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2019年度(第42回公募)グランプリ選出公開審査会報告

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PRESENTATION

小林 寿
「エリートなゴミ達へ」

私は6年前にデビューしてからこれまでに14回、画廊などで展示を行っています。写真集も3年前から始めて11冊になりました。

展示をしたり写真集を作ることを続けていると、作業の終わったものが小さな暗室に集まっていきます。そういものが邪魔になってくると言っては何ですが、次から次へとプリントすることで積み重なっていく。まさにゴミのように積み上がっていくわけです。展示をするのでプリントしたい、そのためには暗室作業のたびにその積み上がったものをどかす作業が必要になります。

ある時、積み上がった段ボールの中が気になって見てみました。ヨレヨレの六つ切りのバライタが束になっていて、それを見た瞬間にグッときたというか、貼りたくなったわけです。それで今回、六つ切りを30mのロールに大きくプリントして貼りました。フィルムや、展示されなかったポラロイドなど、束になっているものを貼り込んで今回の作品になっています。

きっかけになったのは『セブン』という映画のワンシーンです。犯人の部屋でモーガン・フリーマン扮する刑事が「この部屋には犯人の書いた本が2,000冊ある。これを全部見て捜査の手がかりにしようとすると、50人の捜査員が徹夜で読んでも2ヵ月かかる」というようなことを言います。私もその中に入りたい、入って見てみたいと思いました。そういうことが背景にあります。後で考えてみると、私の暗室もすでにそういう部屋になってしまっていて、足の踏み場もない状態です。デジャブを感じてうれしかった記憶があります。

こんな本を作って何の意味があるのかという話ですが、夢があって、友達の家に遊びに行ったり、美術館へ行ったりしたときに、この本が書棚にささっていて、もし私が触れるチャンスがあれば、見入ってしまうし興奮すると思うのです。そういう本を生きている間、興味のある間は作り続けていきたいと思っています。

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審査員コメントと質疑応答

サンドラ・フィリップス氏(選者)

小林氏は実験的なブックの制作に非常に興味をお持ちだとお見受けします。ブックも気に入り、特にポラロイドが取り組みとして素晴らしく、フィルムに対する姿勢も好ましく思いました。実験的な5冊のブックは各ページがとても美しく作り上げられ、写真の素材も、私たちが育った古き良き写真という質感への姿勢も良いと思います。現在、スマートフォンで得られるコンセプチュアルな写真とは異なる素材や被写体は、アンチデジタルだと思いました。展示で写真を拡大したのも良い選択ですし、ぜひ直接見たかったです。まるで絵画的に仕上げ、紙の上に化学の流れをディレクションしたデベロッパーのようなお手並みです。とても気に入りましたし、何よりアイデアが素晴らしいと思いました。

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椹木 野衣氏

発表するあてのない写真が段ボールに詰められている、「ゴミ」と呼んでいますが、それらがブックになったり、際限なく貼られていたりというところに力強さを感じます。ただ、今回の展示はこれまでの展示と比べてけっこう収まりが良くまとまっていてシンプルに感じました。荒ぶる写真がどこまでも広がっているというイメージを過去の展示からは受けたのですが、今回はロールが床を迫ってくるという感じはなく、きちんと収まっているように見えました。

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ポール・グラハム氏

小さな暗室で、こんな大きな作品を作れるなんて素晴らしいと思いました。緊張感というか、写真に対する熱心な情熱や愛があります。同時に、フラストレーションや不満足な気持ち、美しい写真や良くあるタイプのイージーな作品に対する怒りのようなものもあると思いました。秩序ある美に対して自分の作品を「ゴミ」ということ、真反対である反発する力のようにも思います。それをどのようにとらえているのかお話しいただけますか。

(小林 寿)タイトルに矛盾を入れることは否定のように見えるかもしれませんが、ゴミとは正直思っていないのです。暗室ですべての作業を一人でやるなかで、どうしても自分ではコントロールできないものが入ってきます。きれいに焼くこともできるのですが、コントロールできないものを入れるほうが私には好ましく、きれいに焼くことにはあまり興味がありません。逆にコントロールできないような大きさで作りたい、自分じゃない誰かがやったんだというような、自分から離れていく感じです。タイトルには、暗室にあるものが段ボールで積み上がっていく様を見てなんとかしたい、ゴミの山のような状態のものをどうにかしたい、もう一度表に出したい、そういう意識が出てきています。

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安村 崇氏

写真がモノであることを痛感する作品で、ファイルをめくっているとページが重い、その感覚が良くて、写真を見ることよりページを繰ることに酔うというか、心地良さを感じる作品でした。ファイルと比べると、展示は物質性が希薄な気がしていました。触れたり踏めたりする物質感が薄いと思いましたが、この展示に満足されているのであれば良いと思います。

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PRESENTATION

  • 田島 顯

    「空を見ているものたち」

  • 中村 智道

    「蟻のような」

  • 幸田 大地

    background」

  • 江口 那津子

    「Dialogue」

  • 𠮷田 多麻希

    「Sympathetic Resonance」

  • 遠藤 祐輔

    「Formerly Known As Photography」

  • 小林 寿

    「エリートなゴミ達へ」

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