込むことができるし、もっと説明を加えることもできます。ページを繰っていく行為によって、まるでゲームを楽しむように、より親密な気持ちで作品に没入することができるでしょう。