人材育成と成長支援
取り組み
グローバル人材の育成
グローバル化を進めるキヤノンの事業は、世界のさまざまな国・地域に広がり、2024年末時点で345の事業拠点※があります。こうしたなか、国際舞台でリーダーシップを発揮できる人材の育成を強化しています。
- ※ 事業拠点数はキヤノン(株)および連結子会社数、持分法適用関連会社数の合計
国際出向制度による人材の活性化
キヤノンでは、グローバルな協業やグローバル規模で活躍できる人材の育成を促進する目的で、日本から海外だけではなく、海外から日本、さらには日本以外の二国間での人材交流を活性化するため、世界中のグループ会社を対象とした国際出向制度「Canon Global Assignment Policy(CGAP)」を設けています。
CGAPはグループ共通の国際出向の指針で、CGAPにもとづき、各国・地域で出向規程を設けています。これらを組み合わせて運用することで、人材交流を活性化させ、基本的な理念やしくみを共有しながら、法律や文化などの地域ごとの特性にも柔軟に対応しています。
たとえば欧米では、入社3年以上の社員に向けた1年間の人材交流プログラム「US/Europe Exchange Program」、アジアでは幹部候補育成を目的とした欧米での1年間の研修プログラム「ASIA CGAP」などを実施しています。
これらの制度を利用して、2024年末現在で合計1,077人が国際出向しています。
若手社員へのグローバル研修
キヤノン(株)では、社員が語学力や国際的なビジネススキルを身につけるために、早くから海外勤務を経験するさまざまな制度を設けています。
たとえば、2020年から新入社員を対象とした「Canon Global Marketing & Sales Trainee制度」を開始しています。この制度では、将来グローバルに活躍するマーケティング人材の育成を目的に、国内外でそれぞれ1年半の販売経験や語学の習得を行います。
さらに、国際社会で通用する技術者の育成や、将来キヤノンの基幹となり得る技術の獲得を目的に、技術系社員を対象とした「技術者海外留学制度」を設けています。1984年に開始し、これまでに累計131人が海外の大学に留学しています。先端技術を継続的に獲得するため、今後も毎年数名程度の留学者を選出していきます。
各種エキスパートの育成
技術人材の育成
キヤノン(株)では、機械・電気・光学・材料・ソフトウエアなど専門分野ごとの教育体系を整備し、長期的な視野に立って次世代を担う技術人材を育成しています。これら主要分野では、それぞれ「技術人材育成委員会」を設置し、新入社員から若手、技術リーダーにいたるまで、階層に応じた育成体系を構築し、研修や施策を実行しています。また、解析技術など分野横断型の研修も実施しています。2024年は各分野あわせて140講座の研修を開催し、国内グループ会社含めてのべ26,094人の技術者が受講しました。このほか、2021年より全職種を対象とし、IT基礎知識を学ぶITリテラシー向上研修を実施しているほか、2023年からはより実践的にDXについて理解することを目的としたDXリテラシー研修を開始し、これまでのべ7,268人が受講しました。
また、2023年に、高度な技術的知見を有する技術者を「Top Scientist」「Top Engineer」として認定する制度を設立しました。対象者は、審議会を経て選出され、キヤノンの技術をけん引する技術者として顕彰されます。これにより、技術者がモチベーションを高め、さらなる事業貢献を果たすことが期待されています。
ソフトウエア人材の育成
キヤノン(株)では、2018年にソフトウエア技術者を育成する研修機関「CIST(Canon Institute of Software Technology)」を設立しました。CISTでは、製品のソフトウエア開発を担当する技術者のスキルアップから、新入社員や職種転換をめざす社員の基礎教育まで、体系的な人材育成に取り組んでいます。
このほか、国立情報学研究所主催のソフトウエア技術者育成を目的とした「トップエスイーコース」に4人、早稲田大学主催のAI・IoT・ビッグデータ技術分野のビジネススクールである「スマートエスイーコース」に3人の技術者を派遣しています。


生産拠点におけるグローバルなものづくり人材育成
キヤノンでは、キヤノン(株)のものづくり推進センターが中心となって、生産活動を支える人材の育成に注力しています。
2024年は同センター主催によるオンライン研修を海外9カ所の生産拠点で計71回開催し、360人が受講しました。
また、海外生産拠点での受講を促進するため、「拠点トレーナー養成研修」にも力を入れています。2024年は、オンラインでのトレーナー研修を15回開催し、48人が受講しました。拠点トレーナーによる研修は、各拠点で展開され、2024年は約3,800人が受講しました。
さらに、国内と同一水準の「技能検定制度」を海外拠点にも導入・運用し、2024年はタイ、ベトナム、マレーシアなどの計6拠点において、成形、実装、プレスなどの7職種で検定を実施し、約400人が受検しました。
人材育成体系
キヤノン(株)では、社員のモチベーションや専門性の向上を支援していくために、原則、全社員を受講対象とし、「階層別研修」「選択研修」「自己啓発」で構成される教育体系を整備しています。
階層別研修では、等級ごとに求められる役割について速やかに理解・実践できるように研修を実施しており、行動指針を中心に行動意識の醸成を図るほか、研修と連動する形でeラーニングを含む選択研修を行っています。こうした研修は、受講生の学びの促進や視野の拡大、モチベーションの向上につながっています。
なお、キヤノン(株)における2024年の社員一人当たりの平均研修時間は約27時間で、平均研修費は約17万3,000円でした。また、主な国内グループ会社および海外販売会社での社員一人当たりの平均研修費は約9万3,000円でした。

- キヤノン(株)の人材育成体系
- CPT:Canon Production Trainee
- CGAP:Canon Global Assignment Policy
- CGMST:Canon Global Marketing & Sales Trainee
- CIST:Canon Institute of Software Technology
経営人材の育成
経営人材の育成については、「経営塾」「Canon Leadership Development Program(LEAD Program)」を実施しています。経営塾では、事業部長や所長などの上級管理職を対象に一流の経営リーダーたる人材の育成を図っています。代表取締役CEOが塾長を務め、政治・外交・経済・科学技術などの専門家を講師に迎え、これまでに多くの役員を輩出しています。また、LEAD Programは、リーダー候補者の意識を経営視点に切り替えた上で、リーダーシップの涵養や戦略立案力・実践力の強化を図るプログラムで、管理職各階層の登用前後の研修や登用前のアセスメントとして実施しています。また、これらの研修では、ハラスメントの防止やコンプライアンスの徹底などのプログラムも取り入れています。
キヤノン(株)のキャリア形成支援プログラム
業績とキャリアについての定期面接制度
役割給制度のもと、社員一人ひとりの役割達成度と行動を評価するために、期初・中間・期末の年3回、原則、全社員を対象に、上司と部下の面接を行っています。面接では、役割、目標、達成状況に加え、部下が記入した「キャリアシート」にもとづき今後のキャリアについて確認しています。
評価結果の通知では、より高い成果の達成と行動の改善に向けた助言と指導をあわせて行います。部下は自分の強みや弱みを具体的、客観的に受け止め、さらなる成長へとつなげるとともに、上司は今後の育成計画に生かしています。
キャリアマッチング制度
社員の主体的なキャリア形成をサポートするしくみとして「キャリアマッチング制度」(社内公募制度)を設けて、適材適所の人材配置や人材の流動化・活性化を図っています。
また、未経験の領域の仕事にチャレンジする意欲のある社員に対して、あらかじめ研修を実施してそのレベルに応じた業務に配置する、研修と社内公募を合体させた「研修型キャリアマッチング制度」も実施しています。2024年は社内公募制度を利用して、317人が異動しました。
研修型キャリアマッチング制度利用者の声
事務系として入社後、プリンター事業の製販業務に携わっていましたが、趣味のアプリ開発がきっかけで、ソフトウエアに関心をもち、職種転換を希望しました。研修では、プログラミングやアルゴリズムなどに関する講義に加え、一カ月以上に及ぶチームでの開発演習を通じて、エンジニアとしての基礎を築くことができました。現在は、プリンター向けのアプリケーションとファームウェアを配信するクラウドサービスの開発に従事しています。前職場での経験と研修での学びを生かし、ものづくりのプロセス全体を俯瞰して開発業務に取り組むことができています。今後は、ソフトウエアエンジニアとしての技術力をさらに高め、より社会に貢献することができる技術者になりたいと考えています。

キヤノン(株)
デジタルプリンティング事業本部
若手社員へのキャリア支援
若手社員が安心して能力を発揮できる環境を整えるため、上司・先輩社員・人事が三位一体となった支援を行っています。特に、入社3年目までの新入社員に対する支援を強化し、さまざまな研修や個別面談の機会を設けています。具体的には、まず入社時に、性格やモチベーション要因を把握する適性検査を実施し、本人の自己理解やキャリア自律の促進と上司のマネジメント支援を行っています。また、仕事の満足度や人間関係、健康状況などに関するアンケートを毎月実施し、モチベーションの変化を可視化することで、フォロー対象者を早期に発見するパルスサーベイを導入しました。さらに、若手社員と同じ目線で並走する若手人事スタッフを「AC(Accompanied)クルー」として任命し、パルスサーベイのフォロー対象者に対して個別面談を行うほか、交流イベントを実施するなど、若手社員の定着へ向けたサポート体制を充実しています。そのほかにも、若手社員一人ひとりに他部署の先輩を「ブラザー・シスター」として任命し、身近なサポートを行っています。2022年からは、若手社員のキャリア形成意識を醸成するために、「3年次キャリア研修」を立ち上げ、同期同士の交流を図るグループワークや、社内キャリアカウンセラーによる個人面談を行っています。このような取り組みの結果、若手社員からは「会社が自分を見てくれていると感じる」といったコメントが寄せられ、早期離職やメンタル不調の抑止などの効果が表れています。今後は、各種サーベイなどにより蓄積されるデータを分析・活用しながら、引き続き若手社員へ寄り添う支援を行っていきます。
定年後を見据えたキャリアプラン・ライフプラン研修
社員が定年後の人生をより豊かなものにできるよう、50歳・54歳時に「クリエイティブライフセミナー」を実施しています。ライフプランやキャリアプランについて考える機会を早い段階で設けることにより、60歳以降の準備を自立的かつ計画的に進められるようにしています。
組織活性化の支援
キヤノンでは、「人と組織の成長」と「業務成果の達成」の同時実現をめざし、組織開発の専門部門を設け、多様化する組織課題に応じたコンサルティングとその後のサポート、階層別トレーニングなどの組織活性化支援を行っています。2024年までに国内外のグループ会社を含む、のべ469部門、1万6,600人の支援を行っています。
その他のキャリア形成支援
学ぶ機会を多様化し、自己啓発意欲の高い従業員のキャリア形成を支援するために、eラーニングコンテンツの開設を推進しています。
功績をたたえる多様な認定・表彰制度
キヤノンは、多様な認定・表彰制度を設けてグループ社員の功績を評価しています。
「Canon Summit Awards」は、キヤノンの活動および製品分野において、社業の発展に多大な貢献をしたグループ内の企業、部門、チームおよび個人を表彰しています。このほか、発明および知的財産活動に貢献した社員に対する「発明表彰」や、品質向上や生産性向上に貢献した優れた活動に対する「品質表彰」「生産革新賞」、幅広い技能でものづくりに貢献した個人に対する「マイスター認定・表彰」、卓越した技能をたたえ、キヤノンに必要な技能の伝承を図るための「キヤノンの名匠認定・表彰」、優れた環境活動を表彰する「環境表彰」などを実施しています。