CEOメッセージ

Fujio Mitarai

共生の理念の実現に向けて

キヤノンの企業理念は「共生」です。「共生」とは、文化、習慣、言語、民族などの違いを問わず、すべての人類が末永く共に生き、共に働き、幸せに暮らしていける社会をめざすというものです。この共生の理念はSDGsと方向性を同じくしており、私たちはこの理念のもとに、「新たな価値創造、社会課題の解決」「地球環境の保護・保全」「人と社会への配慮」を重要課題(マテリアリティ)として捉え、経済、社会、環境のサステナビリティに配慮しながら、さまざまな活動に取り組み、SDGsの目標達成に貢献してまいります。

新たな価値創造、社会課題の解決

コロナによって世界は大きく揺さぶられ、デジタル化やグリーン化など社会の変化が一気に加速して、人々の価値観やライフスタイルも大きく変化しつつあります。こうした流れを受けて、キヤノンも複雑化・多様化する社会課題に対するソリューションが求められるようになってきています。

例えば、プリンティングの分野においては、コロナ禍においてリモートワークが普及し、家庭内のIT環境を整備する必要性が急速に高まっています。しかし、セキュリティ対策が万全でない環境下では情報漏えいのリスクがあり、企業からは情報管理が徹底されたプリンティング環境を求める声が高まっています。キヤノンはこれに応えて商品やサービスの拡充を進め、自宅やオフィスなど働く場所にかかわらず、セキュアなプリンティング環境を提供していきます。

そして、こうした新しい働き方のためには、データをクラウドにアップして共有化し、閲覧できる環境を整える必要があります。私たちは複合機のスキャン機能の充実を図るとともに、ハードおよびソフトの開発を強化し、複合機とクラウドサービスを連携させた新たなサービスを提供して、業務のさらなる効率化に貢献していきます。

また、新聞やチラシ、カタログやパンフレットなど、印刷物は私たちの生活や仕事にとって身近な存在となっていますが、キヤノンは高度な電子写真技術やインクジェット技術を生かしてオンデマンド印刷を実現し、商業印刷や産業印刷における環境負荷の低減を図っています。お客さまのニーズにあわせて、必要な時に必要な量を、短納期かつ低コストで提供することを可能にし、各工程において消費するエネルギーや薬品、またさまざまな廃棄物を削減するとともに、印刷工程の自動化を推進して省力化を実現しています。

イメージングの分野においては、キヤノンは創業以来、カメラやレンズ、放送機器や業務用ビデオカメラなどの撮影機材を提供し、人類が記録し表現することをサポートしてきました。写真や映像には、人の心を動かし、世界を動かす力があります。移ろう時間を想い出とともに閉じ込め、未知の世界へといざなう力があります。

最近では、コロナによる生活様式の変化で生まれた時間を、写真撮影の趣味にあてたり、オンライン会議や動画配信にカメラを活用する例もあり、デジタルカメラの販売が回復しています。東京オリンピック・パラリンピックは、残念ながら無観客での開催となりましたが、キヤノンのカメラやレンズを通して、世界中に勇気と感動をお伝えすることができたと自負しています。

また、ネットワークカメラは、防犯や防災向けをはじめ、店舗での顧客行動の分析や工場での生産状況の把握など、多岐にわたる分野への応用が進んでおり、キヤノンでは、カメラ本体と映像管理ソフトや映像解析ソフトを組み合わせたトータルソリューションを強化しています。

さらに、コロナの影響で行動が制限され、巣ごもり状態になったことから、インターネットを利用する機会が増え、オンライン動画の制作や配信に新たなニーズが生まれています。私たちもこうした動きにあわせて、現実世界と仮想世界を融合するXRや、映像制作向けのリモートカメラシステム、撮影画像から3D空間を再構成してあらゆる位置から好みの角度で見ることができるボリュメトリックビデオシステムなど、新たな映像表現のサポートを強化しています。

イメージセンサーについても、IoTの眼としての期待が高まっています。キヤノンが開発した超小型SPADセンサーは、闇夜よりも暗い環境下でも鮮やかなカラー動画を撮影でき、高速に動くものの動きを捉えることが可能で、自動運転や医療用の画像診断機器などへの幅広い活用が見込まれています。今後は、こうしたキーコンポーネントビジネスにも注力し、デジタル社会を支える光学産業へと進化していきます。

メディカル分野の喫緊の課題は、何と言ってもコロナ対策であり、キヤノンはいち早く検査方法の開発と実用化に努めてきました。2014年には病院外でも診断できるオールインワンの医療コンテナCTを製品化しましたが、今回新たに検査者の感染対策を施したシステムを構築し、コロナ禍での診断体制の整備を図りました。

また、中長期的には、世界的な高齢化の進展に伴う医療費の増加や医療従事者の不足が大きな社会課題となりますが、健康寿命を延ばすことが一つの解決策と言われています。そのためには、検査による異変の早期発見が重要であり、キヤノンはCT、MRI(磁気共鳴画像)、超音波診断装置などの検査時間の短縮や被ばく量の低減により患者の負担を軽減するとともに、画像処理技術によって画像の鮮明化を追求して診断の精度向上に貢献していきます。昨年は、次世代CTとして期待が高まるフォトンカウンティングCTの早期実用化に向けて、国立がん研究センターと共同研究を開始するとともに、そのキーデバイスとなる半導体検出器で世界トップクラスの技術をもつカナダのレドレン・テクノロジーズをM&Aによってグループに迎え入れました。

今後は、読影や診断の支援などAIを活用したソリューションの需要が拡大すると見込まれており、昨年はAIを活用して新たな医療価値を提供するブランド「Altivity」を導入し、より的確な診断に貢献していくことを宣言しました。今後も医療の現場を支える医療機器メーカーとして、最先端の技術で高度化する医療の発展に貢献し、人々の健康を支えてまいります。

そして、インダストリアルの分野ではコロナ禍において生じた世界的な半導体不足によりさまざまな製品の生産がストップしたことから、半導体産業が人類にとって不可欠なエッセンシャル・ビジネスであることを示す形となりました。米中対立を受けて半導体を自国生産に切り替える動きが広がる中、今後も5GやAI、EVや仮想空間「メタバース」などに向けた投資が拡大していくものと予想されます。

また、ディスプレイもデジタル機器に欠かせないデバイスの一つとなり、フォルダブル(折りたたみ可能)端末や車載向け、大型テレビやヘルスケア向けの需要が増加していくと思われます。今後も、デジタル技術の高度化にあわせた最先端の技術を惜しみなく投入し、半導体やディスプレイの製造を支え、人類の発展に貢献してまいります。

このように、キヤノンは今後も、テクノロジーとイノベーションによって新たな価値を生み出し、コンシューマーの分野ではより豊かな生活を、オフィスやインダストリアルの分野ではより快適なビジネス環境を、そしてソサエティの分野ではより安心・安全な社会づくりをめざしてまいります。

レドレン・テクノロジーズにおける半導体検出器モジュールの開発

そして、こうした挑戦の主体は社員にほかなりません。キヤノンは創業以来、「人間尊重主義」を掲げ、会社の発展と社員の人生の発展が同時に達成されるような会社をめざして、社員が自身の可能性を広げ、成長を図る活動を支援してきました。現在は、新たな事業ポートフォリオに沿って社内教育体制を拡充し、リスキリング(学び直し)によって幅広い人材が適材適所の仕事に就くよう後押ししています。

中でもソフトウエア人材の育成には特に力を入れています。今後とも幅広い分野にわたって新たな価値を提供していくためには、キヤノンがもつイメージング技術とさまざまなサービスとを結合させることが必要であり、AIやクラウドなどのIT技術を活用して、外部の社会インフラや他社システムとつながっていかなければなりません。そのため、2018年に研修機関「CIST(CanonInstitute of Software Technology)」を設立し、カリキュラムの充実化を図ってきました。現在ではAIやIoT、クラウドサービスなど14系統190の講座を設け、すでに約140人がソフトウエア開発者への職種転換を果たしており、今後もさらに加速していきます。

また、ものづくりに関しても、取手、大分、宇都宮の「ものづくり研修所」を中心に、加工・組み立て・メカ設計・電気設計・制御など、最先端の知識や技術を学ぶ体制を整えています。特に取手研修所は9,300m2の広さを誇り、通常の研修のほか、自動化技術や内製化技術、生産設備の保全などの研修や、技能五輪の訓練も行っており、世界中のキヤノングループから年間7,000人が受講しています。

地球環境の保護・保全

また、キヤノンは、共生の理念のもと、真のグローバル企業の責務として、環境保全活動にもいち早く取り組み、地球や自然環境との良好な関係の構築に力を注いできました。

1990年にはカートリッジのリサイクルを開始し、その後も研究・開発から設計、調達、生産、物流、販売、サービス、回収・再利用に至るまで、関連組織が一体となって製品ライフサイクル全体でのCO2排出量削減に努めてきました。2008年からは製品1台当たりのライフサイクルCO2を年平均3%改善することを目標に取り組んでおり、開発からリサイクルまでの製品の一生(ライフサイクル)において、省エネルギー、省資源、物流の効率化などにより、2021年までの累計で42%の改善を実現しています。

この目標を継続して、2030年には2008年比で50%の改善をめざすとともに、社会と連携することで製品ライフサイクル全体でのCO2排出量を2050年にネットゼロにすることをめざしています。

また、省資源についても、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、中国の世界5拠点でリサイクル工場を稼働させ、2021年までの全世界における使用済みトナーカートリッジの回収量は約44万4,000t、使用済みインクカートリッジの回収量は約2,600tを実現しています。さらに、組み立ての自動化による廃棄ロスの削減や、ジャストインタイムの徹底やパーツの共通化などによる在庫の圧縮などを推し進め、資源の消費を抑えています。

キヤノンはこれからも、すべての製品ライフサイクルにおいて、テクノロジーとイノベーションの力で、より多くの価値を、より少ない資源で提供することで、豊かな生活と地球環境の両立をめざしてまいります。

キヤノンブルターニュにおけるカートリッジリサイクル

人と社会への配慮

キヤノンはビジネス活動のみならず、人や社会に配慮した取り組みにも力を入れており、キヤノンとともに働く人々がそれぞれの能力を十分に発揮して、地域社会とともに末永く発展していける企業をめざしています。これまでも、世界の優良企業とグローバルな協力体制を築くとともに、世界各地のさまざまな特質にあわせて販売拠点、生産拠点、研究所などを設立し、それぞれの地域の文化や風土を尊重して現地化を図り、雇用の創出や技術移転を進めてきました。昨年は、国際規範に基づく人権への対応として、創業以来連綿と受け継がれてきた人間尊重主義を、改めて「キヤノングループ人権方針」としてまとめ、従業員への啓発活動を展開したほか、ステークホルダーの方々との対話を実施しました。

私たちの理想は、その地域の方々とともに歩み、繁栄し、世界中で親しまれ、尊敬される会社となることです。キヤノンには「自発・自治・自覚」の「三自の精神」という行動指針があり、全世界のキヤノングループの社員が、各国・各地域を支える企業市民としての自覚をもち、地域社会や協力会社、またお客さまと手を携えて、共生の理念の実現に力を注いでいます。

キヤノンヨーロッパでは、欧州、中東、アフリカにおいて、「Canon Young People Programme(YPP)」を展開し、写真や映像の撮影を通じて、若者に創造的な表現の機会を提供しています。昨年3月には国連の「SDGGlobal Festival of Action 2021」にも参加し、社会課題の解決に向けた写真や動画の有用性を訴えました。

また、雇用不足が深刻な課題となっているアフリカでは、2014年に「Miraisha」プロジェクトを立ち上げ、キヤノンセントラルアンドノースアフリカが若者の映像・印刷の技能習得支援に取り組んでいます。本活動は、若者は手に職を付けて収入を得ることができ、人手不足に悩む映像制作業界は働き手を得ることができ、キヤノンは製品の愛用者を増やすことができるというWin-Win-Winの構図となっており、共生の理念を体現する活動として、昨年、社内表彰「Canon SummitAwards」において表彰されました。

そしてフィリピンでは、キヤノンビジネスマシンズフィリピンが実施している環境保護活動や近隣学校への教育支援などを通じた地域貢献活動が評価され、PEZA(フィリピン経済特区庁)から環境活動とCSR活動に対する賞5つのうち3つを受賞しました。そのうち、通算3度目の受賞となるEnvironmental Performance Awardについては、同賞の殿堂入りとなる「Hall of Fame」として表彰されました。

永遠に技術で貢献し続け、世界各地で親しまれ、尊敬される企業へ

キヤノンはこれからも、共生の理念のもと、お客さまをはじめとして取引先や協力会社、地域社会や株主など、ステークホルダーの皆さまとの対話を重ねながら、それぞれの国や地域が抱えるさまざまな課題に立ち向かい、理想の社会の実現をめざして全力で取り組んでまいります。そのためにも、事業ポートフォリオの転換をさらに強力に推進して新たなる成長を実現し、永遠に技術で貢献し続け、世界各地で親しまれ、尊敬される企業となるよう努めてまいります。

今後とも、より一層のご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。