歴史館年代から見る

1997年-2000年

1997-2000

新しい映像の時代

35mmAF一眼レフカメラの代名詞、EOSの進化はとどまるところを知らない。APSではズームレンズ機が続々登場し、さらなる飛躍に期待がかかる。そしてこの時代、コンピューターの普及により、デジタルスティルカメラとデジタルムービービデオカメラが映像記録史上、類を見ない勢いで市場に投入されはじめた。映像情報処理機器の分野は、全く新しい時代を迎えようとしている。

進化を続けるEOSシリーズ

45点AF測距ポイントをデザイン化した「EOS 3」カタログ表紙

1990年代後半になると、EOSはさらに新機種を発表し続ける。1998年(平成10年)11月に発売された「EOS 3」は、開発に当って構図を優先した迅速撮影を可能にするAF、視線入力の高精度・高速化、作動耐久10万回、1/8000秒の高速シャッター塔載、「EOS-1N」と同等の耐環境・信頼性の確保といった、まさに高級機としての目標がかかげられた。その結果、21分割評価測光、45点測距、合焦スピード、精度がさらに進化した視線入力システムを実現。中でも、中央1点から3点、5点と進化してきたAF測距ポイントが一気に45点と飛躍的な進化を遂げ、さらにそれらの測距ポイントに縦位置横位置どちらでも対応する視線入力AFシステムなど、驚くべきハイスペックモデルとなった。もちろん高い堅牢性・信頼性をも実現しており、「EOS 3」は、当時のフラッグシップ機「EOS-1N」をも上回る充実した機能により、アドバンストアマチュアからプロにいたるまでその信頼を得、大きな話題を呼んだ。

45点AF測距ポイントをデザイン化した「EOS 3」カタログ表紙

1999年(平成11年)4月には、「EOS Kiss III」が登場。初心者用のエントリーモデルとしての位置づけにあるKissシリーズだが、上下左右に威力を発揮する7点測距、露出ミスを軽減する35分割評価測光など、「EOS Kiss III」はこのクラスとしてはオーバースペックといえるほどの機能を備えている。そして、ボディは355g(電池別)とさらなる軽量化が図られており、Kissシリーズの小型・軽量という基本コンセプトもしっかり継承。さらに、EOSシリーズにおけるEFレンズの互換性によって、ほかのEOS機種と同様、『赤はちまき』と呼ばれるプロ仕様のハイスペックなレンズを使うことももちろん可能だ。極端にいえば、プロも使えるカメラ。「EOS Kiss III」は、初心者から作品づくりを目指すユーザーまで幅広く満足して使える、完成度の高いカメラなのである。

プロ、アマを問わず世界中のユーザーによって、幅広い写真表現の現場で選択され、使用されてきた「EOS-1N」は、2000年(平成12年)4月、「EOS-1V」として生まれ変わる。さらなる高速・高精度AFの実現、高速連続撮影、高い堅牢性に基づく信頼性などを目標に開発された「EOS-1V」は、通常9コマ/秒、パワーブースター装着時には10コマ/秒という高速連続撮影性能を備え、「EOS 3」の機能をさらに改良した高速・高精度45点測距、21分割評価測光など最新機能を満載。また、金属ダイキャスト成形とプラスチック成形技術を融合したチクソモールディング成形技術によって、従来どおりの機能美溢れる曲線ボディに、マグネシウム合金による高剛性・高精度・高耐久性をプラスすることに成功した。ユーザーの好みに応じて細かい操作の設定ができる、カスタムファンクション機能は20種類。数々の最先端技術を導入した「EOS-1V」は、カメラ記者クラブ主催の第17回カメラグランプリにおいてグランプリを受賞するなど、新世紀に相応しい究極のAF一眼レフカメラとして、カメラ業界内外の話題を集めた。

EFレンズシリーズのラインナップ

AF時代に相応しい、完全電子マウントのEFレンズシリーズ

EFレンズは、広角域から望遠まで、50種類を越えるラインナップが用意されている。マクロ機能や、「EF50mm F1.0」といった大口径レンズ、35mm-350mmの高倍率ズームなどバリエーションも豊富。また、普及レンズ、中級レンズ、プロ仕様レンズも各種そろっている。中でも手ぶれ補正機能の付いたISレンズは、シャッタースピードを2段分高速にしたのと同じ効果があるといわれ、撮影の幅を広げるレンズといえるだろう。これらのほかに、被写体の歪み補正やパースペクティブがコントロールできる機能が付いたTS-Eシリーズもある。

APSのラインナップも充実

APSの代名詞ともなったIXYシリーズも、ラインナップが充実。1997年(平成9年)6月に発売された「IXY 25」は、30-60mmの2倍高画質ズームを塔載。翌年3月発売の「IXY 330」は、世界最小・最軽量の3倍ズームをめざして開発された。さらに、APS一眼レフカメラも進化。ベストセラーとなった「New EOS Kiss」の基本性能とAPSの機能を融合した「EOS IX50」が、1998年(平成10年)3月に発売された。APSの最大のメリットであるコンパクト化を、一眼レフに徹底反映させた「EOS IX50」は、小型・軽量に加え、高機能、簡単操作も実現した新時代の一眼レフとして注目を集めた。

デザインも楽しい防水機能付きAPS「IXY D5」

コンパクト化という方向性と同時に、少々毛色の変わったモデルも登場している。1999年(平成11年)11月に発売した、「IXY D5」だ。5m防水機能を備え、オートデート機構はもちろん、スローシンクロ、水中マクロなど6種類のストロボモードを塔載している。さらに、丸みを帯びたホワイトゴールドとクリアグリーンのボディによって、新鮮・高品位な演出もなされており、アウトドアファンのみならず、幅広いユーザーの要望に応えるオールラウンドカメラである。

急激に進歩するデジタルの世界

作品づくりを楽しむユーザーをターゲットにした「PowerShot Pro70」

世界最小・最軽量を実現したデジタルカメラ「IXY DIGITAL」

デジタルカメラ・デジタルビデオカメラといったデジタル製品は、’90年代半ばから急激に進歩の様相を見せる。コンピュータや通信ネットワークの進歩にともない、その重要な周辺機器としての役割を担い始めたのである。デジタルカメラにおいては、キヤノンは1998年(平成10年)3月の「EOS D2000」や同年12月の「EOS D6000」など、一眼レフタイプの超高級機を発売する一方で、コンパクトな普及タイプのデジタルカメラも市場に投入する。1998年(平成10年)4月に登場した「PowerShot A5」は、81万画素のCCDを搭載し、記録メディアにCFを使用するポケットサイズのデジタルカメラとして人気を博した。同年11月には、168万画素CCDを搭載し、作品作りを目指す層をターゲットとして絞り優先式AE機能などを盛り込んだ「PowerShot Pro70」を発売。そして、2000年(平成12年)5月には、「IXY DIGITAL」が登場した。APSで大ヒットを続けるIXYシリーズを、サイズをそのままにデジタル化した「IXY DIGITAL」は、211万画素のCCDを塔載した世界最小・最軽量(光学ズームレンズ搭載機<200万画素クラス>)デジタルカメラとして、発売と同時にトップシェアを獲得するヒット商品となった。

また、1998年(平成10年)10月、キヤノン(株)、イーストマン・コダック社、富士写真フイルム(株)、松下電器産業(株)が共同でデジタルプリントにかかわる共通規格DPOF(Digital Print Order Format)を発表した。デジタル画像をプリントする際の画像指定・枚数などのプリント指定情報は、各メーカーごとに様々。そうしたプリント情報を共通フォーマット化しようという試みである。自分でプリントする場合はもちろん、お店でも銀塩写真のように手軽にプリントできるフォーマットとして、DPOFには大きな期待が寄せられている。

デジタル映像メディアの隆盛

ファミリーユースのデジタルビデオカメラ「PV1<撮れビアン>」

1997年(平成9年)、キヤノン初のデジタルビデオカメラ「MV-1」が登場。ビデオカメラもDVフォーマットによるデジタル時代に突入する。「MV-1」は、他社が採用するインターレーススキャンCCDに対し、ビデオ画像のブレが少ないプログレッシブスキャンCCDを使用している。プログレッシブスキャンCCDは、信号処理が複雑でその採用には高度の技術力が要されるが、それこそ、カメラメーカーとして画質にこだわるキヤノンらしい選択といえるだろう。

1999年(平成11年)に発売した「PV-1<撮レビアン>」は、小型・軽量・高画質を実現。動画だけではなく静止画の記録・再生機能も搭載し、2000年(平成12年)5月発売の「FV10」へと進化する。撮レビアンシリーズは、光学式手ブレ補正や高倍率ズームレンズ、音声のデジタルエフェクト機能など、撮り易さと撮る楽しみをユーザーに提供するファミリー向けデジタルビデオカメラとしてヒットした。

NASA公認のデジタルビデオカメラとして、スペースシャトルに積まれた「XL1」

アドバンストアマチュアやプロ仕様機としては、1998年(平成10年)2月、レンズ交換式の「XL1」が発売された。3倍広角ズームや手振れ補正機能付き16倍ズームなど専用レンズが用意されているが、Hi-8時代の「LX-1」と同様にEFレンズの使用も可能。この「XL1」は、その性能と信頼性によってNASA公認のビデオカメラとしてスペースシャトルに積まれ、宇宙にまで進出した。

カメラとレンズとともに、およそ70年にも及ぶ道のりを歩んできたキヤノンは、長きに渡って培ってきた光学、電気、電子技術やそれらを活用するノウハウを最大限に活かし、目まぐるしく移り変わるデジタル映像メディア隆盛の21世紀をますます力強く歩んでいる。