キヤノンは共生の理念のもと、調達活動における基本姿勢を「調達方針」として定め、企業倫理の遵守や環境保全への配慮、公正・公平な取引などを推進しています。
また、キヤノンは2019年にグローバルサプライチェーンにおける社会的責任を推進する企業同盟であるResponsible Business Alliance (RBA)に加盟し、地球環境・人・社会に配慮した調達活動のさらなる推進に取り組んでいます。
キヤノンは、調達に関わる法規制やルールをグローバルな視点で遵守することはもちろん、サプライヤーとの公正で透明な取引を徹底しています。具体的には、「調達機能を担う役員・従業員のためのキヤノングループ行動規範」を制定し、調達担当者をはじめ発注依頼元となりうる役員や従業員が、法令遵守、企業倫理の堅持を常に念頭におき、適切に行動することを定めています。また、全グループ会社共通の詳細な調達業務ルールに基づき、グローバルで統一したプロセスで業務を遂行しています。
このほか、キヤノン(株)調達部門にグループ内の内部統制を担当する部署を設置し、ルール整備や運用状況のモニタリング、部門員教育などを通じて全体統制を図っています。
キヤノンは、調達方針にグループ内の掲げる「国内外すべての企業に門戸を開放し、公正・公平な取引を推進する」という考えのもと、既存のサプライヤー以外にも広くサプライヤーを募るオープン調達を推進しています。
Webサイト内に設置した「貴社商品売込みコーナー」では、世界中の企業から取扱商品や生産委託などに関する情報を広く募集し(デザイン、アイデア、発明などの知的財産を除く)、売り込みのあった商品が実際に製品に採用されています。
今後も新たな応募に対し、ルールに基づき適正かつ丁寧に対応していきます。
近年、環境問題や人権・労働問題への注目が高まる中、さまざまなステークホルダーからサプライチェーン全体で社会的責任の取り組みを問われる機会が増えています。特にメーカーにおいては、原材料調達と製品の製造において、社会的責任の遂行が求められています。
メーカーの多くは、組み立て作業などを外部の工場に委託していますが、キヤノンは「ものづくり」に強いこだわりをもち、製品の組み立てのみならず一部の部品や材料などの製造についても、キヤノン(株)の事業所・工場およびグループ生産会社(以下、キヤノンの生産拠点)で行っています。日本、中国、台湾、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、米国、欧州などに位置するグループ生産会社は、キヤノン(株)やグループ販売会社にキヤノン製品を供給する役割を担っています。これらのグループ生産会社は多くの従業員を直接雇用し、キヤノン(株)はグループ本社としてグループ生産会社を統括しています。
また、キヤノンの生産拠点は、数千のグループ外サプライヤーと協力関係にあり、電子部品、メカ部品、ユニット、材料などを購入しています。
キヤノンは、キヤノングループに属する役員・従業員が業務の遂行にあたり、守らなければならない規準として「キヤノングループ行動規範」を制定しています。この行動規範のもと、「キヤノングループ 企業の社会的責任に関する基本声明」「キヤノングループ環境憲章」「キヤノングループ人権方針」「調達方針」など、人権、労働、環境、法令遵守、調達、セキュリティなどに関する各方針を制定し、これらを遵守して活動しています。
一方、サプライヤーの皆さまには、キヤノンの調達活動における基本姿勢を定めた「調達方針」への理解・協力をお願いしています。また、サプライチェーンにおける社会的責任を果たしていくために、RBA行動規範を採用した「キヤノンサプライヤー行動規範」を策定し、労働・安全衛生・環境・倫理・マネジメントシステムなどに配慮した調達活動をサプライヤーとともにグローバルサプライチェーン全体で推進しています。さらに、2次サプライヤーに対しても、1次サプライヤーを通じて本行動規範への理解・遵守を要請しています。本行動規範は、自社Webサイトでステークホルダーの皆さまに広くお知らせしているほか、世界中のサプライヤーに対して年1回の定期調査の際に周知しています。
キヤノン(株)の管理部門や事業部門、監査部門は、内部統制やリスク管理の観点から、グループ本社として、国内外問わずグループ全体の状況を適宜確認しています。また、キヤノンの生産拠点においては、RBAの自己評価質問票(SAQ:Self-Assessment Questionnaire)を用いて、労働・安全衛生・環境・倫理・マネジメントシステムなどに関する自己点検を実施しています。2021年は、主要事業の生産拠点54拠点でSAQを実施し、重大なリスクはありませんでしたが、RBAで求められる方針の整備や管理手順の書面化、生産財以外の人材派遣会社やサービスプロバイダーなどのサプライヤーへのRBA行動規範遵守要請とモニタリングなどが課題となりました。
キヤノンは、新規のサプライヤーと取引を開始する際には「キヤノンサプライヤー行動規範」などに基づいて、企業倫理(法令遵守、製品安全、機密情報管理、人権、労働、安全衛生、知的財産権保護など)、地球環境保全(化学物質管理、大気汚染や水質汚濁の防止、廃棄物の適正処理、省資源・省エネルギー活動への取り組み、温室効果ガスの削減、生物多様性保全)、財務、生産体質(品質、コスト、納期、製造能力、管理)などの基準を満たしているかどうかを審査しています。
これらの基準をクリアできた取引先だけが「サプライヤーリスト」に登録されます。サプライヤーリストに登録された既存の取引先に対しては、定期調査(下図「サプライヤー評価のフロー」参照)を年1回行い、調査結果や取引実績などから総合的に評価します。その結果はサプライヤーリストに反映し、評価の高いサプライヤーと優先的に取引できるようにしています。さらに、評価が低かったサプライヤーに対しては現地監査を行うなど、改善に向けた指導・教育などを行っています。特に、人権、労働、環境などの法令や社会的取り決めに関わる項目を遵守していない場合には継続取引をしない場合があります。
※ 企業倫理には、法令遵守、製品安全、機密情報管理、
人権、労働、安全衛生、知的財産権保護などを含む
キヤノンは、RBAのSAQを用いたリスクの特定にも取り組んでいます。2021年は、主要事業のサプライヤー(以下、主要サプライヤー)346社に対してSAQを用いた調査を実施し、330社(491拠点)より回答を得ました。結果として、ハイリスクと特定された主要サプライヤーはありませんでしたが、労働・安全衛生・環境・倫理の各項目の結果を主要サプライヤーにフィードバックし、弱点を把握して、今後の改善に生かすように要請しました。さらに、主要サプライヤーについては、RBA行動規範に関する同意書への署名をお願いしています。これまでに主要サプライヤー346社に対して要請し、326社(94.2%)から同意を得ました。
環境の分野では、キヤノンはサプライヤーへの要求事項を定めた「グリーン調達基準書」を策定し、サプライヤーとの取引において遵守を必須条件としています。具体的には、「事業活動の管理」「物品の管理」の2つの視点での管理を車の両輪と捉え、下記図中のA~Dの4つの枠組みが有効に機能していることを要求事項としています。万が一、サプライヤーが環境にマイナスの影響を及ぼした場合には直ちに是正措置を求め、改善状況を確認しています。
また、サプライヤーにおける環境汚染の未然防止に向け、キヤノンはこれまでもサプライヤーの事業活動の仕組み、パフォーマンスに関する状況・是正確認を行ってきましたが、リスク管理をより一層強化する取り組みを進めています。例えば、強化される法規制に確実に対応していくため、新興国・地域における排水や廃棄に関する法規制情報の収集・分析の強化を図っています。また、重金属を多く使用することから、排水処理に関わる環境汚染リスクが相対的に高い「めっき」工程について、リスク管理を強化しています。キヤノンの2次サプライヤーに該当するめっき業者の中には、排水処理業者に委託しているケースもあることから、排水処理業者も含めた遵法確認を行っています。このようにリスク管理の対象範囲を拡大することで汚染の未然防止に努めています。
キヤノンは、中国の環境NGOである公衆環境研究中心(IPE)が公開するサプライヤー情報をもとに、サプライチェーンの上流に位置する2次・3次などの中国国内のサプライヤーに対して、環境リスク削減に向けた勧告や改善を行っています。定期的にIPEと情報共有を行い、ベストプラクティスを共有することで、サプライチェーン全体の環境リスク低減を推進しています。
IPEとの情報交換
キヤノンは、環境に配慮しながら高品質な商品を適正価格でタイムリーに、世界各国・地域のお客さまに提供する「EQCD思想※」を実践するために、サプライヤーとの協力関係を強化しています。
各事業所・各グループ生産会社においては、サプライヤーを対象とした「事業動向説明会」を開催し、事業計画への協力や調達方針などに対する理解を促進しています。また、全世界の主要サプライヤーに対して、キヤノン(株)の調達本部長が、環境や人権などの項目を含む「キヤノンサプライヤー行動規範」への遵守の協力要請および調達方針の説明や活動報告を行う「調達方針説明会」を開催し、サプライヤーとの連携強化を図っています。
こうしたコミュニケーションを通じて、サプライヤーとの情報共有、連携強化を図り、ともに成長していくことをめざしています。
キヤノンではサプライチェーンに関する懸念について社内外問わず自由に連絡できる窓口を設けています。児童労働や強制労働の発生など人権、労働安全衛生などに関する具体的な懸念や情報がある場合には、この窓口を通じて通報ができることを「キヤノンサプライヤー行動規範」に記載し周知しています。
キヤノンを含め多くの企業が製造・販売する製品には、さまざまな鉱物由来の材料が使用され、世界中の原産地から多様なサプライチェーンを経由して調達されています。これらの中には鉱物の採掘地や製錬所などの加工先において、武装勢力の関与、深刻な人権侵害や環境破壊が指摘されるものがあり、紛争地域や高リスク地域を把握して、人権・環境リスクが高い事業者から供給される材料の使用を回避することが企業の社会的責任の一つとして求められています。
キヤノンはお客さまに安心して製品をお使いいただくため、お取引先や業界団体と協力しながら、責任ある鉱物調達の取り組みを進めています。
キヤノンは、鉱物の原産国調査ならびにデュー・ディリジェンスの実行において、経済協力開発機構(OECD)が発行する「OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンスガイダンス(OECDガイダンス)」(第3版)記載の5段階の枠組みに従って取り組みを進めています。
グループで統一した方針と調査・報告体制を整えるとともに、調査対象となる鉱物や金属が含まれている製品を特定し、その部品や材料について、サプライチェーンをさかのぼった調査を実施し、武装勢力の資金源となっているリスクならびに、世界の紛争地域や高リスク地域に所在する人権・環境リスクを特定するデュー・ディリジェンスを実施しています。調査においては、これらの2つのリスクを確認できるように改良されたResponsible Minerals Initiative (RMI)※が公表する「RMI紛争鉱物報告テンプレート(CMRT)第6.1版」を使用しています。さらに、キヤノン独自の調査票も併用し、リスクの有無を確認しています。著しいリスクが発見された場合には、サプライヤーに対しリスクの低いサプライチェーンへの切り替えを要請し、さらなるリスク軽減に取り組んでいます。
キヤノンは、2015年4月より、紛争鉱物問題解決に注力する国際的なプログラムであるRMIに加入し、その活動を支援しています。
日本国内では、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の「責任ある鉱物調達検討会」の主要メンバーとして活動しています。また、JEITAと主要日系自動車メーカーとの協議体であるコンフリクト・フリー・ソーシング・ワーキンググループ(CFSWG)にも参加しています。
鉱物の原産地や製錬所の特定には、取引先の協力が欠かせません。キヤノンは調査マニュアルなどを作成し、キヤノンの取り組みに対する理解と調査への協力を求めています。
キヤノンは2015年、公式Webサイトに「鉱物リスクに関するご連絡窓口」を設置。キヤノン製品のサプライチェーンに関連して、紛争地域および高リスク地域における鉱物の採掘・取引・取り扱い・輸出をめぐる具体的な懸念や情報(紛争地域における武力勢力の資金源や人権侵害となっている事実など)がある場合は、この連絡窓口に通報することができます。
紛争地域や高リスク地域で産出されるスズ、タンタル、タングステン、金(3TG)は、その一部が武装勢力の資金源となり、深刻な人権侵害や環境破壊、違法採掘などを引き起こしているとして国連などで指摘され、紛争鉱物問題と呼ばれています。
米国では上場企業に対してアフリカのコンゴ民主共和国(DRC)およびその隣接国から産出されるこれらの鉱物や金属が武装勢力の資金源となっていないかを調査・報告することを義務づけるDodd-Frank法が制定され、2013年1月から運用が開始されました。
キヤノンは米国の上場企業であることから、毎年5月末日までに米国証券取引委員会(SEC)にグループの紛争鉱物問題への取り組み状況をまとめた「紛争鉱物報告書」を提出しています。2021年の調査では、調査対象の取引先約3,200社にCMRTを送付し、約93%から回答を得ました。
複雑なサプライチェーンをさかのぼる調査においては、製錬所の特定が難しい、不明回答が多いなどのさまざまな課題が生じるため、キヤノンの部品・材料購入がDRC周辺の武装勢力の資金源となっていることを判断することはできませんでした。キヤノンではさらなるリスクの特定と改善に努めています。なお、調査で報告された製錬所は毎年SECに提出する「紛争鉱物報告書」で開示しています。
また、欧州では2021年4月より対象地域をDRCおよびその隣接国に限定していないEU紛争鉱物規則の運用が開始されました。キヤノンは本規則の適用を受けませんが、これらの地域についてもリスク調査を行っています。
近年、3TG以外の鉱物調達リスクに関しても世界的な関心が高まっています。特に、需要が増加しているリチウムイオンバッテリーなどに使用されるコバルトについて、採掘場における児童労働、人権侵害が懸念されています。キヤノンでは、2021年から調査対象の取引先に業界標準のコバルト調査票(RMIのCRT)を送付し、キヤノン製品のコバルト使用状況の調査およびリスク分析を開始しました。引き続きお取引先や業界団体と協力しながら、リスクへの対応を進めていきます。
キヤノンは、キヤノングループの鉱物調査への取り組みが国際的な基準であるOECDガイダンスに合致していることを確認するため、独立した専門家による監査を受け、合理的保証を受けています。SECに提出する紛争鉱物報告書には専門家の独立監査報告書を添付しています。
2015年に英国で現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)が制定され、英国で事業活動を行う一定規模の企業は、自社およびそのサプライチェーンにおいて強制労働、人身取引、児童労働のリスクを確認し、年次のステートメントを公表することが義務づけられました。また、2018年には豪州においても現代奴隷法が制定され、豪州で事業活動を行う一定規模の企業は、サプライチェーンおよび自社の事業活動における強制労働などのリスクを評価し、その軽減措置について報告することが義務づけられています。
キヤノンでは毎年、生産拠点および調達先に対して人権リスクを確認し、この結果に基づき法の適用対象となるグループ会社がステートメントを公表しています。
また、キヤノンメディカルおよびアクシスでは、同法に基づきそれぞれステートメントを公表しています。