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鳥が教えてくれること vol.5

よそ者は困り者か?

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外来種とは?

外来種とは「もともとその地域にいなかったのに、人為的に他の地域から入ってきた生物」で、ペットや家禽・家畜、園芸植物も、地域の生態系にとっては外来種となる。外来種は身近に存在しているが、それが野生化し、定着、増加、分布の拡大などによって、生態系や農業に影響を及ぼすようになれば問題となる。昆虫ではヒアリ、クモではセアカゴケグモ、カメではカミツキガメなどのように、人に危害を及ぼすおそれのある外来種は、マスコミでもよく扱われるようになった。その一方、鳥類の外来種はそれほど騒がれていないようだが、問題はないのだろうか?
野鳥写真図鑑の中でも、日本からハワイに移入されたメジロによる在来種への影響、マガモとアヒルとの交雑の問題、カワラバトの家禽化・野生化の経緯や功罪について触れているが、ここでは飼い鳥として輸入され、その後、逃げ出すなどして野生化している3種を紹介しつつ、外来種問題の本質まで迫ってみたい。

日本での鳥類の外来種の例

例えば、ガビチョウは、中国南部やインドシナ原産で、南方系のため日本海側や積雪地までは広がらないと思われていた。しかし、現在は九州から東北まで野生化し、分布の拡大が著しい。ハワイでは、生息場所や食物をめぐって在来種と競合し、在来種が減少した一因ともされている。
ヒマラヤから中国南西部が原産のソウシチョウは、九州から関東北部で野生化し、山地では優占種(地域の生物群集を特徴づける代表的な種)になるまで増加したところもある。ソウシチョウの巣を目当てに、カケスなどの捕食者が誘引されることで、ウグイスなど在来種の繁殖に悪影響があるとの研究がある。
また、インドやスリランカ原産のホンセイインコは主に関東で野生化。住宅地の緑地で木の実や花を食べ、樹洞で繁殖するが、ムクドリアオバズクなどと樹洞をめぐって争うことがある。
こういった鳥たちが増えて、彼らのさえずりが溢れている場所もある。そこでは、在来の野鳥の声は消されて聞こえてこないが、その問題に気づく人は少ない。

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ガビチョウ
スズメ目チメドリ科 全長約25cm
低地や低山の低い茂みに多い。さえずりはクロツグミに似るが、より大きな声で、伸ばす声が多い。

外来種の問題を考える前に、生物や生態系について知ろう

「何が、どのくらい問題なのか?」「どうしたらよいのか?」を考えるには、まず、その地域の生態系の現状を知るようにしたい。もともとどのような生物種(在来種)がどのくらいいるのか?それぞれがどのような環境に暮らし、なにを食べ、なにに食べられるのか?などを知ることで、多様な種が複雑に関係している生態系の現状が見えてくる。 幸い、鳥類は生物種のレベルでは研究が進んでいる。また、生態系の上位に位置するため、鳥類のくらしや鳥類相を知ることが生態系全体の把握に役立つ。(「鳥が教えてくれることvol.1 鳥はなぜ自然保護の指標とされているのか」参照)

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ワカケホンセイインコ
インコ目インコ科 全長約40.5cm
ホンセイインコの亜種で、オスは首に輪をかけたような模様がある。住宅地の緑地で木の実や花を食べ、樹洞で繁殖する。ヒヨドリより甲高い声で鳴く。

外来種による生物多様性の低下の現状は?

2019年5月、世界132カ国の政府が参加する「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットホーム」(IPBES)は「すでに動植物約100万種が絶滅の危機にある」などと警告する、政策立案者向けの報告書の要約を公表した。種の絶滅のペースが「過去1千万年間の平均よりも数十倍以上速く、加速している」とも指摘している。外来種が在来種を追いやり、生物多様性を低下させることも、加速の要因とされている。
地球の歴史からすれば、生物の絶滅も進化も続くし、生態系が変化するのは当然とも言える。問題は人為によってその規模が大きく、速度が速くなっていることだ。このままでは、人類繁栄の基盤となった生物多様性や生態系サービス(※1)が持続不可能になりかねないとされ、今日、世界は持続可能な開発目標(SDGs)(※2)に取り組むことになっている。
例えば、都会ではすでに植物の多くが外来種となっていて、人々はそれらを愛でている。庭や公園、道端に在来種が生えていたら喜ぶべき段階になっており、身近な生態系では、今後、在来の植物は望めなくなる可能性もある。さらに、小鳥が植物の種子を散布するので(「鳥が教えてくれることvol.3 赤い実の秘密」参照)、野鳥が実を食べることによる園芸植物の野生化や分布拡大も、新たな問題として顕在化するかもしれない。

※1 生態系サービスとは、自然から得られる恵みのこと。食料や繊維など、自然から供給される物質的なものをはじめ、大気や水をきれいにしてくれる、登山や釣りなどのレクリエーションの場を提供してくれるなど、さまざまな恩恵がある。

※2 持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。

外来種への対応

外来種の問題が深刻になったことを受けて、2005年にある法律が施行された。「特定外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害を防止し、生物の多様性の確保、人の生命・身体の保護、農林水産業の健全な発展に寄与する」などを目的とした外来生物法だ。問題を引き起こす海外起源の外来生物を特定外来生物として指定し、その飼養、栽培、保管、運搬、輸入といった扱いを規制し、特定外来生物の防除などを行うこととしている。鳥類では特定外来生物として、カナダガン、シリアカヒヨドリ、ガビチョウ、ヒゲガビチョウ、カオジロガビチョウ、カオグロガビチョウ、ソウシチョウが指定されている。

そのうち、カナダガンは防除に成功した数少ない事例と言える。カナダガンは、北米原産で大型(全長100㎝を超えるものもいる)のガン類で、狩猟や愛玩飼育を目的にヨーロッパやニュージーランドに移入され、増加が問題視されてきた。日本では1980年代に野生化、定着がはじまり、増加して分布が拡大すると、近縁で絶滅危惧種のシジュウカラガンとの交雑といった遺伝的かく乱、農業被害などが懸念された。しかし、「カナダガン調査グループ」が主体となって、成鳥の捕獲や増殖の抑制を中心に防除が進められ、2014年までに野生化個体がいなくなった。体が大きい上に、開けた環境にいるので探しやすかったことや、分布が拡大する前に対策がとられことが幸いしたと思われる。
また、野鳥写真図鑑のカイツブリの解説でも触れられているが、ブラックバスなどの外来種の魚類が増え、カイツブリの主食である小魚などが食べられてしまい、カイツブリが姿を消した池が増えた。しかし、いくつかの池で、外来魚の駆除をすることでカイツブリが戻ってきたという報告がされている。池の水を抜く手法で外来魚を捕獲して在来魚を守り、かつての生態系に近づけることができたのだ。

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ソウシチョウ
スズメ目チメドリ科 全長約15cm
春夏は山地に多く、秋冬は低地でも見られるようになる。さえずりはクロツグミに似るが、ややリズム感に欠ける。在来種の小鳥のように虫や木の実を食べる点は、ガビチョウと同じ。

外来種はすべて悪者か

ここまで、外来種の問題についてみてきたが、外来種そのものが悪者というわけではない。家畜や家禽、農作物や薬の原料など、多くの外来種が人間に利用されてきたことを考えれば、その恩恵も大きなものだ。外来種を利用するのも、悪者にするのも人間次第と言える。だから、わたしたちは、もっと生物や生態系について知らなくてはならない。多くを知ることはできないまでも、自分の地域については知るように努めよう。外来種を増やさないためには飼育や栽培に責任を持つことが大切である。また、生態系サービスや地域の文化、地産池消まで視野に入れ、衣食住などさまざまに利用されている生物についても、その由来をできるだけ知っておくようにしたい。

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解説者紹介

安西 英明
hideaki anzai

日本野鳥の会 理事 主席研究員

1956年東京都生まれ。
1981年日本野鳥の会が日本で初めてバードサンクチュアリに指定した「ウトナイ湖サンクチュアリ」(北海道)にチーフレンジャーとして赴任する。
現在は同会の主席研究員として、野鳥や自然観察、環境教育などをテーマに講演、ツアー講師などで全国や世界各地を巡る。解説を担当した野鳥図鑑は45万部以上発行。

安西 英明