テクノロジー

CTOメッセージ

キヤノン株式会社 代表取締役副社長 CTO 本間 利夫

イノベーションによる
社会課題の解決をめざす

アフターコロナのニューノーマル社会において、まさに社会は変革期にあるといえます。そのようななかで、キヤノンはどのように技術を育て、未来を切り拓こうとしているのでしょうか。
代表取締役副社長 CTO(Chief Technology Officer)である本間利夫がキヤノンの研究開発について語ります。

社会の変化とキヤノン

DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)の著しい技術進展で社会が大きく変わっていくなかで、キヤノンも大きな転換点に差しかかっています。キヤノンが主力事業としていたカメラの市場縮小や、複写機やプリンターの市場変容が進むいま、われわれは次の成長に向け、大きな変革に挑戦しています。

人類社会では、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、産業革命後の工業社会(Society 3.0)、そして、20世紀後半からの情報社会(Society 4.0)へと発展を遂げてきました。さらに、AIやIoT、ロボット、ビッグデータなどの革新技術をあらゆる産業が取り入れ、さまざまな社会課題を解決する未来社会「Society 5.0」に足を踏み入れようとしています。

この未来社会において、研究開発は従前の「発明型」に、社会課題解決型の「イノベーション型」が加わる、いわゆるパラダイムシフトが起きています。環境問題など多くの社会課題が顕在化し、技術がそれに応える時代となっているのです。社会課題が技術を要求する時代となり、長い期間をかけてシーズを育てる発明型だけでは成り立たず、社会課題にスピーディに応えるイノベーション型研究開発の重要性がより一層増しており、キヤノンの研究開発もこれらに対応する変革に取り組んでいます。

キヤノンの研究開発

キヤノンは創業当時から、業界をリードするコア製品を生みだす「コアコンピタンス技術(以下、コア技術)」と、技術蓄積のベースとなる「基盤要素技術」、さらには、商品化技術のベースとなる「価値創造基盤技術」を多様に組み合わせる「コアコンピタンスマネジメント」を展開して事業の多角化を行ってきました。

コアコンピタンスマネジメントでは、コア技術は進化にともない、他事業でも再活用できる基盤要素技術として蓄積されていきます。たとえば、カメラの人物認識というコア技術は、AI・データ統計解析という基盤要素技術として蓄積され進化し、現在では、多角化を担うメディカル事業の医療ITシステムに組み込まれて事業の強化に貢献しています。

このコアコンピタンスマネジメントは、研究開発のプロセスのなかでは「マトリックス研究開発体制」を通して行われています。本社の研究部門とそれぞれの製品を担う事業部の開発部門がマトリックス型の体制を敷き、全社技術の利活用が可能な体系を構築しています。製品の競争力のもととなるコア技術は事業部の開発部門が主体ですが、本社の研究部門は、先行的なトレンドリサーチと基盤技術開発を担い、事業部のもつコア技術の先行的な開発につなげています。

さらに、コア技術/基盤要素技術という「製品に入る技術」と、価値創造基盤技術という「製品を支える技術」が一体となって全社で利用・活用が可能なホリスティックな(技術を複合的に連携できる)開発環境が整っていることが、キヤノンの研究開発の最大の特徴となっています。これにより、製品に入る技術と製品を支える技術が強い技術として、同時に製品開発に投入されることで、他社に真似されにくい競争力のある製品を生みだしています。

さらなる高みに達するために

キヤノンでは、映像や画像を「撮る」「価値化する」「描く」という3つの製品に入る技術群(コア技術/基盤要素技術)が、プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルという4つの事業を強固に支え、多角化を進めてきました。これが現在のキヤノンの強みとなっています。今後は、これに産学連携やパートナー企業との連携などオープンイノベーションを活用して、さらなる業容の拡大を図っていきます。そこでは、製品を支える技術である価値創造基盤技術をフルに生かしていけることが強みになります。

たとえば、XRの領域では、映像や画像を撮る・描くというキヤノンの強いフィジカル(製品)技術を生かし、サイバー(ソフトウエアなど)技術をコアコンピタンスとするパートナー企業との連携で新たな価値を生みだしていきます。また、インクやトナーなどの材料技術の分野でも、当該分野のパートナーとの連携を通じてプリンティング以外への用途拡大も図っていきます。

このように変革の大海に漕ぎだそうとしているキヤノンで、必要となるのが若い、バイタリティのある人材です。本社の研究部門で最先端の基盤要素技術、事業部の開発部門で世界トップレベルのコア技術を開発していますが、この双方で力を発揮できる機会を積極的に設けています。また、新たに強化すべき技術領域に対しては、技術を習得するための研修の機会を設けて人材を育成し、つねに時代の要請に適した研究開発体制に対応できるようにしています。技術を複合化させていくことが大切ないま、イノベーションに欠かせない事業領域と技術領域の両面の目利きができる人材や、未知の領域に挑む人材を育成することで、挑戦していくキヤノンの社風を継いでいきたいと考えています。

技術体系図はこちら(0.7MB)

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