鳥のヒミツをときあかせ vol.4

渡(わた)り鳥はなぜ渡る?

長い距離を渡る鳥たちのヒミツ

夏にたくさん見るツバメ、冬にたくさん見るカモは、どこからきてどこに行くんだろう?
ツバメやカモは「わたり鳥」といって、毎年、春と秋に遠くまで移動いどうするんだ。
どうしてそんなに遠くまで移動するの? 迷子まいごにならないの? 食べものはどうするの?
渡り鳥にはどんなすごいヒミツがあるのか見てみよう!

チャレンジ1

鳥が渡るのはなんのため?
冬鳥と夏鳥の渡りの目的もくてきを知ろう

鳥の渡りの目的は食べものです。たとえば、冬になるとシベリアからハクチョウやカモなどの水鳥や、ツグミなど小鳥の仲間なかまが日本にやってきます。日本で冬をこすためにやってくる鳥たちを「冬鳥」といいます。大地が雪と氷におおわれてしまう北の地方では、水面で生活する水鳥や、地面でえさをさがす小鳥たちは生きていくことができません。冬鳥たちは食べものをもとめて、あたたかい日本へ渡ってくるのだと考えられます。

シベリアから日本に渡る道のり
オオハクチョウ
コガモ
ツグミ

一方、夏になるとやって来る「夏鳥」とばれる鳥たちもいます。日本では、都会にはツバメ、森にはオオルリ、キビタキ、サンコウチョウなど、見た目も声も美しい小鳥たちがやってきます。夏鳥の目的は子育て。温帯域おんたいいきの国では、夏になると虫が一時的にたくさん出てきます。ツバメやオオルリなど昆虫こんちゅうを食べる鳥たちが、ヒナを育てるのに十分な食べものをとることができます。冬になるとんでいる虫はほとんどいなくなるので、ツバメもオオルリも日本よりさらにあたたかい南の地方へ渡っていきます。

春にやってきて子育てをするツバメ
オオルリ
キビタキ

Q. 猛禽類もうきんるいたちも渡るの?

タカやハヤブサ、フクロウなど、するどいつめとくちばしをもち、他の動物を食べる鳥の仲間のことを猛禽類といいます。食べものが渡りの理由になっているのは、水鳥や小鳥の仲間だけではありません。猛禽類であるサシバやハチクマも渡りをします。
夏鳥のサシバは、日本の里山でカエルやヘビや大きな昆虫を食べているタカです。ハチクマも、ミツバチやスズメバチのをおそって、幼虫やサナギを食べています。えさになる小動物は、冬になると冬眠とうみんに入ったりして、姿を消してしまいます。だから、サシバやハチクマは、南のインドネシアの島にまで渡って冬をごし、春になると日本にもどってきます。衛星発信器えいせいはっしんきのデータからは、サシバやハチクマが春と秋でべつの道のりをたどって渡りをしていることがわかっています。おそらく空の上の気流や、天気などの気象条件きしょうじょうけんによって道のりを決定しているのでしょう。

ハチクマの渡りの道のり(秋)
ハチクマの渡りの道のり(春)
サシバ
ハチクマ

チャレンジ2

一生で240万キロメートル?
鳥が渡る距離きょりを知ろう

渡り鳥たちはときには数千キロメートルの距離を渡ることもあります。たとえば北半球のシベリアやアラスカの北極園ほっきょくけんで子育てするシギやチドリの仲間は、南半球のオーストラリアやニュージーランドまで渡って、冬をこします。
発信器をつけられたホウロクシギはオーストラリアを飛び立ったのち、ニューギニア島で少し休んだ後、ノンストップで3000キロメートルの距離を一気に飛びこえて、日本にある四国の吉野川よしのがわ河口かこうまで飛んできました。

ホウロクシギの渡りの道のり
ホウロクシギ

長い距離を渡る鳥がたくさんいるなかで、一番遠くまで渡る鳥といえばキョクアジサシの右に出るものはいないでしょう。キョクアジサシは鳥のなかでもっとも長い距離を渡る鳥で、1年のうちに北極圏と南極圏なんきょくけんの間を行ったり来たりします。アイスランドとグリーンランドで子育てするキョクアジサシは、大西洋を大きくS字の形に南へ渡って南極海の周辺しゅうへんで過ごし、だんだん北上して北極圏に戻ります。
その距離は1年で平均して7万900キロメートル、オランダで子育てするグループは9万キロメートルもの渡りを行なうことがわかりました。もしキョクアジサシが30年生きるとしたら、一生のうちにおよそ240万キロメートルを飛ぶことになります。これは地球から月に3回行って戻ってくる距離にあたります。

キョクアジサシの渡りの道のり
キョクアジサシ

Q. 鳥はどうやって渡りの時期を決めるの?

春、子育ての季節きせつが近づくと、昼間の時間が長くなってきます。鳥たちはこの日が長くなったことを感知して、渡りの準備じゅんびに入ります。目から入った光が信号しんごうとなってのうにとどき、脳からの命令でせいホルモンが出ます。この性ホルモンの働きで、渡りの前になると、鳥たちはなんとなくソワソワしはじめます。鳥になってみないとわかりませんが、なんとなく「北へ行かなくちゃ」、「飛び立たなくては……」という気分になってくるのです。秋になって日が短くなってくると、性ホルモンがストップし、鳥たちは南への旅の準備をはじめます。

チャレンジ3

なぜ長距離の旅ができるのか?
鳥の体のヒミツを知ろう

シギやチドリたちの多くは、北極圏から南半球の目的地までの長い距離を渡ります。途中、干潟ひがたなどにおりて、しばらくえさを食べることもありますが、ほとんど休みなしで目的地まで飛びつづける種類しゅるいもいます。
たとえば日本で発信器をつけられたオオジシギは、秋の渡りでニューギニア島まで5000キロメートルを、6日間休みなしで飛び続けました。同じように、アラスカ州で発信器をつけられたオオソリハシシギは太平洋1万2000キロメートルを11日間で一気に渡り、ニュージーランドにたどりつきました。この間、まったくたり、食べたりしていないのです。

オオジシギとオオソリハシシギの渡りの道のり
オオジシギ

シギやチドリは、渡りの前にたくさんの脂肪しぼうを体にためこみます。種類によっては体重が2倍にもえることが知られています。ためた脂肪を少しずつ使いながら、一気に長い距離を渡り、目的地に着くころには、体重は半分になっているそうです。
けれど1週間も10日も、ねむらずにいて平気なのでしょうか。例えばアマツバメの仲間は1年のほとんどを空中で生活していますが、夜も空中にとどまり、飛びながら寝ているらしいということがわかっています。イルカなどは脳の左側と右側を使い分けて、交代で脳を眠らせることができるということが知られているので、もしかしたら長い距離を渡る鳥たちも、脳の右と左を順番に休ませながら、飛んでいるのかもしれません。

アマツバメ
夜空を飛ぶアマツバメのイメージ

チャレンジ4

なぜ道にまよわないの?
太陽、星座せいざ地磁気ちじきのヒミツを知ろう

渡り鳥は、太陽の位置いちで方角を知ることができます。太陽は東からのぼって西に沈みます。鳥たちは体のなかに時計をもっていて、日の出から何時間たったかがわかるので、時間とその時の太陽の位置で、東西南北の方向がわかるのです。これを鳥が持っている「太陽コンパス」と言います。
では夜に渡る鳥はどうしているのでしょう。夜に渡る鳥たちは、星座の位置を見て飛んでいることがわかっています。アメリカの研究者が、渡りの時期がきたときに、カゴに入れた鳥(ルリノジコ)をプラネタリウムに持ち込みました。そして夜空の星座を動かして、鳥がどの方向に向かって羽ばたくのか研究し記録きろくしました。
もし夜に雲が出て、星座も見えないときはどうしているのでしょう。雲がかかっていても鳥たちが方角を間違えることはありません。なぜなら、鳥たちは磁気を感じているからです。地球は大きな磁石のようになっていて、南北方向に地磁気が飛んでいます。鳥は人間には感じられない磁気を感じ、渡りの方角を決めることができると言われています。

時間と太陽の位置で方角がわかる
鳥は地球の磁気を感知できる

Q. 鳥はみんな無事に目的地にたどりつけるの?

いくら渡り鳥たちがすぐれた能力のうりょくを持っていて、さまざまなピンチを切り抜けられるとしても、渡りの旅は大変なことにちがいありません。とくにその年に巣立ったばかりのわかい鳥たちは、渡りをするのははじめてです。ハクチョウやガン、ツルの仲間は家族で一緒に旅立ち、目的地まで親鳥といっしょに飛んでいきます。その他の鳥たちも、大人の鳥について飛んでいくのでしょう。
データがないのでよくわかっていませんが、途中でれからはぐれたり、台風に巻き込まれたり、時にはハヤブサなどの猛禽類におそわれて命を落とすこともあるでしょう。毎年くりかえされる鳥の渡り。春と秋、ときには夜空を見上げて、渡り鳥たちの安全な旅を祈ろう。

まとめ

このページを読みながら、世界中の渡り鳥たちがどんな道のりで渡っているのか、ワークシートの1枚目に書き込んで渡り鳥の世界地図をつくってみよう。
2枚目にはインターネットや図鑑を見ながら、好きな渡り鳥を調べて書きこもう。コピーして書き込めばオリジナルの渡り鳥図鑑ができあがるよ。

解説者紹介

上田 恵介

1950年大阪府生まれ。
動物生態学者。元立教大学理学部生命理学科教授。元日本鳥学会会長。
鳥類を中心に動植物全般の進化生態学のほか、環境問題の研究にも取り組む。
日本野鳥の会評議員で、会長。会員による鳥類学論文集「Strix」の編集長も務める。

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