バードウォッチングに行こう vol.2

春のバードウォッチング

恋の季節は、さえずりを聞きながら

鳥たちにとって「春」は、恋をして、結婚して、子育てをする季節です。
繁殖のために、日本にはたくさんの渡り鳥(夏鳥)がやってきます。夏鳥には、カラフルな羽の色をしたものや、さえずりが美しい小鳥が多く、春はバードウォッチングが楽しいシーズンなのです。

毎年、5月10日からの1週間は「バード・ウィーク」が設定され、日本中で、たくさんのバードウォッチングイベントが開催されています。初心者の方は、鳥の解説などを聞きながら学べる探鳥会などのイベントを探して参加すると良いかもしれません。

バードウォッチングの基本と道具」で示した通り、眼だけを頼りに鳥を探すには限界があります。春はオスたちがメスを呼んだり、縄張りを主張したりするために、盛んにさえずっています。その声が聞こえる方向をヒントに鳥を探すことができるので、春はバードウォッチング初心者向きの季節ともいえます。

スズメ
シジュウカラ

春、さえずりをヒントに観察しやすい鳥

住宅地や近くの公園 シジュウカラ 「ツーピー」「ツツピー」を繰り返してさえずる。街路樹や公園、住宅地で見かける。
ツバメ 「チュピチュクイ ジュビッチュイ ツイチリリリィジュイーッ」などと長くさえずる。聞きなし(鳥の言葉を人の言葉に置き換える)は「土食って虫食ってしぶーい」。電線や住宅地で見かけ、住宅やガレージ、駅やサービスエリアなどの軒下に巣作りする。
草地や畑 ヒバリ 「ピチュピチュリ ピーチリリチュクチュク・・・」と飛びながら早口でさえずる。草原や河川、開けた畑地などで見かける。
キジ 「ケッケーッ!」と大きな声で鳴く。草地や畑の畔(あぜ)のなかに隠れるようにしている。
森や林 キビタキ 「ホイヒーロ、オーシツクツク、チッチリリココインジ」などと弾むようにくり返しさえずる。平地や山地の明るい林に多い。樹木の中間ぐらいの枝をさがすと見つけやすい。
オオルリ 「ピーリーリー ジジッ」とよく通る声で鳴く。木のてっぺんでさえずるのが特徴。渓流沿いの林に多い。

住宅地や近くの公園

シジュウカラ

「ツーピー」「ツツピー」を繰り返してさえずる。街路樹や公園、住宅地で見かける。

ツバメ

「チュピチュクイ ジュビッチュイ ツイチリリリィジュイーッ」などと長くさえずる。聞きなし(鳥の言葉を人の言葉に置き換える)は「土食って虫食ってしぶーい」。電線や住宅地で見かけ、住宅やガレージ、駅やサービスエリアなどの軒下に巣作りする。

草地や畑

ヒバリ

「ピチュピチュリ ピーチリリチュクチュク・・・」と飛びながら早口でさえずる。草原や河川、開けた畑地などで見かける。

キジ

「ケッケーッ!」と大きな声で鳴く。草地や畑の畔(あぜ)のなかに隠れるようにしている。

森や林

キビタキ

「ホイヒーロ、オーシツクツク、チッチリリココインジ」などと弾むようにくり返しさえずる。平地や山地の明るい林に多い。樹木の中間ぐらいの枝をさがすと見つけやすい。

オオルリ

「ピーリーリー ジジッ」とよく通る声で鳴く。木のてっぺんでさえずるのが特徴。渓流沿いの林に多い。

春にしか見られない鳥の親子に注目!

鳥はペアになると、巣づくり、交尾、産卵、抱卵、育雛をし、早ければ5月くらいでヒナが巣立っていきます。子育てのために親鳥が頻繁にエサをとりに行く姿を見かけることができるでしょう。また、巣から出てもすぐに独り立ちができるわけではなく、親にエサを与えてもらいながら一緒に行動します。その期間に、飛び方やエサのとり方など、生きていくための知恵を学習します。

バードウォッチング体験レポート

公園で“鳥の春”を観察

文・写真/キヤノンバードブランチプロジェクトメンバー

講師の安西英明さん(日本野鳥の会 参与)

5月中旬、ある晴れた日の朝9時半、都内のとある公園にキヤノンバードブランチプロジェクトのメンバーが集合しました。 この日の講師は、日本野鳥の会の安西英明参与。安西さんは、その道40年以上という、鳥の世界の有名人です。 バードウォッチングというと、たくさんの種類を見るのが目的になりがちです。しかし、わざわざ有名な鳥見のスポットまで出かけていっても、自然と生きものが相手ですので、実際には思うようにいきません。 今回は、初めてバードウォッチングするメンバーもいることから、「遠出せず、気楽に、楽しもう!」というのがこの日のテーマです。

春だから見られる、愛のシーンに注目

スズメ、カラス(ハシブトガラス)、ムクドリ、ヒヨドリ……といった、どこにでもいる身近な鳥が、今回のバードウォッチングの目的だと聞いて、正直、少し残念に思いました。でも、「今しか見られないものを見られますよ!」と安西さんは満面の笑顔です。
公園の入り口で、双眼鏡の使い方を教えてもらい、準備万端でバードウォッチングに出発しました。

1ムクドリが芝生で虫をとっている
ー 巣にいるヒナにあげるため ー

道沿いに広がる芝生の上に、ムクドリが次々と舞い降りて、土をつついて、虫をとっています。なかには、2、3匹、まとめてくわえているものもいます。欲張りだな、と思っていると、「そうではない」と安西さん。1匹ではなく、たくさんくわえているということは、ヒナが大きく成長しているから、とのこと。どうやら、自分のためではなく、かわいいわが子のためだったようです。失礼しました。
また、2羽並んでいるときに、色の濃いほうがオスで、薄めのほうがメスなんだそうです。ムクドリの雌雄は、ペア(つがい)が並んでいる時のみ、色の濃淡で見分けがつくそうです。もてるオスの条件は、色がより黒いことだとか。
この日はたくさんのペアを見かけることができたので、オスメスを見分けつつ、くわえているエサの量から、巣にいるヒナたちがどれくらい成長しているかを推測しました。

早速、虫をくわえたムクドリを発見!我が子のためにエサを見つけた

2虫をとっているスズメ
ー 出産、おめでとうございます! ー

次に目に入ったのが、同じく、虫をくわえているスズメ。「あのスズメには、ヒナが生まれていますね」安西さんが、興奮気味に言います。
「種子食のスズメは、虫はあまり食べません。しかしヒナには、栄養豊富で、消化もしやすい虫が適しており、親は一生懸命虫をとる必要があります。虫をとっているということは、子どもが生まれたという証(あかし)なんです」
さらに教えてくれたのが、くちばしの話。スズメなどの種子食の鳥のくちばしは、かたい種を割ることができるペンチ型になっているんだそう。鳥のくちばしは、主食が何かによって、いくつかの型に分かれていて、より食べ物を探しやすくしたり、得やすくしたりするために進化を遂げたのではないかとのこと。とても興味深いです。

ヒナのために虫を運ぶスズメ

しばらく散策していると、芝生の上を歩いているスズメに、しきりに尾を上下しているスズメがいました。これは、オスのメスに対する求愛のポーズ。ここで安西さんがひと言。
「メスは虫をくわえているということは、すでに誰かの嫁さんで、お母さんです。あのオスに望みはありませんね」
それでも歩き回るメスに、つきまとっては尾を上下させているオスを見て、「繁殖期の中盤のこの時期、もてないオスは必死で、哀れですね」と、ばっさり切り捨てる安西さんでした。

スズメの求愛ポーズ

3数羽で群れているスズメ
ー 春はファミリーで行動 ー

公園には、たくさんのスズメがいました。よく見てみると、1羽ではなく、数羽単位でいることに気づきます。これが、この時期にしか見られないスズメの家族です。スズメのような小鳥は、飛べるようになるとすぐに巣立って、しばらくの間、親にエサをもらいながら一緒に行動し、独り立ちの修業を積みます。その期間は10日ほどで、春から初夏までの期間限定です。両親と子どもの微笑ましい様子を見ることが今日の目的の一つでした。
安西さんから教わった子どもの見分け方は、ほっぺた。スズメのほっぺたの黒班は、子どものうちは薄いのですが、生まれた年の夏には大人と同じくらいの黒さになってしまうんだそうです。スズメの場合は、子どもと大人のからだのサイズはあまり変わりません。人間の常識で考えれば、子どもは体が小さいものですが、野鳥の場合、それが当てはまらないことも多いので、見た目にごまかされないようにしましょう。
鳴き声にも注目です。「チュン チュン」ではなく、しわがれたような声で「シリッ シリッ」というのが、ヒナの鳴き声です。これも、成長するにしたがって声変わりし、「チュン チュン」になります。

親子のスズメ。5羽のヒナが杭の上にいる親鳥をじっと見つめる

4スズメの巣のマンションを発見!
ー 巣づくりの建築段階を見分ける ー

公園内を歩きはじめて1時間くらい経ち、だんだん足も疲れてきました。東屋を見つけたので、ひと休みしようとその方向に歩き出すと、屋根の下の棟の隙間に、忙しそうなスズメが次々と消えていきます。どうやらこの東屋は、スズメの巣がたくさん入ったマンションのようです。

東屋で休んでいると、頭上からスズメの鳴き声が!

「くわえているもので、巣づくりがどの段階に来ているかがわかります」と、安西さん。
たしかに、外から帰ってきたスズメがくわえているのは、藁のような枯れ草だったり、羽毛だったり、虫だったり、さまざまです。巣作りの初期は、比較的しっかりとした素材で外郭を作り、しだいに細くて柔軟性のある素材で補完していきます。最終段階に入ると、卵を柔らかく包むための産座(さんざ)のために、ほかの鳥の羽や、ネコなどの毛が運び込まれます。

親スズメがくわえているもので巣づくりの段階がわかる

私たちは、一生懸命、帰ってくるスズメがなにをくわえているかを見分けました。ときどき、虫をくわえて帰ってきた親に、「ちょうだい、ちょうだい」と急かすためか、「シリッ シリッ」と、赤ちゃんスズメの鳴き声も聞こえます。この東屋は、たくさんの世帯が入居していましたが、ときどきオス同士が激しく縄張り争いをしています。安西さんによると、スズメが巣作りをするのは、昔ながらの日本家屋の瓦や屋根などにある「隙間」ですが、最近では、近代建築が主流になり、そういった隙間のある家屋が減ってしまったことで、スズメの巣は住宅難に陥っているのだそうです。スズメのような小鳥は、春から初夏までの間に、2~3回の繁殖をするものもいます。一回の繁殖で3~4個の卵を産み、巣立つヒナは、2羽とも言われます。人間とはちがい、死亡率が高い小鳥ゆえに、たくさんの子孫を残す必要があるのでしょう。

木の枝や枯れ草、鳥やネコの羽毛で巣をつくる

5見た!うれし恥ずかしの愛の時間
ー 鳥の交尾は一瞬! ー

東屋のスズメの巣マンションは、とても騒がしかったものの、飽きずに観察できました。
そんな時です。安西さんが、東屋の片隅の木にいるスズメを指さして、「あっ、交尾しています」と教えてくれました。
鳥の交尾は一瞬のようで、数回、オスがメスの上に乗ったあと、すぐに飛び立ってしまいました。
しかし、このなかなか見ることができない瞬間に遭遇して、一同、感動してしまいました。
安西さんによると、交尾に誘う時に、「ヒヨヒヨヒヨ」とやさしく囁く鳴き声があるのだそうです。このときは騒がしくて聞き取れませんでしたが、ぜひ聞いてみたいものだと思いました。

そろそろ帰ろうかと帰途につくと、枝に止まっているカラス2羽に安西さんが注目しています。この時期は、すでに夫婦は子育てのために忙しくしていますが、子作りができる体になるまで2年以上かかるカラスの場合、若鳥たちは群れを作って生活しています。
鳥がペアかどうかの判断はむずかしいのですが、相互羽繕いをするかどうかがその決め手になるのだそうです。この2羽は、片方が近寄ると、もう一方が逃げるということを何度も繰り返しており、安西さんによると、「まだ恋人関係になりきれていない若いオスとメスだろう」とのことでした。 メスのつれない様子と、めげないオス……その初々しい様子に、一同、青春を感じました。

恋人になれるかな? 羽繕いをしそうでしない、若いカラスのオスとメス

今回は、約1時間半という短い時間でしたが、とても充実したバードウォッチングができました。これまでは、たくさんの種類を「見る」のがバードウォッチングだと思っていました。スズメが飛んでいるのを見ても、「スズメが飛んでいる」と思うだけでした。くちばしに何をくわえているかを気にすることも、当然ありませんでした。

今回の安西さんのお話を聞いて、鳥がどこで、何をしているのかを「じっくり観察」することが大切なのだということがわかりました。

何をくわえているかで、いま、何をしているのか、夫婦なのか、子どもがいるのかまでわかるなんて、おどろきました。
スズメやカラスといった身近すぎる野鳥でも、まだまだ知らないことや興味深いことがあるはずです。みなさんも、近所の公園を散歩する機会があれば、見かけた鳥が何をしているか、ちょっと気にして観察してみてください。

この日観察できた鳥

ムクドリスズメハシブトガラスメジロキジバトハクセキレイシジュウカラコゲラ、 ヤマガラ、 カルガモ

バードコラム