EOS R1
「機動力」をデザインする
EOS史上もっともパワフルなエンジンシステムAccelerated Captureにディープラーニング技術をベースとした解析技術を融合し、高信頼性、高耐久性、卓越した撮影性能を兼ね備えたミラーレス初のプロ用フラッグシップモデル、EOS R1。デザイン開発は、「1」の哲学、歴代の「1」が50年以上の歳月をかけて築いた信頼、そして、プロの躍動に応える機動力をデザインするという強い想いからスタートしました。
力強さと、洗練と
プロの期待を超える力強さと、プロの感性が動く洗練。この一見相反する命題を、基本造形と、細部の精緻な作り込みによって矛盾なく体現することを目指しました。質実剛健でありながらエレガントな直線・曲線のバランス、機能性と美しさを兼ね備えた革新的なグリップのパターン、体(たい)を表す「顔」の演出など、「1」の新しいデザイン言語を構築するエッセンスを漆黒のボディに凝縮しています。
ダイナミズムを湛えた造形
「1」の系譜を守りながら、造形をアップデート。決定的瞬間を逃さない直感操作を可能にするための工夫を、細部まで妥協することなく施しています。
グリップデザインは、一刻を争うような撮影状況でも瞬時にカメラをハンドリングできる機動性を追求。横位置、縦位置ともに余裕を持って握ることができる長さ、深さ、広さを確保しつつ、横位置と縦位置のフィーリングを限りなく近づけました。
正面・背面のボタンレイアウトも使い手の理に適った整理を行い、縦・横で変わらない操作性を実現しています。
新開発の電子ビューファインダーは、アイカップの形状や肉厚を綿密に調整することで視認性やフィット感を向上させ、スムーズな視線入力を助けます。
「幾何学」という革新
グリップラバーに、新たに開発したクロスパターンを採用しました。パターンを構成するのは、凸型の短い直線が直角に相対する図形。カメラを横位置・縦位置の2方向で構えることを前提に、摩擦係数を加味し、突起の角度や高さ、線の長さなどに試行錯誤を重ねて生まれました。幾何学形状の突起が手にしっかりと食い込み、史上もっとも滑りにくいグリップを実現しています。水切り性にも優れ、悪天候下でも変わらぬ高いグリップ力を保持します。
さらに、レンズマウント上部までをクロスパターンで覆い、レンズがカメラ本体と接触しやすい着脱時にも安心して動作を行えるよう配慮しました。
クロスパターンの配置に際しては、複雑な曲面を持つグリップ形状を精巧にトレースし、パターンを最適化しました。R1のシンボルとなる先進性を感じさせるビジュアル、思わず手にしたくなる美しい外観を目指して、線の1本1本にいたるまで「ここには入れる、ここには入れない」と計算し尽くした配置を行っています。
しなやかと硬質の共存
カメラの「顔」をなすキヤノンロゴの周囲を、V字型に折れた面で形成しています。金属の板をまげてできる曲面のような、ゆるやかに折れた面が1点に向かって収束していくこの意匠は、光を取り込み映像として出力するカメラの本質から着想を得ました。
V字の稜線がつくり出す陰影がカメラに端正な表情を与えるとともに、流線型のフォルムに硬質感をもたらし、堂々たる存在感を印象付けます。この部分は特に、EOS R3との関係性、EOS R5 MarkⅡとの連続性を意識してデザインしています。
黒と向き合う
R1のボディ塗装には、漆黒という形容が相応しい新たな塗料を採用しています。一般的な黒よりも黒い、深みを極めたブラックは、むしろ華やかさがあり、「1」としての存在感を圧倒的にすると考えました。
プロが求める性能、剛性を余すところなく実現すること、機動性・携行性を考えてカメラのサイズを可能な限りコンパクトにすること。ボディの漆黒は、これらを両立し得るR1のサイズ感を視覚的に引き締める役割も担っています。
「1」の系譜をデザインが呼び覚ます
EOS R1は撮影性能だけでなく、過酷な環境での使用も想定し、防塵防滴性能、高い堅牢性を備えたプロ用モデルです。美しいだけでも、使いやすいだけでも、良いデザインとはいえません。デザイン開発にあたっては、プロ仕様を体現すること、プロに選ばれる審美性を模索し続けました。
また、グリップ形状やボタン配置を改良する場合でも、使い慣れた作法を変えることには慎重さが求められます。歴代の「1」から受け継ぐべきところをきちんと継承したうえで、これまで以上に良くなる形や動きを見出す作業を重ねました。
その結果、新しさの中に「1」の系譜であることを示す特徴、記号性が付され、一目で識別できるアイコニックなデザインが完成しました。隅々にまでこだわり抜いた造形、意匠が長く愛され、使われ続けることを願っています。
参考情報
「新しい」を模索し続けて
これまでにコンパクトデジタルカメラ、双眼鏡、レンズ、ミラーレスカメラを担当してきました。デザインにあたっては、常にその製品における新しさとは何かを考え、使う人の存在を意識しながら、使い手に伝わる形でアウトプットすることを大切にしています。
総合デザインセンター 柏木良行
アートディレクション 後藤啓志/撮影 早川圭
(総合デザインセンター)