キヤノンが、非球面レンズを採用した一眼カメラ用交換レンズ「FD55mm F1.2AL」を1971年に発売し、2021年で発売から50周年を迎えます。非球面レンズは、一眼カメラ用交換レンズだけでなく、放送用レンズ、半導体露光装置、天体望遠鏡など、幅広い光学製品で活用されています。
非球面レンズ
初めて非球面レンズを採用した
「FD55mm F1.2AL」
「F2.8 L IS USM ズームレンズシリーズ」
非球面レンズは、光を一点に集める理想的な曲面を持つレンズです。「RF15-35mm F2.8 L IS USM」(2019年9月発売)、「RF24-70mm F2.8 L IS USM」(2019年9月発売)、「RF70-200mm F2.8 L IS USM」(2019年11月発売)からなるプロ・ハイアマチュアユーザー向けの「F2.8 L IS USM ズームレンズシリーズ」や、ズーム全域で開放F値2を実現した「RF28-70mm F2 L USM」(2018年12月発売)などに採用することで諸収差を低減し、高画質を実現してきました。
球面レンズには、「平行光線を完全な形で1点に収束させられない」という原理的な宿命があります。レンズの面が球面であるために発生する収差の一つとして、像がぼけてしまう「球面収差」があります。この球面収差を補正するには、複数枚の球面レンズを組み合わせなければなりませんが、非球面レンズはその特性により、1枚用いることで同程度の補正効果が得られます。キヤノンは、レンズを通過する光を1点に集め、ぼけのない忠実な像を得るために、「夢のレンズ」と呼ばれた非球面レンズの開発に1963年より着手し、高性能レンズの研究開発に取り組みました。
非球面レンズを量産するためには、0.1マイクロメートル※1以下の精度が要求される加工技術や、0.01マイクロメートル以下の測定を可能とする高精度計測装置が不可欠です。キヤノンは、設計や加工方法を繰り返し検討し、試作を重ねていくことで、非球面レンズの量産技術を確立し、1971年3月に研削非球面レンズを採用した一眼カメラ用交換レンズ「FD55mm F1.2AL」を発売しました。また、1973年にはナノメートル※2オーダーの超精密非球面研削機「ALG-Z」を開発し、レンズの加工精度を向上させました。さらに、1985年には大口径ガラスモールド(GMo)非球面レンズの実用化に成功し、世界で初めてGMo非球面レンズを採用した一眼カメラ用交換レンズ「New FD35-105mm F3.5-4.5」(1985年12月発売)を発売しました。以降も研究開発を進め、現在に至るまで非球面レンズの成形・測定技術はキヤノンの高性能レンズを実現する重要な技術のひとつとなっています。
キヤノンは、これからも光学技術に磨きをかけ、幅広いユーザーの期待に応える技術や製品を提供していきます。なお、WEBサイト「キヤノンカメラミュージアム」にて、「(50周年記念)超精密加工への挑戦が生んだ非球面レンズ」(https://global.canon/ja/c-museum/special/exhibition1.html )を本日より公開し、非球面レンズに関する技術や歴史などを紹介します。
キヤノンは4種類の非球面レンズ加工技術を持っています。ダイヤモンドの入った工具でガラスを削って磨く「研削非球面」、非球面の金型でガラスを直接プレスして成形する「ガラスモールド非球面」、非球面の金型で球面ガラスの面上に非球面の樹脂を形成する「レプリカ非球面」、非球面の金型に樹脂を充填して成形する「プラスチックモールド非球面」の4種類です。レンズの特性や位置づけに応じて、キヤノンではこれら4種類の非球面レンズを適材適所に配置することにより、ユーザーの幅広いニーズに応えるレンズを提供しています。
また、キヤノンではレンズの加工機も独自に開発しており、高精度な非球面レンズの製造を実現しています。例えば、設計値に対する加工後の形状誤差は、0.1マイクロメートル以下の精度を実現しており、レンズ面の大きさを東京ドームの屋根(直径:約244m)に置き換えると、誤差は一般的なシャープペンシルの芯の太さ(0.5mm)以下となります。
さらに、4種類の中で最も高い精度を誇る研削非球面の加工技術は、一眼カメラ用の非球面レンズのみならず、学術分野にも展開されています。国立天文台のすばる望遠鏡では、高い精度が要求される主焦点カメラ用補正光学系に、自社製の高精度計測装置と加工装置を用いて完成させた非球面レンズが搭載されています。
研削非球面
ガラスモールド非球面
レプリカ非球面
プラスチックモールド非球面
一眼カメラ用交換レンズを球面レンズのみで構成した場合、例えば、大口径レンズと広角レンズでは、球面収差と歪曲収差がそれぞれ増大してしまいます。球面収差は、レンズに光軸と平行な光線を入射させたとき、レンズの光軸に近い光線の結像位置に比べ、光軸から離れたレンズ周辺部に入射した光線の結像位置がレンズに近い方にズレて像がぼけて写る現象です。また、歪曲収差は、被写体とレンズによる結像が相似形とならず、直線が歪んで写る現象のことです。球面ではない曲面形状により、これらの球面レンズの課題を解決し、理想的な結像状態を生み出すのが「非球面レンズ」です。
非球面レンズ
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初めて非球面レンズを採用した
「FD55mm F1.2AL」
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「F2.8 L IS USM ズームレンズシリーズ」
1.44MB(3200px×2400px)