ニュースリリース
令和6年度全国発明表彰「朝日新聞社賞」を受賞
キヤノンは、公益社団法人発明協会が主催する令和6年度全国発明表彰において、「次世代天文観測を実現する高性能回折格子の発明」(特許登録第6253724号)で、「朝日新聞社賞」を受賞しました。
全国発明表彰は、日本の科学技術の向上と産業の発展に寄与することを目的に、公益社団法人発明協会が、多大な功績をあげた発明を表彰するものです。「朝日新聞社賞」は全国発明表彰において10点ある特別賞の一つです。
本発明は、天文観測などに用いられるイマージョン回折格子に関するものです。回折格子とは、光を波長ごとに分ける赤外線分光器に搭載される分光デバイスのことで、宇宙の微弱な光から情報を得るための重要な役割を担っています。従来の表面反射型の回折格子は、分光性能の不足により微量分子の観測が困難でしたが、キヤノンは、高屈折率材料の中を光が透過するイマージョン回折格子を開発することで、分光性能の向上を試みました。
しかし、高屈折率材料は割れやすいという欠点があります。これに対し、キヤノンは、レンズや半導体露光装置などの精密部品製造で培った独自の超精密加工技術を用いることで、数μm※1幅の階段状の加工を実現しましたが、光の散乱を引き起こす凸部の欠けを完全になくすことはできないという課題に直面しました。
そこで「欠けをなくすのではなく、その散乱作用を不能にする」という発想の転換により、凸部を鋭角に加工して光が通過する経路から逸らすという特異な構造を発明しました。これにより、理論値に近い分光性能が得られるイマージョン回折格子の開発、ならびに赤外線分光器の小型化を実現しました。
本発明により開発したイマージョン回折格子は、日本および欧州の天文台への導入や人工衛星への搭載が予定されているほか、医療や環境分野などの天文観測以外での活用も期待されています。
受賞および受賞者
朝日新聞社賞 | 杉山 成(キヤノン株式会社 生産技術本部 主任研究員) |
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田中 真人(キヤノン株式会社 生産技術本部) | |
発明実施功績賞※2 | 御手洗 冨士夫(キヤノン株式会社 代表取締役会長兼社長 CEO) |
なお、本発明に関する受賞とは別に、このたびの全国発明表彰において、当社顧問の長澤健一が長年の発明の奨励、青少年の創造性開発育成、知的財産権制度の普及啓発に貢献した功績が認められ、「発明奨励功労賞」を受賞しました。
- ※1
1μm(マイクロメートル)は、100万分の1メートル(=1000分の1mm)。
- ※2
顕著な実施効果をあげている発明で特に優れた発明者に「朝日新聞社賞」などの特別賞が授与され、これを受賞する当該法人の代表者に「発明実施功績賞」が贈呈されます。
イマージョン回折格子の加工における課題
イマージョン回折格子に用いられる高屈折率材料は、割れやすいという欠点があります。これに対し、精密部品製造で培ったキヤノン独自の超精密加工技術を用いることで数μm幅の階段状の加工を実現しましたが、光の散乱を引き起こす凸部の欠けを完全になくすことはできないという課題に直面しました。
本発明の狙いと効果
「欠けをなくすのではなく、その散乱作用を不能にする」という発想の転換により、凸部を鋭角に加工して光が通過する経路から逸らすという特異な構造を発明しました。これにより、理論値に近い分光性能が得られるイマージョン回折格子の開発、ならびに赤外線分光器の小型化を実現することができました。
イマージョン回折格子の特長
従来の表面反射型の回折格子は、CH4(メタン)などの一般的な分子は観測できましたが、観測精度(=波長分解能)の不足により、生命の起源解明につながるとされる炭素と酸素の同位体を含む微量分子の観測が困難でした。これに対し、高屈折率材料の中を光が透過するイマージョン回折格子は、屈折率に比例して観測精度が高くなり、宇宙空間上の物質を、分子のみならず原子レベルで検出することが可能になります。また、表面反射型の回折格子と比較して、飛躍的に小型化しても同等の観測精度が得られるため、大きさや質量に制限のある人工衛星への搭載や、大型化が課題となる天体望遠鏡の小型化につながることも期待されています。
キヤノンはこれまでにCdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)、Ge(ゲルマニウム)、InP(リン化インジウム)のイマージョン回折格子の開発に成功しており、近赤外線から遠赤外線に至るまで、天文分野における赤外波長(1μm~20μm)のほぼ全ての領域の分光をカバーできています。
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