スマートフォンやコンピューターなどに搭載されているCPUやメモリーといった半導体部品には、ナノメートル単位の微細な電子回路が刻まれています。この電子回路をつくるのが半導体露光装置です。回路パターンの描かれた原画(レチクル)に光を照射して、ウエハー上に回路を焼き付けていきます。半導体は年々高集積化されてきていますが、そのキーデバイスが半導体露光装置です。
半導体露光装置は、回路図の原板にあたるレチクルをもとに、ウエハー上に回路パターンを縮小投影して露光します。ウエハーには感光性皮膜(フォトレジスト)が塗られていて、投影された回路パターンの部分だけが感光します。光で感光膜に像を焼き付ける――これはちょうどフィルム写真の原理と同じです。この露光処理の後、「現像」「エッチング」「ドーピング」などの処理を経てウエハー上に回路を形成します。現像とはウエハーを現像液に浸して不要なフォトレジスト層を溶かす処理、エッチングとは化学反応によって表面の二酸化ケイ素膜を除去加工するものです。ドーピングではイオン照射によって表面に導電型不純物を添加します。この一連の処理が30回以上も繰り返されて、半導体チップが誕生するのです。横図は簡単なトランジスター作成の手順です。
出来上がったトランジスターはp型シリコンの一部にドーピングによってn型シリコンを作成し、その上に絶縁体を挟んで、導電体を配置しています。この導電体に電圧をかけると、p型シリコンの導電体に対抗する部分に静電誘導によって電子が集中し、n型シリコン同士が通電するようになります。絶縁されているにもかかわらず、通電体の電界の影響をp型シリコンが受けて電子が集中するので、これを「電界効果」と呼びます。このトランジスターは導電体に電圧をかけたり、かけなかったりして使用します。このように半導体の上に絶縁体と金属をのせた構造のトランジスターをMOS(Metal Oxide Semiconductor)といい、さらに電界効果(Field Emission)を利用したトランジスターですから、通常、MOS FETと呼びます。
半導体露光装置で重要になるのが、ウエハーを乗せるウエハーステージの駆動制御技術です。微細な回路パターンを露光するためには、ウエハーを高速かつ正確に動作(駆動)させなくてはいけないからです。線幅90ナノメートル以下の回路パターンを焼き付ける場合、ウエハーステージの駆動には数ナノメートルの位置精度が必要となります。ステージを高速かつ高精度に駆動させるために、高出力のリニアモーターと静圧軸受け(空気圧を用いて非接触浮上させることで摩擦をなくす方式)を採用しており、ロケットより高い加速度で高速に、且つ高精度な位置精度の保証が可能になっています。近年では、ステージ位置制御に機械学習等のAI技術を取り入れることで、前後左右上下の各方向に±1ナノメートル単位でウエハーの位置を制御することができます。
半導体に微細な回路パターンを露光するためには、きわめて波長の短い光源が必要になります。現在の半導体露光装置の光源に使われているのは、波長365ナノメートルのi線、波長248ナノメートルのKrF(フッ化クリプトン)エキシマレーザー、波長193ナノメートルのArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザー、そして波長13.5ナノメートルという極紫外線「EUV」も登場しています。
EUV露光装置はこれまでにない超微細の回路パターンを描くことを可能にする一方で、大がかりな真空装置や冷却装置が必要で、巨大で巨額の設備となってしまうというデメリットもあります。そのため、従来の露光方式とは異なり、はんこのように型を押し付けて超微細回路を形成するナノインプリントリソグラフィなどの新しい技術にも期待が寄せられています。
小さな半導体部品とは正反対の、大画面テレビなどの大きなパネルを製造するためにも露光技術は活用されています。パネルは、光学マスク上に描画された微細な画素パターンを投影、大型ガラス基板上に焼き付け(露光)、現像して製造されます。投影にはミラーやレンズが使われますが、ミラーを使った反射光学系は、レンズを使った透過光学系に対して構成がシンプルで色収差がなく像性能が劣化しないなどのメリットがあります。FPD露光装置では数μmのパターンを露光するため、ミラーは高精度のものが必要となります。特に凹面ミラーは、大画面を継ぎ目なく一括で露光できる露光幅とスキャン距離を確保できるような大口径のものが利用されます。また、ガラス基板は広面積(「第8世代」で2200×2500mm)となり、超精密に動く超大型ステージが必要です。