PRESENTATION
デレク・マン
「What Do You See, Old Apple Tree?」
私は自己認識、帰属意識、地域社会をテーマに作品を制作してきました。私は17歳まで香港で暮らし、13年前からイギリスに移り住んで、今では母国のように感じています。この作品はリンゴに関するものです。なぜリンゴかというと、最も英国らしい果物だからです。そして英国らしさを自分の母国として理解したいと思ったからです。
私はロンドンで、こうした果樹園の写真、果樹園支える人たちの写真を撮っています。果樹園を支えている人たちに尊敬の念を示しています。 果樹園の数は年々減り、ロンドンではここ100年間で98%減少しました。イギリスで食べるリンゴの31%しか国内産ではありません。こうしたことは、私たちが経済的な成長や開発を求めて自然から遠ざかってしまったことを示しています。都市で生まれ育つ人は果樹園のようなところでしか自然と触れることができないと思います。
私の作品は、リンゴでカメラを作り、リンゴの眼から見ています。リンゴはただの「もの」や被写体ではなく、作品の中核にあるものです。題名は、果樹園で最も高い木のところでみんなが踊り、悪霊退散と豊作を願う古い歌のタイトルに由来しています。
私の作ったすべてのカメラがSite-Specificになっています。ロンドンのさまざまな果樹園に行き、そこでリンゴを採り、そのリンゴをくり抜いてカメラにするわけです。ですからすべての写真は、直接的にそこを撮ったカメラとつながりがあるということになります。この関係は円のようになっています。人がなければリンゴの木はない、リンゴの木が無ければリンゴはない、リンゴがなければカメラがなくて写真がないというように。
同じ果樹園でもさまざまな種類のリンゴがあり、私が作ったカメラも、1つずつまったく違いました。ですから、新しいカメラをつくるたびに、そのカメラを知って、そのカメラで写真を撮ることを学ばなければなりませんでした。
また、私は使ったリンゴを撮影後にゴミにはしたくなかったので、持ち帰ってアップルパイにしたり、フルーツサラダにして食べることをルールとしました。
撮影を始めてすぐに気付いたことは、このプロジェクトでは精細な画像が撮れるわけではないので、時としてまったく予想もしなかった結果が出るということです。例えば、画面の中心にボランティアの方がいて、右側には黒い部分があります。これは写真の一部ではなく、おそらくネガとリンゴの果汁が反応したのではないかと思います。これはコントロールできた環境下で作ったものではなく、すべてリンゴを使った写真です。枠組みも全部含めてレイヤーになっています。
写真の撮り方は、リンゴからテープを剥がし、2秒ほどで戻します。ピンホールカメラと同じような考え方ですが、もちろん、もう少し湿ったものにはなります。毎回、2〜6枚しか撮れません。また、1個のリンゴ(カメラ)を作るのに20分かかります。伝統的なカメラとは違い、リンゴのルーツに迫る中で、写真のルーツにも迫ることになりました。
このプロジェクトを通して、食べ物とコミュニティの関係や、自然と都市について考えました。リンゴはストーリーの中の重要なキャラクターなので、それぞれ写真を撮り、名前を付けました。そのほうが、それぞれのリンゴとコラボレーションしたような気持ちになるからです。プロジェクトの説明は以上です。
審査員コメントと質疑応答
さわ ひらき氏(選者)
とても面白く拝見しました。美しいビジュアルを何千枚も見る中で、デレクさんのイメージはピントがぼけていたり、いわゆる「ビューティ」ではない部分でチャレンジされています。コンセプトも面白いし、目線やソーシャルエンゲージメントなど、いくつかのレイヤーがある作品であると思いました。 展示プランをサブミットしたとき、説明のビデオはなくてもいいのかなと思ったのですが、でも、なかったらわかりづらいですよね。どの程度まで人に伝えないといけなかったものなのでしょうか。作品とビデオを横に並べるというのは必然だったのですか。
(デレク・マン)私にとって、見る人にプロセスを知ってもらうことが重要でした。この作品はアートであるだけでなく、コミュニケーションツールでもあったからです。なるべく多くの人に知ってもらうため、映像を見てもらうことが重要でした。
(さわ)ビデオはとてもわかりやすかったし、この人たちにリンゴが狩られるのかと思いながら見ていて、それがロマンチックだなとも思いました。そういう楽しみ方をしている横で現実を見せられている感じもしました。それと、展示の方法について、写真の大きさや並べ方はどのようにしてこうなったのかなとも思いました。
(デレク・マン)景色ではなく、人にフォーカスしたい、その場所を守っている人たちを中心に置きたいと思いました。サイズは、ニュアンスを示したかったので、一番小さいものからどれくらいの大きさまでもっていけるかを考えました。