みんなは、地球で一番速い生きものってなんだと思う?
走るのが速かったり、泳ぐのが速かったり、飛ぶのが速かったり、いろんな生きものがいるね。
それぞれの生きものがどれぐらい速いのか見てみよう!
チャレンジ1
走るのが速い生きものについて学ぼう
速い生きものはいろいろいます。走る動物で一番速いのは、アフリカのサバンナにすむチーターです。チーターは最高時速110キロメートル、高速道路を走る車より速いくらいです。もしチーターを陸上競技の100メートル走に出場させたら、世界記録9.58秒をもつウサイン・ボルトさん(2021年現在)と比べて約3倍の速さ、わずか3.27秒で100メートルをかけぬけることができてしまいます。
走るのが得意な鳥もいます。北米のさばくにすむオオミチバシリ(別名ロードランナー)は時速42キロメートルで走ることが知られています。しかし地上を走る最速の鳥はダチョウです。ダチョウの走る速度は時速70キロメートルもあります。これは100メートルを5.14秒で走りきるスピードなので、ボルトさんの走る速さのおよそ2倍になります。ライオンはせいぜい時速60キロメートルまでしか出せませんから、もしダチョウがライオンに追いかけられても、ダチョウはライオンをふりきって逃げきることができます。
Q. 水中の速い生きものは?
水の中にはもっと速い生きものがいます。たとえばマグロ。マグロはずっと泳ぎつづけている魚ですから、とても速そうですが、せいぜい時速70キロメートル程度です。それより速いのはカジキの仲間で、最速はクロカジキの時速129キロメートル、バショウカジキの時速110キロメートルという記録があります。25メートルプールを1秒もかからずに泳ぎきれるスピードです。
チャレンジ2
世界最速はやっぱり鳥!空を飛ぶ鳥の速さについて学ぼう
しかし地上や水中の生き物より速いのは空を飛ぶ鳥です。一番速い鳥はなんでしょう。ギネスブックには2種類の「世界一速い鳥」が書かれています。水平飛行でもっとも速いのはハリオアマツバメで時速170キロメートル、もう1つは、下に向かって急降下する速さの記録で、ハヤブサで時速389キロメートルです。
ハヤブサの仲間はほかの鳥を襲うとき、上空から一気に急降下して、体重をかけてえものの鳥をけり落とします。そして急旋回して、落ちていく鳥をつかんで飛び去るという方法がハヤブサの狩りです。だからハヤブサの記録は、えものを追って急降下するときの最速スピードです。研究者が飼いならされたハヤブサといっしょに気球に乗って上空からえさを投げ落とし、えさを追いかけて急降下したハヤブサのスピードを測ったのです。
同じように高い空から急降下するイヌワシでも速度が測られています。ハヤブサにはかないませんが、時速322キロメートルというスピードが記録されています。しかし猛禽類(タカ、ハヤブサ、フクロウの仲間)がいつもこんなスピードを出しているわけではありません。水平飛行での最高時速はハヤブサもイヌワシもせいぜい110~130キロメートル、平均時速はハヤブサで70~90キロメートル、イヌワシで40~50キロメートル程度です。
水平飛行では、ハリオアマツバメが時速169キロメートル、アマツバメが時速166キロメートルの記録をもっています。アマツバメ類はツバメの仲間ではなくヨタカやハチドリと近いグループです。彼らは上空を高速で飛び、
上昇気流
でふき上げられた虫をつかまえるという生活を送っています。そして生活の大半を、空を飛びながら過ごし、ねる時も空中でねむっているのではないかと言われています。
Q. ツバメは飛ぶのが速い?
ツバメ類は細くて長いつばさをもち、いかにも高速で飛んでいるように見えます。しかし、アマツバメ類とくらべると小回りのきく飛び方はできますが、水平飛行のスピードはそんなに速くありません。
私は、わたっているツバメがどれくらいの速さで飛んでいるか、見たことがあります。小笠原諸島に行った帰りに、東京に向かう船で海の上を何か飛んでいないかなと見ていた時のことです。船の後方から1羽のツバメが近づいてきて、追いぬいて北へ飛び去っていきました。
当時、船は東京―小笠原間の1,000キロメートルを25.5時間で移動しており、速度はおよそ時速40キロメートル弱でした。ツバメはわたしが見上げている頭の上をゆっくりと北の方角へ飛び去っていきました。ツバメの速度を測ったわけではありませんが、たぶん時速50~60キロメートル程度の速さだったと思っています。
Q. 鳥は何のためにわたるの?
春になると南の国からツバメたちがやってきます。冬になると北の国からハクチョウたちがやってきます。ツバメは春夏に日本にいるので夏鳥、ハクチョウは冬に日本にいるので冬鳥と呼ばれています。夏と冬で、なぜ鳥たちは移動(わたり)をするのでしょう。それは食べ物と子育てのためです。ツバメが夏に日本にやってくるのは、虫の多い夏に日本で子育てをするためです。ハクチョウたちが冬に北からやってくるのは、冬になるとシベリアの大地が雪と氷で覆われ、えさを探すことができないからです。
チャレンジ3
意外と速いカモの仲間たち
身体の大きなカモ類のスピードは、昔はセスナなどの軽飛行機で彼らと並んで飛行するやり方で測っていました。最近では移動の道のりが記録できるGPSロガーなどの機械が小型化して、鳥の体につけやすくなったために、記録データがたくさん集まるようになりました。
その中で、アフリカのツメバガンは時速143キロメートルという記録を持っています。カモ目の中ではおそらく最速です。海にすみ、水中に潜ってえさをとる潜水性のカモ類もかなり速いスピードで飛ぶことができます。カワアイサが時速130キロメートル、ホシハジロが時速128キロメートル、ホンケワタガモが時速122キロメートルのスピードを出すことができます。これに対して、川や湖などで、水に潜らずに浮かんだままえさをとるカモ、たとえばコガモでは、今のところ時速70キロメートルの記録しかありません。
水中に潜るカモたちの飛ぶスピードが速いのは、彼らが水中に潜って魚を食べるときにつばさも使って進むので、胸の筋肉が発達しているからだと思われます。
体全体のうちの胸の筋肉と骨の重さの割合(例)
Q. 長い距離をわたる鳥たちの速さはどれくらい?
飛んでいるときの位置のデータを時間に沿って記録すれば、その鳥が2つの場所の間をどれくらいの速度で移動したかを知ることができます。
日本野鳥の会では、北海道のオオジシギに衛星発信器をつけて、オーストラリアにわたるルートやわたりの日数を調べています。今年、北海道の勇払原野で発信器をつけられたオオジシギ のうちの1羽は、オーストラリアまでの7,800キロメートルを、どこにも降りることなく飛び続け、6日間でオーストラリアの越冬地に着きました。計算してみると、時速はほぼ50キロメートルでした。
もっとすごい記録をもっているのがオオソリハシシギです。オオソリハシシギはなんとアラスカの繁殖地から、太平洋を12,000キロメートル、一度も休むことなく飛行して、越冬地のニュージーランドまで11日間で到着しています。平均速度は時速45キロメートルくらいです。
まとめ
鳥は速く飛べる。でも、鳥たちもふだんはそんなに速くは飛びたくないのかもしれないね。鳥たちがいつ、どこで、なんのために速いスピードを出すのかには、その鳥の生態が深く関わっているんだ。
鳥が飛んでいるところを見つけたら、どんな飛び方をしていたか、どれくらい速かったか、なんのために飛んでいたのか考えて、ワークシートに書き込んでみよう。「鳥のヒミツをときあかせ vol.2 鳥はなぜ飛べるの?」にもいろいろな鳥の飛び方がのっているよ。
解説者紹介
上田 恵介Keisuke Ueda
1950年大阪府生まれ。
動物生態学者。元立教大学理学部生命理学科教授。元日本鳥学会会長。
鳥類を中心に動植物全般の進化生態学のほか、環境問題の研究にも取り組む。
日本野鳥の会評議員で、会長。会員による鳥類学論文集「Strix」の編集長も務める。