キヤノンは、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)という信号増倍画素構造を持つセンサーにおいて、世界で初めて※1100万画素の撮像が可能なイメージセンサーを開発しました。SPADイメージセンサーは、極めて短い時間内に起こる高速な現象など特殊な静止画・動画を撮影する2次元カメラとしての応用に加え、被写体までの距離情報を画像として取得する3次元カメラへの活用が期待されます。
100万画素SPADイメージセンサー(プロトタイプ)
SPADセンサーとは、光の粒子(以下:光子)1個が画素に入射すると、あたかも雪崩のような増倍によって1個の大きな電気パルス信号を出力する電子素子を画素ごとに並べた構造を持つセンサーです。光子1個から多くの電子に増倍させることができるため、撮像時の高感度化や測距時の高精度化に寄与します。
今回開発したSPADイメージセンサーは、構造上、多画素化が困難とされている中、新たな回路技術の採用によりフォトンカウンティングの原理を用いた100万画素のデジタル画像の出力を実現しました。また、全ての画素に対して露光を一括制御できるグローバルシャッター機能を備えています。露光時間は3.8ナノ秒※2まで短縮できるため、ゆがみのない正確な形状で撮像できます。加えて、1bitの出力で最大24,000fpsの高速撮影ができ、極めて短い時間内に起こる高速な現象のスローモーション撮影が可能です。
これらにより、例えば、人間の目では正確に捉えることができない化学反応や雷などの自然現象や、物体の落下や衝突時の破損の様子などを、一部始終にわたって詳細に撮影できるため、現象の解明や安全性・堅牢性の解析など、幅広い分野での応用が見込まれます。
さらに、100ピコ秒※2までの時間分解能を実現しており、光子が画素に到達した時刻を非常に高い精度で認識できます。この性能を生かし、Time of Flight方式による距離測定が可能です。また、100万画素の高解像度かつ高速撮影ができることにより、複数の被写体が折り重なっている複雑なシーンでも精度よく3D測距ができ、自動運転での車間距離測定やxR※3関連デバイスなどにおける3次元空間情報の把握にも活用できます。
キヤノンの開発により、SPADイメージセンサーにおいて奥行き情報を認識できる3次元カメラの解像度が100万画素に到達したことで、今後は高性能なロボットの眼として用途が急速に広がることが期待されます。キヤノンは、時代のニーズを先導する革新的なイメージセンサーの開発を進め、可視化できる領域のさらなる拡大を目指し、高度な検出情報からもたらされる科学の進歩や産業の進化、および未知の分野の開拓に貢献します。
本センサーを搭載したカメラの開発を、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の科学者と一緒に行い発表した論文が、アメリカ光学会(OSA)が発行する月刊誌「Optica」に掲載されました。
論文タイトル:Megapixel time-gated SPAD image sensor for 2D and 3D imaging applications
SPAD(Single Photon Avalanche Diode)センサーとは、光子(フォトン)1個が画素に入射すると、あたかも雪崩(アバランシェ)のような増倍によって1個の大きな電気パルス信号を出力する電子素子(ダイオード)を画素ごとに並べた構造を持つセンサーです。光子1個から多くの電子に増倍させることができるため、撮像時の高感度化や測距時の高精度化に寄与します。
CMOSセンサーとSPADセンサーの画素構造比較(イメージ)
SPADセンサーは、発生したパルス数をカウントすることにより信号を出力します。光子1個から検出できるものの、画素ごとにメモリまたはカウンターが必要であり、また、増倍に高い電圧を要するため、絶縁破壊防止の耐圧構造を要することから、画素サイズが大きくなってしまい、これまでは微細化、多画素化が困難とされてきました。しかし近年では、3次元積層化技術によって進化し、研究開発が活発化しています。
現在では、スマートフォンにおいてデバイスから対象物までの距離を測定する近接センサーとして、また、医療分野ではがんの早期発見方法の1つであるPET(Positron Emission Tomography)検査装置において放射線検出を行うセンサーとしてなど、既に一部の製品で用いられています。
今後は、車載用センサーやAR(拡張現実)・MR(複合現実)・VR(仮想現実)などのxR関連デバイス、ロボットの眼や監視、宇宙探索、バイオイメージング、光通信、量子コンピューターなど、さらに広い分野での応用が期待されています。
フォトンカウンティングとは、物理学において光の最小単位である光子(フォトン)と呼ばれる粒子の数を数えることで、信号光の強度、時間分布などを精度よく検出する方式です。
通常の受光素子は、光信号を電流・電圧のアナログ信号として検出するのに対し、フォトンカウンティングでは、光信号を光子1個、2個、3個分、という形で、離散的なデジタル信号として扱います。
フォトンカウンティングは、光をデジタル信号として扱うことにより、電気的なノイズの影響を排除し、微弱な信号も高精度で検出できるようになります。また、専用の処理回路と組み合わせることで、光量だけでなく、光子が検出された時刻を正確に測定することができます。
従来の受光素子とフォトンカウンティングの原理(イメージ)
Time of Flight(光飛行時間、以下:ToF)方式は、センサーから対象物までの距離を測定する手法の1つです。光源から発せられた光が光速(=30万km/秒)で空気中を伝搬し、対象物に反射してセンサーに戻ってくるまでの時間を測ることで、対象物までの距離を計算します。
光の進む速度は極めて速いため、ToF方式の距離測定を実現するためには、1ナノ秒(10億分の1秒)から1ピコ秒(1兆分の1秒)程度の極めて「高速」な時間スケールで応答できる光センサーが必要不可欠です。
今回開発したSPADイメージセンサーは、100ピコ秒(0.1ナノ秒)までの時間分解能を実現しており、ToF方式による距離測定が可能です。発光装置(特殊センサーを搭載したカメラを含む)にSPADイメージセンサーを搭載してToF方式を用いた場合、被写体にパルス光を照射し、反射光が戻ってくるまでの時間から距離を計算します。ToF方式を用いたSPADイメージセンサーは、簡単な装置構造に組み込むことができ、暗いシーンでも非常に高い精度で奥行き情報を含む3D測距ができるため、自動運転での車間距離測定やxR関連デバイスなどにおける3次元空間情報の把握への活用が期待されます。
Time of Flight方式(イメージ)
100万画素SPADイメージセンサー(プロトタイプ)
493KB(1167px×1167px)
CMOSセンサーの画素構造比較
399KB(1683px×1654px)
SPADセンサーの画素構造比較
516KB(1723px×1655px)
従来の受光素子
688KB(3250px×1212px)
フォトンカウンティングの原理
716KB(3250px×1249px)
Time of Flight方式
579KB(3216px×1487px)
本ページに掲載されている画像、文書その他データの著作権はニュースリリース発行元に帰属します。
また、報道用途以外の商用利用(宣伝、マーケティング、商品化を含む)において、無断で複製、転載することは、著作権者の権利の侵害となります。