ニュースリリース

2012年9月13日
キヤノン株式会社

キヤノンの技術が「すばる望遠鏡」の広視野化に貢献

キヤノン株式会社(以下、キヤノン)が補正光学系*1を開発・製造した、新たな超広視野主焦点カメラ*2“Hyper Suprime-Cam(以下、HSC)”が「すばる望遠鏡」に設置され、8月28日(ハワイ時間)より性能試験が開始されました。

  • ※1補正光学系とは、主鏡で集められた光の収差を補正し、高い結像性能を得るためのレンズユニットです。
  • ※2超広視野主焦点カメラは望遠鏡の主焦点部分に設置される観測装置で、特に広視野での観測を行う際に利用されます。主鏡が8m以上ある望遠鏡で、主焦点に観測装置を備えているのは世界でも「すばる望遠鏡」のみ(国立天文台調べ 2012年9月13日現在)。
ハワイ島マウナケア山頂のすばる望遠鏡

ハワイ島マウナケア山頂のすばる望遠鏡

ハワイ島マウナケア山頂に位置する「国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡」は1999年に試験観測を開始した大型光学赤外線望遠鏡です。このたび、より広視野での観測を行うために、国立天文台が、東京大学国際高等研究所・カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)をはじめとする複数の研究機関と共同で超広視野主焦点カメラ“HSC”の開発を行い、その中の補正光学系の開発、製造をキヤノンが担いました。

最大視野角を従来比約3倍に拡大

望遠鏡の既存設備に搭載されるため、補正光学系全体の質量・外径に厳しい制約がある中、キヤノンは長年培ってきた設計技術および、この補正光学系のために新たに開発した計測・精密加工技術を生かし、最大視野角を、初代主焦点カメラ「Suprime-Cam*3(以下、SC)」用補正光学系の0.5度角から1.5度角に拡大させることに成功しました。レンズには、非球面レンズを使用し、視野角を約3倍にしながら、総レンズ枚数はSCと同じ7枚に、レンズ口径は約1.6倍に抑えました。広視野のHSCを含む各種宇宙観測機器を駆使することにより、従来は観測に16年かかると考えられていた範囲を2年で観測することができるようになると期待されています。

  • ※3Subaru Prime Focus Cameraの略。

高度な計測・精密加工技術により、補正光学系全体を軽量化

非球面レンズの加工は、レンズが大きくなるほど困難になりますが、キヤノンは自社製の高精度計測装置、加工装置を用いて、SC用補正光学系と同等の高い結像性能を持つ非球面レンズを完成させました。さらに、レンズを高精度に支持する鏡筒にはセラミックス材料を新たに採用し、従来の鏡筒材料に比べ大幅な軽量化に成功しました。セラミックス鏡筒の製作にも、キヤノンの高い精密加工技術が生かされています。

【すばる望遠鏡と超広視野主焦点カメラ】

画像提供 国立天文台

画像提供 国立天文台

【補正光学系仕様】

    Hyper Suprime-Cam用
補正光学系
Suprime-Cam用
補正光学系
レンズ 視野角 1.5度角 0.5度角
結像性能 0.2秒角 0.2秒角
最大有効径 約820mm 約507mm
レンズ構成 7群7枚 5群7枚
非球面数 5面 2面
最大非球面量 約4.89mm 約0.14mm
鏡筒 外径 約970mm 約600mm
全長 約1,664mm 約690mm
質量 約872kg 約170kg

【すばる望遠鏡について】

1999年の観測開始以来、すばる望遠鏡は最遠方銀河発見の記録更新をはじめ、さまざまな宇宙観測に貢献しています。
宇宙分野の研究がすすむにつれて、ダークマター、ダークエネルギー*など、新たな宇宙の謎が次々と発見されています。広視野で宇宙を捉えることのできる“Hyper Suprime-Cam”の完成により、宇宙の起源と未来を解き明かす研究がさらに加速すると期待されています。
キヤノンはこれからも技術を通して世界の科学技術や自然科学の発展に寄与していきます。

本プレスリリースは、9月13日午前4時(日本時間)に国立天文台、Kavli IPMUより発表されているプレスリリース「新型の超広視野カメラ Hyper Suprime-Cam、始動へ」に合わせて発行しています。

  • 暗黒物質、暗黒エネルギーともいわれ、宇宙を構成する空間物質の大部分を占めています。宇宙の成り立ちに大きな役割を果たしていると考えられていますが、ともにその実体は捉えられておらず、解明のための研究がすすめられています。