鳥が教えてくれること vol.8

鳥を絶滅から救え。野鳥保護最前線

2022年、日本野鳥の会もパートナーとなっているバードライフ・インターナショナル(※1)はその前身である鳥類保護国際委員会(ICBP)の設立から数えて100周年を迎えました。その記念として発行した『State of the World's Birds 2022』では、これまでの100年を振り返り、鳥類のおかれている現状や脅威、その解決策を示しました。この本から、どうすれば鳥類を絶滅から救うことができるか考えてみました。

※1 鳥類を指標に、その生息環境の保護を目的に活動する国際環境NGO。1922年に英国で発足し、世界100以上の国や地域のパートナー団体で構成される。IUCNレッドリストの鳥類部門の公式な評価機関

鳥類の8種に1種が絶滅のおそれ

国際自然保護連合(IUCN)が公表している最新版のレッドリストでは、世界の鳥類のうち1400種に絶滅のおそれがあるとされています。じつに8種に1種が絶滅のおそれがある種ということになります。図を見ると、ここ20年間で徐々に状態が悪化していることがうかがえます。また、絶滅寸前種(CR)の数があまり変化しないことは、一度絶滅のおそれのある状態になってしまった種を、絶滅のおそれのない状態に戻すことのむずかしさを示しています。

絶滅のおそれのある種数の推移
IUCNのhttps://www.iucnredlist.org/resources/summary-statisticsより作成
レッドデータブックにおけるランク(『野鳥』2019年8月号より)

レッドリストのデータから算出されるレッドリスト指数(Red List Index)というものがあります。これは0から1で示される指数で、1がまったく絶滅のおそれがない状態、0がすべての種が絶滅した状態を表わすものです。鳥類は両生類やサンゴなどの他の分類群に比べると良い状態ですが、それでも悪化傾向にあります。

IUCNレッドリスト指数
生物種群の絶滅リスクを0~1の数値で指数化したもの。値が小さいほど種群の絶滅の恐れが大きいことを示す(出典:IUCN 「The Red List Index」)

鳥類を絶滅へと向かわせる脅威

1)農林水産業

鳥類を絶滅へと追い込んでいる要因にはさまざまなものがありますが、そのほとんどは人間の活動によるものです。そのなかでも、農林水産業は大きな影響を及ぼしています。農地の拡大や集約化によって鳥類の生息地に劣化が起きているのです。ヨーロッパでは、1980年以降、農耕地を生息地とする鳥類の57%が減少していると言われています。日本でも石狩平野の研究から、過去166年間に種の多様性と個体数の70%以上の減少をひきおこしていると指摘されています。また過剰な農薬や肥料の使用は気候変動と相まって、昆虫の減少などをひきおこしています。

また、木材資源を得るためやプランテーションのための森林伐採、食糧生産用農地の拡大のための森林破壊も脅威です。北米で1960年代から続けられている繁殖鳥類調査(North American Breeding Bird Survey)のデータの解析では、北米と中南米を行き来する渡り鳥の57%で個体数の減少が確認されています。それらの種の多くは森林性の種で、熱帯雨林の破壊による影響が懸念されています。

海鳥はもっとも絶滅のおそれの高い鳥類のグループで、IUCNのレッドリストでも30%が絶滅の恐れのある種です。鳥類全体では12.5%が絶滅のおそれのある種ですから、かなり危険な状態にある種が多いと言えます。海鳥への脅威の一つは漁業活動の際に起きる混獲です。アホウドリ類の多くは絶滅のおそれに瀕しています。延縄(はえなわ)漁業は長い延縄に餌をつけた釣り針を取りつけて行なう漁業ですが、延縄を設置する際、縄が沈む前にアホウドリが餌を狙って針にかかってしまうのです。現在は海に縄を入れる際に鳥が近づけないように、船に「トリポール」と呼ばれるポールや、鳥が餌を取れない深さに早く沈むような重りの取りつけ、鳥の少ない夜間に延縄を設置するなどのルールが採用されていますが、ルールの遵守が行なわれていない海域があることが問題です。

2)侵略的外来種

海鳥のコロニー(集団営巣地)を全滅させることもあるドブネズミなどの侵略的な外来種も問題です。日本固有種のカンムリウミスズメのコロニーは無人島にありますが、ドブネズミが海釣りの渡船に紛れ込んで侵入し、営巣地が壊滅的な影響を受けた島がいくつもあります。また外来種は、島の鳥類に大きな影響を与えています。日本でも、沖縄に持ち込まれたマングースがヤンバルクイナの脅威となっています。

3)密猟や捕獲

日本では鳥類の密猟は少なくなってきましたが、世界的には違法な捕獲や売買、食料資源とするための捕獲が大きな脅威となっています。地中海沿岸では年間1100万~3600万羽の野鳥が捕獲されています。東南アジアでも、食品市場の調査から100万羽以上のツバメが食料として販売されているそうです。日本野鳥の会が保護に取り組んでいるシマアオジも、かつては極東からフィンランドまで繁殖し、その地域の草原ではもっとも普通の種であったものが、1980年から2013年の間に84.3~94.7%に減少し、絶滅寸前種(CR)に指定されています。日本でも繁殖するつがい数は20つがい未満です。その要因の一つが中国での捕獲だと言われています。

4)都市や産業用地の拡大

都市の拡大や沿岸域での大規模な埋め立て等により、湿地を利用する鳥類も脅威を受けています。東アジア・オーストラリア地域フライウェイは、日本も属する鳥の渡りのルートですが、このフライウェイを利用する水鳥の中には36種の絶滅危惧種が含まれています。これには黄海沿岸の開発が大きく影響しているとされています。幸い、中国と韓国では黄海沿岸を世界自然遺産に登録して保全へと舵を切ったところで、今後の渡り鳥の変化が気になるところです。

5)気候変動や野火

気候変動の影響では、種によって分布域が変化する場合がありますが、高山帯などでは、場所を高標高にシフトすることは困難です。また、春先の昆虫の発生のピークが早まり、渡り鳥がヒナを育てる時期とのズレが生じていることがヨーロッパのマダラヒタキの研究で示されています。
気候変動による高温・乾燥は大規模な野火を引き起こすリスクもあります。日本野鳥の会の調査では2019年秋から2020年春にかけて、オーストラリアで大規模な森林火災を引き起こした異常気象により、北海道で繁殖し、オーストラリアで越冬するオオジシギの個体数が42%減少したことが明らかになっています。また、温暖化対策として開発が進む風力発電施設や太陽光発電施設も適切な場所に設置されなければ、猛禽類などの絶滅危惧種の脅威となります。

ポーランドにおけるヒバリの繁殖密度と農業の集約化の比較
縦軸が繁殖ペアの数、横軸が農業集約化の度合いを表しており、集約化の度合いが高いほど繁殖ペア数が少ないことが読み取れる(出典:Bird Life International WEBサイト
鳥類の混獲を防ぐトリポール

生息地保護のために私たちができること

鳥類への脅威はどれも大規模なもので、国際社会や国レベル、地方レベルでの取り組みが必要なものですが、私たち自身で取り組めることもあります。
鳥類の保護でもっとも効果的な方法は生息地の保護です。保護地域を設定して保護をすることは行政レベルでの取り組みですが、最近取り入れられたOECM(保護地域以外で効果的な地域をベースとする手段)と呼ばれる取り組みは、民間の所有地や、公園や農地なども生物多様性保全に貢献する場所を認定しようという動きです。こうした取り組みで生きものに配慮した農林水産業が行なわれるようになると、鳥類の生息地を守ることができます。消費者は、こうした生きものに配慮した農産物、認証を受けた林産物や水産物などを選んで消費することが支援となります。たとえば、混獲を起こさないように配慮された魚を選ぶことによって、混獲を減らすことを推し進めることができます。

今回の記事に興味をもたれた方は、『State of the World Bird's 2022』の仮訳がありますので、ぜひ日本野鳥の会のホームページからご一読ください。

参考文献:State of the World Bird's 2022

解説者紹介

葉山 政治

1957年福岡県生まれ。
サンクチュアリのレンジャーを経て、財団事務局の自然保護室の担当となる。
野鳥保護事業全般を統括するなかで、野鳥保護や生息地保全に関する法令の改定や、自然環境に関する施策への提言などの活動を行っている。

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