PRESENTATION
田島 顯
「空を見ているものたち」
私たちの暮らしの中で気象観測は大変重要な位置を占めています。日本では気象庁が地域ごとに気象台を設置し、観測員による観測を行っています。しかし気象台だけでは数が少ないため、少し規模の小さい測候所のほか、1,000箇所を超える無人の観測所「アメダス」が設けられ、オンラインでデータが集計されて全国の観測網をつくっています。
この無人観測所すべてに足を運び、写真に収めたものが今回の作品です。
無人の観測所はだいたい同じ形をしています。柱の一番上に風向・風速計、その下に日照計、温度計、雨量計。中には雨量計だけがぽつんと置かれている所もあります。気温や風に比べて雨の観測は、少し観測網が細かいということです。北国の一部地域には積雪計も付いています。
きっかけは些細なことでした。当時、島根県松江市の気象台近くに住んでいた私は、気象台のない町からも気象データが送られていることに疑問を持ちました。「どういう所で測っているんだろう?」と。そこで近くの観測所に行ってみると、たいへん小規模な設備が、狭い場所に押し込められるように立っていました。他はどうなっているのか気になり、県内の大田観測所に行ってみると、そこは住宅街の公園の中でした。「全国の観測所を見に行ったら、まだまだ面白い所があるんじゃないか?」こうして私は全国を駆け回ることになりました。
日本最北端の宗谷岬、最南端の波照間、標高2195mの御嶽山、海抜−3mにある秋田県の大潟……。大抵は車で行けますが、道が非常に狭かったり、週に2回の船でしか行けなかったり、たどり着くのに苦労した所もあります。驚いたのは、そんな場所にも、必ずそこに暮らしている人がいること。それで途中から、「どんなに難しくても絶対に行ってやる」という決心が生まれました。そうしないと、そこで暮らす方にも失礼だろうと思いました。
こうして観測所を回るうち、6年の月日が過ぎていました。全国を回って見えてきたこともあります。北海道・美幌、青森県・湯野川、群馬県・西野牧、石川県・舳倉島、福岡県・朝倉、宮崎県・深瀬、この6箇所は学校の中にあります。気象観測にはある程度の広さが必要なので学校の敷地内に間借りしている観測所も多いのですが、この6箇所の学校はすべて廃校になっていました。首都圏で暮らしているとなかなか実感できないことですが、人口減少や過疎は確実に現実のものとなりつつあると感じました。
冒頭で1,000箇所を超える無人観測所にすべて足を運んだと言いましたが、実は2箇所だけ行けていない所があります。いずれも福島県の観測所です。どんなに困難でも行くと決心したのですが、どうしても行けませんでした。その理由はみなさんもご承知だと思います。ですから、この作品はまだ未完成なのではないかという思いもあります。
作品づくりを通じて全国各地ですばらしい風景、優しい人々にもたくさん出会いました。これからもいろいろな所に行って写真を撮り、その場所の空気のようなものを多くの人にお伝えできればいいなと考えています。
審査員コメントと質疑応答
ユーリン・リー氏(選者)
写真を日本列島の形に展示されていましたね。応募時はブックの形でしたので、展示はどのような形になるのかとても興味がありました。ブックではなく、よりインスタレーション的な形での展示になったのはなぜでしょうか。このような展示方法が効果的と考えられた理由をお聞かせください。
(田島 顯)今回の作品は、写真点数だけで1,034点になりました。それを地方ごと10冊のブックに分けて応募しました。展示にあたり、1,000枚もある写真をどのように見せるのか、おおいに悩みました。まず、全部を貼り付けると1枚がすごく小さくなります。なるべくたくさん並べたいが、そんなに小さくしたくはない。考えた末、写真のサイズは2Lになりました。次に貼り方ですが、観測所名はあえて出さず、日本の形に並べてみたらわかりやすくなるのではないかと考えました。与えられたスペースから展示できる枚数は143枚となり、地図上の位置に写真を配置しレイアウトしました。
日本の形に並べた写真を見て、同じようなものが並んでいるなと思いました。全国津々浦々にある設備がみな同じような格好をしているのを見て、統一がとれていると思えました。ブックではページをめくる必要がありますし、1,000枚以上を全部見るわけにもいきませんが、このように並べることで全体の統一性のようなものが見えてきた感じがします。統一のとれた、一つの目的のために働いている設備であることが改めて分かった気がしました。そういう意味で効果的であったと考えています。