Message from Bird

鳥が教えてくれること Vol.4

ドングリの森をつくる鳥

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ドングリころころ ー 森の作りかた ー

鳥に食べてもらったり、風に運んでもらったり、植物たちはさまざまな手法によって、種子を散布して生きている。それは、森林の更新の過程(草や木といった植物が成長したり、植物種間で淘汰が起こったりしながら、森が新しくなっていくこと)だけでなく、そこに生きる生態系の構造にも影響する。そして、生物多様性を維持していくためにも、とても重要な仕組みや役割である。 赤い実や黒い実など、見るからにおいしそうな実をつけて鳥を誘っている植物がある一方で、鳥やその他の動物の貯食行動を利用して、種子を散布してもらっている植物もある。

地味で重たいドングリを運ぶのは??

童謡の「どんぐりころころ」。
「どんぐりころころ、どんぶりこ。お池にはまって、さあ大変……」と、小さい頃に歌った懐かしい思い出のある人も多いだろう。カシ、ナラ、シイ、ミズナラなどの果実は一般にドングリ(団栗)と呼ばれている。ドングリを割ってその構造を見てみると、種子(子葉)のまわりは薄い渋皮(しぶかわ)に包まれ、さらに外側は固い鬼皮(おにかわ)に包まれていることがわかる。
さてこのドングリ、風に運んでもらうには重すぎるし、果実のように鳥に食べて運んでもらうにも、報酬の果肉がない。もちろん、自然に落下して水に流されたりすることはあるだろうが、それだけでは「どんぐりころころ」の歌の通り、高いところから低いところへ、山から平地への一方的な分散になってしまう。それなのに、いつまでたっても山にドングリの木が絶えないのは、なぜなのだろう。それは鳥やその他の動物がドングリの散布に一役買っているからなのだ。
ドングリの実を運ぶのはリスやネズミやカケス。本州ではホンドリス、カケス、アカネズミが、北海道ではエゾリス、シマリス、ミヤマカケス、エゾアカネズミが、ドングリの実の散布の役割を担っている。リスは木の洞や木の根元、まわりの土の中に、ドングリの実を1〜数個ずつ分散して貯蔵する。シマリスやアカネズミは、越冬用の深い穴の中にたくさんのドングリを貯えるが、あまったものは地面に浅く埋める。カケスたちは一粒ずつ地面に埋めて、枯れ葉をかぶせる。

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ドングリをくわえるカケス
カケスは、食物を蓄える「貯食」の習性があり、越冬のためにドングリなどを地面に埋める。

意外に繊細なドングリの発芽

リスやアカネズミやカケスは、越冬用の食料として貯蔵されたドングリを食べて冬を過ごす。けれどすべてが食べ尽くされてしまうわけではない。記憶力の悪いカケスもいるだろうし、フクロウに捕まってしまうアカネズミもいる。こうして埋められたドングリの一部は、食べられずに残される。
一方、ドングリの実は乾燥に弱いため、動物に貯蔵されずに地面に落ちてしまっただけの実は、1週間もすると発芽能力を失ってしまう。また秋のうちに発芽しても、地表に置かれただけでは、根が土にくい込むことができずに死んでしまう。鳥やその他の動物によって地面に浅く埋められたドングリだけが、芽を出すことができる。こうしてドングリの林が更新されていく。カケスは山の裾野からドングリを山の上の方へ運ぶこともあるだろう。山からいつまでもドングリの林がなくならないのは、ドングリの実を貯える鳥やその他の動物がいるからなのだ。

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リスやネズミやカケスは、ドングリを土の中に貯蔵することで林の更新に一役買っている。

ドングリはたくさん食べられない

ところで、スダジイやマテバシイなど、シイの仲間のドングリは渋くないので、そのまま炒って食べられるが、コナラやミズナラ、クヌギなど、ほとんどのドングリは多量のタンニンを含んでいるので、いくら栄養価の高いドングリでも、動物たちが一度に大量に食べることはできない。
たとえばアカネズミで行なわれた実験では、ドングリだけを食べさせておくと、アカネズミは消化不良に陥って、死んでしまうことが知られている。だが、通常のエサにドングリを混ぜて、少しずつ食べさせると、アカネズミは生き続けることができる。これを「順化」という。
ドングリの木が、一度に大量の実をつけるのは、その一部分は食べられてもいいけれど、次世代の生産に必要な分だけは残しておいてもらおうという、ドングリの側の巧妙なやり方なのだ。一方、リスやアカネズミやカケスはドングリがないと、冬に食料不足になってしまうかもしれない。ドングリだけに依存はできないけれど、冬の常備食として大切な資源なのだ。ドングリと貯食動物たちの間には、強い「共進化」の絆が存在している。

ゴヨウマツの繁殖を助けるホシガラス

3000m級の高山に棲み, 「ガーッ、ガーッ」と大きな声で鳴くホシガラス。登山者にはおなじみの鳥だろう。褐色の身体に白色の縦斑(じゅうはん)が星のように散らばっている。北海道から本州、四国の亜高山帯から高山帯にかけての針葉樹林に生息している。ホシガラスはハイマツやゴヨウマツの実が大好きである。秋に高山に登ると、種子をたくさん喉袋(のどぶくろ)につめて、貯蔵場所まで運んでいるホシガラスに出会うことがある。じっとみていると、崖の隙間や、登山道そばの石の下などにエサを隠している場面を目撃することもある。
ホシガラスがいなければゴヨウマツは育たない。なぜならゴヨウマツの実は、単独では発芽できないからだ。芽が地上に出るには、土の中に複数の実が埋められて、いくつもの実が一斉に発芽して土を押し上げるという、芽の共同作業が必要なのである。だから、ゴヨウマツはホシガラスがいないと子孫をつなげることができない。ホシガラスはゴヨウマツに頼り、ゴヨウマツはホシガラスに頼って、お互いに共生関係を築いて生きているのである。

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ハイマツにとまるホシガラス
ホシガラスは、翌春の子育てのために、ハイマツやゴヨウマツの実をせっせと集めて貯食する。

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解説者紹介

上田 恵介
keisuke ueda

1950年大阪府生まれ。
動物生態学者。元立教大学理学部生命理学科教授。元日本鳥学会会長。
鳥類を中心に動植物全般の進化生態学のほか、環境問題の研究にも取り組む。
日本野鳥の会評議員で、副会長。会員による鳥類学論文集「Strix」の編集長も務める。

上田 恵介