人々に優しい医療の実現のため、AI技術を活用しながら進化を続けるMRIシステム
めざすのは誰もが利用できるMRI装置
かつてはCT装置と比べて高画質が実現しづらいとされていたMRI※装置。技術の進化により、MRI装置は最先端医療を支える画像診断装置として注目が高まっています。キヤノンは、米国のジョンズ・ホプキンス病院とのMRI装置に関する共同研究を通じて、患者さんに優しい検査環境と、医療従事者に新たな臨床価値をもたらす製品開発に取り組んでいます。
- ※ Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像撮像。以下、MRI)
目次
ジョンズ・ホプキンス病院
医師(筋骨格放射線学)
シャドプール・デメリ先生
ジョンズ・ホプキンス病院
医師、医学士(心臓病学)
ジョアン・リマ先生
ジョンズ・ホプキンス病院の取り組み・思い
キヤノンとのMRI装置に関する共同研究において、どのような点を評価していますか?
キヤノンのMRI装置は、高い空間分解能※1の画像をつくり出す「超解像技術」など、他社が注力していない独自の方向性を追求しており、2017年から続くこのパートナーシップは非常に価値のある研究だと考えています。今後、MRI装置は筋肉や骨、関節などの損傷を検査・診断する筋骨格領域の画像診断で活用され、身体への負担が大きい検査の代替手段として、医療現場に貢献していくと考えています。
動く臓器である心臓は、撮像※2の難易度が高く、検査に時間がかかるのが課題でした。放射線の影響を特に考慮しなくてはならない子どもや若い女性にとって、MRIは有効かつ不可欠な技術です。私たちはAIを活用することで、誰もが簡単かつ迅速にMRI検査を受けられる社会をめざしています。
- ※1 どれほど小さいものまで区別して見ることができるかを示す能力
- ※2 対象物の情報を取得し、画像として表現すること。MRI検査においては、強い磁力と電波を使い、人体の断層画像を作成すること
課題
MRI検査の課題と、その解決につながる技術の進化はありますか?
たとえば、膝のMRI検査は、関節の検査において米国で最も一般的な画像診断の一つですが、ワークフローの改善や撮影時間の短縮、画質の向上が長年の課題でした。数年前、リマ先生からキヤノンのディープラーニングAIアルゴリズムを紹介され、撮影時間を短縮しながらも、高画質が実現されていることに驚き、非常に興味をもちました。
かつて、体格の大きい方や肥満の患者さんは、臓器からコイル※3までの距離が遠いことで画像化に必要な信号が弱くなってしまうことから、MRI検査には不向きとされていました。しかし、AI技術の導入により、現在はどのような体型の方でも精度の高い撮像が可能になってきています。
- ※3 MRI検査時は、撮影箇所を感度よく画像化するために患者さんに受信コイルを装着する。
MRI装置のしくみと技術を紹介する記事はこちら
キヤノンのMRI装置の強み
キヤノンのMRI装置がもたらすメリットを教えてください。
従来よりも高い空間分解能で速く撮像できることです。これにより、たとえば脳の断面の撮影では、わずか3分ほどで高画質画像を取得できるようになりました。さらに、脂肪抑制シーケンス※4と組み合わせることで、脳全体の撮像も従来の約3分の1の10分以内で完了します。これは、常に忙しい医療現場にとって、運用効率と費用対効果を高める大きなメリットになります。また、筋骨格の領域においては小さい骨など、ミリ単位で体内組織を見たうえで手術の要否を判断する必要がありますが、キヤノンのMRI装置は、その判断を支える極めて高い解像度を備えています。
- ※4 脂肪からの信号を選択的に消すことで炎症や腫瘍などの病変を明瞭に描出する技術のこと。MRI検査の臨床画像では脂肪が白く明るく写り病変が見えにくい場合があるために用いられる。脳の撮影では、頭蓋骨周辺の皮下脂肪などが影響することがある。
導入後の効果
キヤノンのMRI装置は医療従事者や患者さんにどのように役立っているのでしょうか?
最大のメリットは、高解像度という特長を生かし、小さな神経や関節をより正確に捉えられる点にあります。ジョンズ・ホプキンス病院とキヤノンが共同で最大開発したPrecise IQ Engine(PIQE)※5とノイズ低減のアルゴリズムを用いたMRI検査では、従来、長時間の撮影でしか得られなかった膝関節の軟骨の極めて微細な変化を検出することに成功しました。無症状の被験者においても微細な半月板損傷などを特定できたことから、関節痛や無自覚な損傷の進行など、早期発見につながると確信しています。
- ※5 ディープラーニング技術を応用してMRI画像を再構成する技術
今後の展望
今後の共同研究や臨床応用において、キヤノンに期待する技術革新を聞かせください。
私の理想はMRI検査をCT検査のように、身近な存在にすることです。MRI検査は放射線被ばくがないため、心臓疾患をもつ方や、被ばくを避けたい子ども、若い女性などにとって極めて有効な検査手段です。高画質化や検査時間の短縮により、誰でも気軽に受けられるMRI検査の実現こそが、私にとっての最大の目標です。
特に期待しているのは、CT検査とMRI検査の両方で組織の状態評価を行うAI解析ツールの研究です。現在、私たちの研究室では、筋肉や骨などの組織を定量化するアルゴリズムを開発しています。これをキヤノンの装置に組み込み、MRI検査で患部を撮影したあと、自動でデータを抽出して、CT検査の必要性を判断する材料として利用できるようにする。これができれば、患者さんにとっても医師にとっても再検査に伴う追加のコストや時間が減り、非常に画期的です。学術界と産業界による次世代のパートナーシップとして、ぜひ実現させたいと考えています。