ナノインプリントリソグラフィのメインビジュアル

ナノインプリントリソグラフィ

半導体製造の量産ラインの
最適化への軌跡

半導体製造において、回路パターンをシリコン基板へ転写する「露光」は欠かせない工程です。情報量の増加に伴い回路の微細化が進むなかで、従来の光学式露光(光露光)では消費電力などの課題が顕在化しています。こうした課題に対応する次世代技術の一つとして、キヤノンはナノインプリントリソグラフィ(NIL)を開発しました。2023年にはNILを搭載した装置を発売し、導入されたお客さま先では、半導体製造の量産ラインの最適化に向けた最終調整を進めています。今回は、その最前線に立つ二人に、これまでの歩みと今後の展望を聞きました。

  • (本記事の内容は取材・制作時点のものです。)

目次

Profile
佐藤 貴洋(サトウ タカヒロ)ポートレート画像

光学機器事業本部

佐藤 貴洋(サトウ タカヒロ)

2010年入社。5年間にわたる半導体デバイス開発経験を経て、半導体デバイス特性が製造装置に与える影響を追求すべく、半導体装置開発部門へ異動。現在はリソグラフィ工程における重ね合わせ(オーバーレイ)精度の向上をめざして、装置評価およびプロセス開発に従事。

Profile
七條 雅人(シチジョウ マサト)ポートレート画像

光学機器事業本部

七條 雅人(シチジョウ マサト)

2020年入社。初配属からNILプロジェクトに従事。大学での電気電子専攻をベースに、現在は電気設計とソフトウェア開発の両面から、装置の制御設計を担う。ハードとソフトを一気通貫で担当する稀有な役割を活かし、システム全体を俯瞰した最適化に尽力。

NILへの期待と課題

従来の光露光とNILの決定的な違いを教えてください。

佐藤:

光露光の技術が「光で影を写す」ものだとすれば、NILは「スタンプを押す」イメージです。NILの最大の特徴は、回路パターンを刻み込んだ「マスク(型)」を、ウエハー上の樹脂に直接押し当てる点にあります。これにより、一度の工程で複雑な構造を一括で形成できて、従来の光露光で必要だった繰り返しの露光が不要になります。また回路パターンの形成において光源を使用しないことから、消費電力も約1/10に抑えられるというメリットがあります。

光露光とNILの比較イメージ
光露光とNILの比較

詳しくは、テクノロジーサイト「ナノインプリントリソグラフィ」をご覧ください

七條:

一方で、マスクをウエハーに直接接触させるNILならではの課題もあります。半導体チップは複数の層を重ねて製造されるため、数nmレベルの高精度な位置合わせが不可欠です。また、接触時にパーティクル(微粒子異物)が混入すると、不良やマスク破損の原因にもなります。こうした課題に対して試行錯誤を重ねながら、一つ一つ対応していきました。


課題解決への取り組み

試行錯誤のなかで、特に困難だったエピソードを教えてください。

佐藤:

「パーシャルフィールド」と呼ばれるウエハー端の処理は重要な開発テーマでした。円形のウエハーに四角いマスクを用いる構造上、周縁部では接触が不安定になりやすいという物理的な課題があります。特に苦労したのは、境界条件の設定に加え、パターンの余剰部分を除去するエッチングや、電気特性を付与する後工程の影響も考慮しながら、従来技術と同等の転写精度を確保するための設計でした。

七條:

私は、その設計上の転写精度に対して、量産時に再現性を保証できないという壁に直面しました。1カ月以上、膨大なデータと向き合うなかで、わずかな誤差の原因を突き止め、ハードウェア改修の工程で解決策を見出すことができました。

パーシャルフィールドのイメージ
マスク周辺部で、円形のウエハーと長方形の露光領域の形状不一致により生じるパーシャルフィールド
佐藤:

NILの研究開発で連携する米国グループ会社との議論にも非常に苦労しました。議論はすべて英語で、専門用語を交えた会話に気おくれすることがありましたが、「お客さまの現場を熟知しているのは自分自身だ」と考え直し、積極的に提案をする姿勢に切り変えたことで、関係者の理解が得られるようになり、開発のスピードが劇的に向上していきました。

佐藤 貴洋(サトウ タカヒロ)写真

今後の展開

NILを活用した半導体製造の量産ラインの最適化に向けて、どのようなことが必要だと思いますか?

佐藤:

お客さまにとってNILは単体で完結するものではありません。グループ会社との連携を進めて半導体製造装置としての精度を高める一方で、マスク洗浄装置などの周辺機器を含めた製造工程を最適化することが必要です。

七條:

あわせて、お客さまの現場での課題抽出も欠かせません。半導体の製造では、成膜や配線などの工程を重ねるなかで生じるウエハー表面のわずかな凹凸が位置ずれを引き起こし、生産性に影響を与えることがあります。そこで、マスクを回路に転写するNIL技術をウエハー表面の凹凸を均一に整える平坦化技術(IAP)として応用してきました。NILの実用化に向けてはこのように製造現場の課題に寄り添いながら、技術の適用領域を広げていくことが今後も必要になると思います。

七條 雅人(シチジョウ マサト)写真
IAPのイメージ
ウエハーを平坦化する「Inkjet-based Adaptive Planarization」(IAP)技術

今後の目標を教えてください。

七條:

NILはいよいよ顧客先での「半導体製造の量産化」という最大の山場を迎えています。このミッションを完遂することは私たちの責務であり、それがひいては社会の省電力化やテクノロジーの進化に直結すると確信しています。

開発者集合写真
佐藤:

次のマイルストーンは、量産工程で求められる実力の底上げです。マスク寿命の向上やコストダウンを徹底し、お客さまが従来装置と遜色なく運用できるレベルまで、技術を磨き上げたいと考えています。NILに関する技術開発は現時点で他社を一歩リードしていますが、量産工程での実力向上については、なお挑戦の途上にあります。前例がないからこそ、自分たちの手で世界を変えていける。そんな情熱をもった仲間と共に、未知の領域を切り拓きたいです。


開発現場のリアル~挑戦が役割になる職場~

七條:

入社年次・年齢に関わらず、特許提案を積極的に行える風通しの良い環境です。「この課題をこう解決することで、お客さまにこれだけの利益がある」といった提案が認められれば、プロジェクトのリーダーを任されることもあります。主体的に挑戦できる風土の中で、自ら職場の雰囲気をつくりながら、日々成長を実感して仕事に取り組める点が大きな魅力です。

佐藤:

開発の最前線では、担当が明確でない「グレーゾーン」の問題が数多く発生します。その際、自ら関係者を集め、ファシリテーションを通じて課題を設定し、解決への道筋を描いていきます。与えられたタスクをこなすだけでなく、自ら問いを立てて形にするプロセスに喜びを感じる人にとって、これほど面白い職場はないと思います。

開発者集合写真