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2020年度[第43回公募]グランプリ選出公開審査会報告

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PRESENTATION

金田 剛
「M」

この作品は、架空の天文学者「M」の軌跡を巡り、過去の真実と天文学に思いを馳せるというものです。

私はある日、とある天文台の資料室に展示されていた1枚の古い天体写真を目にしました。写真乾板に写る星々を備え付けのルーペで見たとき、過去に天文学者が見ていた光景を、私が今、写真を通して同じように見ていることに気がつきました。それは、まるで知らない誰かの記憶を辿っているような感覚でした。この天体写真はいつ、どこで、どのような人物によって撮影されたものなのか、不透明な存在である天文学者に対して想像をかき立てられたことを起点に、私はリサーチに基づいた作品の制作に取りかかりました。

19世紀に写真術が発明されてから天文学の研究分野が飛躍的に発達したという歴史的背景があります。写真前史における一般的な天体観測方法は、望遠鏡などを用いた肉眼での観測を通してそれを手描きでスケッチするというものでした。しかし、写真を応用した研究が普及し始めると、より忠実な観測記録が残せるようになり、また、記録を保存し複製して持ち運べるようになったことで、あらゆる天文学者の間で写真の比較・分析が行われるなど、情報の共有が可能となりました。さらに、写真感光材料の精度が高まるにつれ、これまで肉眼では到底見ることのできなかった暗い天体も、その姿が次々と明らかになっていきました。

私はリサーチを通してこうした事柄を知り得たとき、写真を用いて星を手に取るかのように眺めるということ、それは天文学者が長年抱いていた欲望のように思えてなりませんでした。制作を進めるなか、あの日ルーペ越しに思いを馳せた天文学者に私は「M」と名付けました。宇宙という壮大な存在を見ているにもかかわらず、ルーペを用いて写真に写る小さな星を見ている。そうしたミクロとマクロが混在した視点から、「M」を架空の天文学者の名前としました。
また、当初、天文学の研究に写真術を応用していたのが、多くの場合アマチュア天文学者だったという背景から、様々な試行錯誤を通じて、純粋な気持ちで写真に星を写したかったのではないかという思いを作品に反映させています。

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審査員コメントと質疑応答

瀧本 幹也氏(選者)

ミクロとマクロには私も興味があり、肉眼では見えないようなものを見たいという欲求がすごくあるのですが、そのミクロとマクロからタイトルを「M」とされたのですか。

(金田 剛)そうです。中心に配置したメインピースは、宇宙という壮大なものを見ているにもかかわらずルーペを用いて小さい写真を見ている、マクロなものの構造を分析するにはミクロな視点も必要であるといった、天文学者の科学者としての思考が現れているように思えて、キーワードを「M」とし、架空の天文学者の名前にしました。

(瀧本 幹也)ミラーボールのようなものが樹の下にありますが、あれは写真を1つずつ貼り付けたものですか?

(金田 剛)そうではなく、これはMが設計したとされる架空の人工衛星です。ミラーボール型の人工衛星は実際にあったもので、それを模して制作しています。

(瀧本 幹也)最初はデータでの応募だったかと思いますが、それだと見落としてしまいそうだと思っていました。今回、このような展示方法を含め、全体的なクオリティもとてもよかったと思います。

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オノデラユキ氏

この作品は全部で何点あり、また制作時間はどのくらいかかったのでしょうか。
こうしたリサーチ系の作品はここ10年ほど多くみられますが、リサーチというと、本当の研究者の場合、そのリサーチの仕方は本人と入れ替わってしまうかのような集中ぶりです。金田さんの場合、この「M」に対してどれほど入れ込んでいるのかを知りたくてこの質問をしました。

(金田 剛)作品点数は22点、制作期間は約1年間です。Mに対しては、自分の感情を入れないように客観的に考察しながら制作を進めていきました。

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PRESENTATION

  • 金田 剛

    「M」

  • 後藤 理一郎

    「普遍的世界感」

  • セルゲイ・バカノフ

    「The Summer Grass, or My mother's eyes through her last 15 years」

  • 立川 清志楼

    「写真が写真に近づくとき」

  • 樋口 誠也

    「some things do not flow in the water」

  • 宮本 博史

    「にちじょうとひょうげん—A2サイズで撮り溜めた、大阪府高槻市・寺田家の品々—」

  • 吉村 泰英

    「馬の蹄」

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