テクノロジー

材料開発プラットフォーム 材料開発プラットフォーム

製品性能を向上させ、競争力を生み出す技術基盤

材料開発プラットフォーム

カメラやプリンター、オフィス向け複合機など、幅広い製品の開発を通じて材料技術を蓄積してきたキヤノン。蓄積した技術は全社共通の技術基盤「材料開発プラットフォーム」として体系化され、さまざまな製品の開発に展開。製品の性能を高め、競争力の源泉となっています。

2023/10/16

製品の進化と新規事業の創出を支える材料開発プラットフォーム

材料は、製品の性能を左右する重要な要素の一つです。
交換レンズ、プリンターなどの開発を通して蓄積してきた材料技術は、機能別に大きく①色を生み出す技術、②光を調整する技術、③熱 / 電気を伝える・遮る技術、④力を生み出す技術の4つに分けられます。
これらの技術を獲得するなかで、「材料の機能設計」「合成・加工」「分析・計測・評価」「製造」といった材料開発から製造に必要な技術を強化してきました。
キヤノンではこれらを全社共通の技術基盤「材料開発プラットフォーム」として体系化し、製品のさらなる進化や新規事業の早期立ち上げなどに活用し、高付加価値製品をタイムリーにお客さまに提供しています。

製品の性能を高める4つの機能

製品の性能を高める4つの機能

独自に構築した材料データベースで開発を効率化

カメラやプリンター、ディスプレイなど、色に関わる製品を多く手掛けるキヤノンでは、”新しい色を生み出す技術”と“発色性を高める技術”を進化させ、色表現の幅の拡大に取り組んできました。たとえばプリンターに使われるインクは、色の原料である”色材”と、用紙表面への定着や速乾性などの機能をインクに持たせる樹脂や溶剤などで構成されています。色材が均一に混ざっていればいるほど、高い発色が可能になります。色材をナノメートルレベルでインク中に均一に分散させる設計技術や色材と樹脂を均一に混合する製造技術が、豊かな色表現を可能にしています。
これまで材料開発は、技術者の知識や経験をもとに試作、評価検証を積み重ね、開発までに長い年月がかかっていました。キヤノンでは、研究開発の過程で生み出された材料特性や実験データなどの情報を材料バンクとしてデータベース化し、蓄積。技術者の知見とAIを融合しながら、必要な機能をもった材料を導きだし、開発を効率化しています。

性能を追求し、自社開発の材料技術で高付加価値製品を実現

カメラの交換レンズは、材料技術による高性能化が圧倒的な競争力につながっています。
交換レンズは、光を集めて像をつくる役割を担っています。一般的な光学材料は、自然光を構成する赤・緑・青といった光に対してそれぞれ屈折率が異なるため、通常のレンズでは、1点に光を集めてシャープな像をつくることができません。こうした色収差と呼ばれる光のズレがあると、像の色ズレやぼけを引き起こすため、色収差を抑えることが交換レンズで重視される性能の一つになっています。
特に、青の光はコントロールすることが難しく、一般に流通している材料では、求める光学性能を実現することができませんでした。そこでキヤノンでは、光学材料を分子設計から行い、独自に材料を合成。この特殊な光学材料とガラス材料を組み合わせることで、青の色収差を劇的に低減させることに成功しました。こうして完成したBlue Spectrum Refractive Optics(BR)レンズは、「EF35mm F1.4L II USM」「RF85mm F1.2 L USM」などの交換レンズに搭載され、高い描写性能に貢献しています。

課題だった青色の光をコントロールし、シャープな像を実現

課題だった青色の光をコントロールし、シャープな像を実現

現行事業で培った材料技術を新規事業へ展開

より高い画質、描写性能を求めるフォトグラファーの要求は、色収差の除去だけにとどまりません。レンズ表面と空気の境目など、屈折率が大きく変化するところでは光が多く反射して、その光がゴースト(本来ないはずの画像として映る現象)やフレア(画像の一部が白っぽくなる現象)となって画質を低下させます。このため高性能レンズには、レンズ表面の反射を抑制するコーティング技術が欠かせません。
Air Sphere Coating(ASC)は、蒸着膜の上に二酸化ケイ素と空気を含んだ膜を形成することで光の反射を抑制する技術です。光学ガラスよりも屈折率の低い空気をコーティング内に一定の割合で含ませることで、超低屈折率膜を形成。特に垂直に近い角度で入射する光に対して、高い反射防止性能を実現しています。
コーティングの方法により光をコントロールする技術がSubwavelength Structure Coating(SWC)です。レンズ表面にナノメートルサイズ*の極めて細い針山のような構造物を無数に並べ、屈折率が大きく異なる境界面をなくすことで光の反射を抑制する技術です。広角レンズにおいて、斜めから入る光に高い効果を発揮します。

*ナノメートル:10億分の1メートル

蒸着膜の上に二酸化ケイ素と空気を含んだ膜を形成することで、光の反射を抑制

蒸着膜の上に二酸化ケイ素と空気を含んだ膜を形成することで、光の反射を抑制

針山のような構造物を並べ、屈折率を変化させることで反射を抑制

針山のような構造物を並べ、屈折率を変化させることで反射を抑制

コーティング技術により、光をコントロール

これらコーティング技術は、ガラスの表面に微細な構造物を形成する独自の材料技術・製造プロセス技術によって実現しています。ネットワークカメラの視界をクリアにする膜など、他事業への展開に加えて、ディスプレイの反射を抑制する塗料など、新しい分野への応用も期待されており、事業競争力の強化につながっています。

ディスプレイなどの反射を抑制する塗料

反射防止の材料技術を活用して新しい分野への応用が期待される塗料(写真はフラスコを用いた例)。立体物の陰影が認識できなくなるほどさまざまな角度の光の反射を抑制

反射防止の材料技術を活用して新しい分野への応用が期待される塗料(写真はフラスコを用いた例)。立体物の陰影が認識できなくなるほどさまざまな角度の光の反射を抑制

「技術の価値を高める基盤」内の記事を見る