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2021年度[第44回公募]グランプリ選出公開審査会報告

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PRESENTATION

ロバート・ザオ・レンフィ
「Watching A Tree Disappear」

2018年、1本のアルビジアの巨木が嵐で倒れました。その場所にカメラを設置して、巨木の周辺の動きをライブ配信することにしました。これは現在も進行中のプロジェクトで、巨木の様子をウェブサイトで配信しています。
私はアーティストで、自然の中で目にするストーリーを記録しています。この森の様子を数年前から記録し続けています。この森は普通の森とは異なり、廃墟となった場所に木々が育ってできました。そして里山でもあります。街のど真ん中に森があるのです。周りには集合住宅が建ち並び、人が生活しています。そんな周辺環境とはまったく異なる時間と空間がこの森には存在しているのです。

この場所には1930年代に軍の兵舎がありました。その場所に今あるのがこの森です。今ではさまざまな動植物が生息するようになりました。
この森ではいろんなストーリーが見つかります。それらストーリーから、これまでの歴史が見えてきます。自然と人間、その両方の歴史です。

なぜこの場所にカメラを設置したかというと、人間が存在しないときにたくさんのストーリーが生まれるからです。設置したカメラは、動きを感知すると映像と写真を撮影します。動物はもちろん蛾や風、雨も動きとして感知されます。森によって写真や映像が撮影される、そのアイデアが気に入っています。まるで森が自ら自分のポートレートを撮影している感じです。
非常に面白いストーリーを色々と発見しました。特に興味深いのが、この容器にまつわるストーリーです。15年前、ここで誰かが生活し、この容器を使って体を洗っていました。そして今、動物たちも、この容器を使って水を飲んだり、体を洗ったりしている。そんなストーリーを観察から発見したのです。

2018年に倒れたアルビジアの巨木、その倒木が朽ち果てていく様子を記録したいと思い、カメラを設置しました。カメラは24時間作動し、来る日も来る日も記録を続けています。動物がこの場所に現れたら、その映像がすぐに携帯電話に送信される仕組みになっています。映像がまったく送信されてこない日が続くこともあります。ちょうど携帯電話が手元にあるときに運良く送信されてくることもあります。
何も動きがない日のほうが断然多く、森はとても退屈です。たくさんのドラマやストーリーが生まれていますが、独特の時間の物差しの中でのことで、都会のようにスピーディーではありません。時間の感覚が異なるのです。

この巨木の様子を記録し続けて、完全に土に還って消えてしまうまで見届けるつもりです。自然の中で生まれるストーリーは、目に付きにくく、テレビを観る感覚とは異なります。目に付くものは何もない、それが普通なのです。その「何もないこと」が素晴らしい、そう思えるようになりたいと思います。

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審査員コメントと質疑応答

グウェン・リー氏(選者)

ユングは「混沌」についてこう語っています。“すべての混沌には調和があり、無秩序の中には秘められた秩序がある”。ロバート氏の作品を見たとき、このユングの言葉が浮かびました。一見何の変哲もない森の中に自然界の秘められた秩序が見えてきます。
新型コロナは私たちの仕事と家庭生活にさまざまな変化をもたらしました。それに伴い、自然の摂理が働いて、人間の活動で満ちていた場所も自然のリズムを取り戻しつつあります。慣れ親しんだ時間と空間の概念は一変し、すべてが崩壊したかに見える一方で新しい生活様式が始まりました。
「Watching A Tree Disappear」はテクノロジーと自然を映像によって表現した作品です。世界中でパンデミックが続く現在、人と自然とテクノロジーの関係性がさかんに議論されています。人と自然が同じ時間と空間の中でどのように共存すべきか。この重要な問題にアーティストとしてどのように取り組むべきなのか。映像を見ていると、倒木はその他の自然や野生生物にとって共有空間となっているのがわかります。倒木は時間の象徴となったのです。それは人間の感覚の時間ではなく、自然の中に流れる時間です。再生して土に還って森を育てる、それは多大な時間を要するサイクルです。それが作者が伝えたかった真のメッセージなのかもしれません。
ロバート氏はこの作品でアーティストの立場から科学の世界をアートに取り込みました。倒木の様子は、世の中の仕組みを観察し理解することにつながります。大きな森の中の倒木というひとつの存在、それは私たちに終わりと始まり、死と再生を教えてくれます。

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オノデラユキ氏

この作品は審査の時に目にとまりました。カメラを設置してセンサーで動物を捉えるというのは動物学者が調査のためにやっていることですが、動物学者は動物が通りそうな所にカメラを設置するのに対して、彼は動きのない倒木を主人公にしています。何だろうと思って見ていると、蟻が歩いていったり。辛抱強く見続けていると、ちらっとトカゲの尻尾が映ったり。作者が意図的に撮ることができない、そういう場所にカメラを置いた作品を創るところに彼のユーモラスでポエティックな感覚が表れています。

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安村 崇氏

倒木が何十年もかけて朽ちていく様子を自然のタイミングで配信するというのが美しい構造だと思いました。見る側は待たなくてはいけない。展示会場でずっと待っていて、何か動きが見えたらすごく感動するのではないかと思います。そのことが自然と人間の関係を問うていると思いますし、大自然の見事な切断面だと感じました。

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清水 穣氏

私は展示作品よりもプレゼンテーションビデオの方がはるかに面白かったですね。この森はまったくの自然ではなく、都市のど真ん中にあって、人々がうち捨てた少し大きめの公園のようなところがワイルドになったもの。人間がいなくなった後の廃墟に育った森なんですよね。だから大自然の時間とは少し違うはずです。人間の廃墟の後に育った森と、人間の関係。そこにはいろいろなストーリーがあって面白いというテーマが、今回の作品にすくい取られているとは思えませんでした。

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PRESENTATION

  • 宛 超凡

    「河はすべて知っている——荒川」

  • テンビンコシ・ラチュワヨ

    「THEMBINKOSI HLATSHWAYO」

  • 光岡 幸一

    「もしもといつも」

  • 賀来 庭辰

    「THE LAKE」

  • ロバート・ザオ・レンフィ

    「Watching A Tree Disappear」

  • 千賀 健史

    「OS」

  • 中野 泰輔

    「やさしい沼」

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