Message from Bird

鳥が教えてくれること Vol.2

鳥と生物多様性

イメージ

「Vol.2 鳥と生物多様性」をシェア

  • Share on Facebook
  • Share on twitter
  • Share on Google+
  • Pinterest
  • LINEで送る

生物多様性とは?

生物多様性という言葉は、最初は難しい専門用語のニュアンスがあったが、生物多様性条約(※)が結ばれ、環境省も普及に力を入れるようになり、最近ではすっかり市民権を得たようである。この言葉の意味については、まあ「何かわからないが、いろんな生き物がいっぱいいることだな」というのが一般的な理解だろう。

生物多様性とは、具体的には種の多様性、種が持っている遺伝的多様性、群集としての生態系の多様性の3つからなりたっている。さまざまな種類の鳥や生き物が、それぞれ十分な数と、そして十分な遺伝的多様性をもって生息していることが生物多様性にとって大切なことである。

※「生物多様性条約 (Convention on Biological Diversity/CBD)」は、自然界の多種多様なあらゆる生きものを保全し、構成要素の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益が公正で衡平に配分されることを目的として、地球規模で取り組むために制定された国際条約。 1992年5月に採択され、1993年12月に発効した。

鳥類の多様性がもたらしたこと

さて、多様性が高いということは基本的には種数が多いということではあるが、鳥は種数ばかりではなく、その形態や生態、行動の多様性においても際立っている。たとえば身体の大きさだが、小はキューバに棲むマメハチドリの体重2gから、大はダチョウの120kgまで、その差はなんと6万倍にもなる。
多くの鳥には翼があるので空を飛べるが、すべての鳥が空を飛んでいるわけではない。ダチョウやエミューは翼が退化して、もっぱら地上を歩いたり、走ったりすることしか出来ない。一方、アマツバメの仲間は1年の大半を、空を飛びながら過ごしているし、アホウドリもいったん海にでたら島には戻らず、寝る時をのぞいて海面を飛び続けている。ハヤブサが狩りをする時は高空から時速300キロに達するスピードで、獲物の鳥を蹴り落とすという、翼を極限まで使った戦術を繰り出す。

食べるものも草食から肉食までさまざまである。草の葉や根っこを食べるガンやハクチョウたち、果実を食べるツグミやレンジャク。ドングリやマツの実が大好きなカケスやホシガラス。草の実はスズメやヒワ類の主食である。メジロやウグイスは基本的に昆虫食。カモメやアジサシやウは魚食。多くの猛禽類は肉食だが、ミサゴはもっぱら魚だけを捕っているし、海ワシと呼ばれるオオワシやオジロワシも冬には海岸で打ち上げられたサケなどの魚を主食にするというスカベンジャー(腐肉食者)である。

イメージ
森や林の鳥の例 キレンジャク
冬鳥として日本に飛来し、街路樹のナナカマドやヤドリギの実を好んで食べる。鳥は森や林などで木の実などを食べ、移動先でフンを落とすことによって種子を散布しており、林や森の拡大に貢献している。

生息環境もさまざまに異なっている。南極大陸の零下50℃にもなる内陸部で繁殖するコウテイペンギン。7000mのヒマラヤを楽々と越えて行くインドガンやアネハヅル。日中は50℃にもなり、ほとんど雨の降らない砂漠に棲む鳥もいれば、湿地に棲む鳥もいる。 こうした棲み場所と食物の違いが、鳥の生活スタイルに変化をもたらし、それによって、鳥たちは形態にさまざまな適応的な進化を遂げた。ツルやサギは水辺で魚を捕らえるために首やくちばしを長くし、ペンギンは泳ぐために翼をヒレに変えた。ハチドリは花の前でホバリング(停空飛翔)しながら蜜を吸えるように身体を小さくし、さらに舌を長くし、先端をブラシ状にして効率よく蜜を吸えるように形態を変化させた。

このような鳥類の非常に高い多様性は、かれらが地球上で環境の異なるさまざまな地域に棲みつくことを可能にした。その結果、さらにその地域の生態系の多様性が高まり、鳥以外の生物の多様性も高まって行く。鳥は生態系の多様性を保証する生き物なのである。

イメージ
干潟の鳥の例 ダイゼン
旅鳥または冬鳥として飛来。干潟や砂浜で採食する。特にゴカイ類を好み、甲殻類や昆虫類なども食べる。高度経済成長期からは、埋め立てなどで干潟環境が少なくなり、ダイゼンのようなチドリやシギのなかまが生息できる環境が減っている。

生物多様性が低下すると?

多様性が低下するとどうなるのか?多様性が低下するということは、基本的には数の少ない絶滅危惧種などの鳥がどんどんいなくなって、ごく少数の種(ときには1種)だけが数を増やしていくことである。生態系の生物相は単純になっていき、単純になればなるほど、生態系の不安定さは増す。たとえばシカによる森林被害が問題になっているが、シカが増えると林床にあるササや他の草本ばかりでなく、樹々の実生(芽生え)も食べ尽してしまい、生態系は極端に貧弱になってしまう。林床の植物を食べていたさまざまな昆虫類も姿を消し、虫がいなくなれば昆虫食の鳥たちも棲めなくなり、さらには上位種の猛禽類もいなくなる。実生が食べられてしまうので、森林の更新さえも妨げられる。
一方、豊かな生態系は、私たちにさまざまな恵みをもたらしてくれる。これを「生態系サービス」という。直接的には春の山菜や秋のキノコといった山の恵み。森林浴が出来る清浄な空気とおいしい水。豊かな安定した森は、さらには水源涵養林として私たちの生活を洪水や土砂崩れから守ってもくれる。
私たちが気づかないところで、生態系は人間生活の大切な部分を支えている。多様な植物や動物はその地に根ざした文化を育み、私たちの生活の質を高めることにも大きく関わっているのだ。

イメージ
海鳥の例 ケイマフリ
東北以北の海に面した崖や島で繫殖し、国内ではとくに天売島・知床半島・青森県の一部が繁殖地として知られている。アイヌ語の「赤い足」が名前の由来で、繁殖期にはとても美しい声で鳴く。泳ぎや潜水がとても得意な鳥で、海中でイカナゴなどの小魚を捕る。海鳥は、漁業による混獲や、海洋プラスチック汚染などの影響を受けやすい種でもある。

commentator

解説者紹介

上田 恵介
keisuke ueda

1950年大阪府生まれ。
動物生態学者。元立教大学理学部生命理学科教授。元日本鳥学会会長。
鳥類を中心に動植物全般の進化生態学のほか、環境問題の研究にも取り組む。
日本野鳥の会評議員で、副会長。会員による鳥類学論文集「Strix」の編集長も務める。

上田 恵介