キヤノン株式会社(以下、キヤノン)と大阪大学の共同研究チームは、新たに開発した誘導ラマン分光顕微鏡*1を用い、生体組織を無染色で観察することに成功しました。
今日、がん等の治療法の決定には病理診断が用いられています。これは、患者から採取した生体組織の、細胞の形態やつながりを光学顕微鏡で観察する診断です。しかし、組織や細胞は無色透明なものが多いため、そのままの状態で観察しても細胞内の構造は識別できず、組織を加工、染色する必要があります。また、細胞のつながりを把握するために生体組織を3次元的に可視化する際にも、組織を薄片化し多数の2次元画像を重ねる必要があり、時間と労力がかかっています。
このたび、キヤノンと大阪大学は、生体組織を3次元的に無染色で高精細に観察することができる*2 "誘導ラマン分光顕微鏡"を開発することに成功しました。これは、大阪大学が開発した、光波長を高速に切り替えることができる2色のパルスレーザーを採用した新しい誘導ラマン分光顕微鏡に、キヤノンの持つ病理診断に関する知見や生体材料のハンドリング技術を融合させることで実現したものです。
今回 開発した"誘導ラマン分光顕微鏡"は、基礎医学や分子生物学における研究ツールとして、また、医療分野においては、その観察法が、病理診断をはじめ、組織の異常を調べるための迅速かつ高精度な検査技術として応用されることが期待されています。今後、レーザー光源の実用性を高め、本技術を数年以内に医療現場で実用化することを目指します。
キヤノンは、医療分野での新規事業創出を目的に、様々な研究開発に取り組んでいます。
今回の研究成果は、2012年11月11日(英国時間)に英国の論文誌Nature Photonicsのオンライン速報版に掲載されています。論文名・著者は以下の通りです。
論文名 | : | High-speed molecular spectral imaging of tissue with stimulated Raman scattering (誘導ラマン散乱による組織の高速分子分光イメージング) |
著者 | : | 大阪大学 小関泰之*、梅村航、住村和彦、福井希一、伊東一良 名古屋大学 西澤典彦 キヤノン 橋本浩行、大塚洋一、佐藤秀哉 *科学技術振興機構さきがけ兼務 |
本プレスリリースは、11月12日に大阪大学より発表されるプレスリリース「波長が変化するレーザーを用いた新しい顕微鏡を開発-染色せずに生体の三次元構造などの観察が可能に-」に合わせて発行しています。