人権の尊重
取り組み

人権デュー・デリジェンスの実施

キヤノンでは、人権DDをリスクマネジメント委員会下の活動として位置づけ、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」にもとづき、グループ全体で実施しています。キヤノン(株)各部門および各グループ会社は、サプライチェーンを含むそれぞれの事業活動における人権に対する負の影響の洗い出し、評価および顕著な人権リスクの特定を行っています。その後、事務局は各組織の人権リスクを集約、分析、評価し、ステークホルダーエンゲージメントを経て、キヤノンとしての顕著な人権リスクを特定しています。人権リスクの評価にあたってはRBA(Responsible Business Alliance)が提供する国・地域別の人権リスクインデックスなども参照しています。また、各部門・各社で特定された顕著な人権リスクのうち、現状の取り組みでは不十分と思われるものについては、リスクを防止・軽減するさらなる取り組みを実施しています。

こうしたキヤノンの取り組みが国際労働機関(ILO)による「アジアにおける責任あるバリューチェーン構築」プロジェクト(経済産業省拠出)においてグッドプラクティス事例として収載されたほか、ジェトロのWebサイトで特集記事として紹介されました。

特集:動き出した人権デューディリジェンス―日本企業に聞く

外部専門家とのダイアログ

人権DDを効果的に推進するために、積極的に外部専門家とダイアログを実施しています。2023年は国連開発計画(UNDP)主催の人権研修に参加するとともに、その後のフォローアップとして、UNDPおよび国内外の専門家との個別ガイダンスに参加しました。キヤノンの現状の取り組みや抱える課題を説明し、最新の動向を踏まえた、今後の活動に対するアドバイスをいただきました。いただいたアドバイスは今後の活動に生かしていきます。

キヤノンにおける顕著な人権リスク

キヤノンの事業活動において発生する可能性がある人権リスクのうち、顕著な人権リスクとして特定したのは、「人種・性別・宗教等による差別」「ハラスメント」「児童労働」「強制労働」「賃金不払い・低賃金」「過重労働」「労働安全衛生」「プライバシーの保護」など11項目です。これらのリスクについては、次表記載の通り、リスクを防止・軽減するためのさまざまな対応策がとられています。また、新規事業についても人権リスクを評価しています。たとえば、M&Aを行う際には、DDの一環として、労働基準や安全衛生などに関する法令の遵守状況を調査し、新たにグループ入りする企業に重大な人権リスクがないことを確認しています。

キヤノンにおける顕著な人権リスク
  権利主体 キヤノンにおける対応
サプライヤー・
委託先従業員
自社従業員 顧客・消費者 地域社会
人種・性別・
宗教等による差別
      ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進
ハラスメント       ハラスメントの防止
児童労働       サプライチェーンにおける人権尊重
強制労働       サプライチェーンにおける人権尊重
賃金不払い・
低賃金
      サプライチェーンにおける人権尊重
過重労働     過重労働の防止

サプライチェーンにおける人権尊重
労働安全衛生     労働安全衛生と健康経営
プライバシーの
保護
    個人情報の保護
紛争鉱物の調達       責任ある鉱物調達への取り組み
事業拠点の
騒音、環境汚染
      環境
製品に起因する
健康被害・事故
      製品責任

救済メカニズム

キヤノンでは、人権に関する具体的な懸念について従業員が現地語で通報することができる内部通報窓口をキヤノン(株)および国内外のほぼすべてのグループ会社に設置しています。また、イントラネットや研修などを通じて通報窓口の周知に努めています。さらに、キヤノン(株)では社外のステークホルダーに対しても、キヤノンの企業活動にともなう人権に関する具体的な懸念について通報を受け付ける窓口をWebサイトに設けています。社内外いずれの窓口においても、通報者のプライバシーは保護され、通報したことを理由として不利益な取り扱いを受けることがないよう、匿名での通報も可能となっています。通報を受け付けた事案については、事実関係の調査を行い、問題があると判断されれば、適切な手続きを通じてその是正や再発防止に取り組んでいます。2023年において通報を受けた人権に関する事案(差別・ハラスメント、賃金、労働時間など)は94件ありました。当該94件のなかで、2023年末時点で調査が完了した事案のうち、是正すべき事案が17件認められました。

是正すべき事案については、行為者の処分・異動など、行為者(または該当部門)への注意・指導などを実施しました。

加えて、キヤノンが加盟しているサプライチェーンにおけるCSR推進団体が救済メカニズムを提供しており、キヤノンのステークホルダーは、このプラットフォームを通じて人権に関する具体的な懸念を通報することもできます。

責任ある企業行動に関する通報窓口

人権啓発活動

ビジネスと人権に関わる基礎的な知識およびキヤノンの人権に関する取り組みの周知・啓発を目的として、2021年より従業員を対象としたeラーニングプログラムを実施しています。対象をキヤノン(株)、国内グループ会社と順次拡大、2023年には海外グループ会社に展開しました(受講率99.4%)。海外で教育を実施するにあたっては、国・地域による特性を考慮し、各社で内容を最適化し、各言語へ翻訳した上で実施しました。

従業員ハンドブックによる従業員への周知

キヤノンベトナムでは職場環境をさらに改善し、会社と従業員の相互理解を深めるため、「従業員ハンドブック」を発行しています。ハンドブックではキヤノングループ行動規範、RBA行動規範、人権の保護を含むキヤノンベトナムのさまざまな社内ルールを網羅しています。

従業員ハンドブック
従業員ハンドブック

ステークホルダーエンゲージメント

「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」では、企業が、自らの活動において、実際のまたは潜在的な負の影響を特定する時点でステークホルダーとのエンゲージメントを行うことが重要であると規定しています。キヤノンは、キヤノン労働組合のほか、機関投資家、サプライヤー、協力会社のみなさまとも対話を実施しています。

エンゲージメント事例1(労働組合)

キヤノンの顕著な人権リスクを特定するにあたり、従業員の人権リスクとして考えられる「人種・性別・宗教等による差別」「ハラスメント」「過重労働」「労働安全衛生」「プライバシーの保護」について、キヤノン労働組合と対話を実施しています。労働組合の認識を確認するとともに、テレワークの浸透による働き方の変化や男性の育児休暇取得に関する内容など広く意見を交換し、その結果はキヤノンとしての顕著な人権リスクの特定に反映しています。

エンゲージメント事例2(産業機器協力会社)

キヤノンでは、半導体露光装置などの産業機器の開発・製造・販売事業をグローバルに展開しています。産業機器事業における顕著な人権侵害リスクの一つに、機器の運送や設置にともなう自社および業務委託先従業員の事故や労働災害があります。産業機器は大型かつ重量があることから、安全配慮が徹底されていない場合、挟まれや高所からの転落など大きな事故につながる恐れがあります。キヤノン(株)では、自社従業員に対する労働災害を防止するための取り組みだけではなく、機器の搬入業務の委託先と定期的に情報交換会を開催し、ヒヤリハット事例、ルール違反や問題点を共有し対策を講じることで、労働災害防止につなげています。

装置の設置作業
装置の設置作業

従業員の人権尊重

過重労働の防止

キヤノンでは、過重労働のリスクが特に高いとされる海外の生産拠点において、従業員の労働時間を正しく把握するしくみを構築し、その運用状況はキヤノン(株)の人事部門に毎年報告されます。また、2015年にアジア生産会社向けに労働ガイドラインを導入して人権に関する取り組みを始めましたが、2022年、RBAの基準にも適合する形で、新たな労働ガイドラインへ刷新し、国内外すべてのグループ生産会社に対して統一の労働ガイドラインを導入しました。

結社の自由と団体交渉権の尊重

キヤノンは、「キヤノングループ人権方針」において明らかにしているように、結社の自由と団体交渉権を尊重しており、労使の対話を促進することで、労働に関するさまざまな課題の解決に努めています。たとえばキヤノン(株)は、キヤノン労働組合との間で締結している労働協約において、団体交渉を通して会社と組合の双方が正常な秩序と信義をもって迅速に問題の平和的解決に努めることを明記しています。

ハラスメントの防止

キヤノンは、創業以来の人間尊重主義に従い、性別や職種による差別の禁止に加え、「ハラスメントを許さない」という考えのもと、経営幹部をはじめとしてキヤノンで働くすべての従業員にハラスメント防止を周知徹底しています。キヤノン(株)では、セクシュアルハラスメントとパワーハラスメントの禁止に加え、マタニティハラスメントなどの禁止を明記した「就業規則」「ハラスメント防止規程」を制定しています。同規程を国内グループ会社に周知し、多くのグループ会社では同様の規程が設けられています。また、キヤノン(株)および多くの国内グループ会社では、快適な職場環境の保持を図るために、ハラスメント相談窓口を設置しています。なお、従業員からの相談に関しては、プライバシーの保護など、相談者・協力者が不利益を受けることのないよう徹底しています。ハラスメント防止対策として、キヤノン(株)の各事業所、国内グループ会社の担当者を対象に定期的に連絡会を開催し、相談窓口の運用状況について把握・共有するほか、マニュアルの確認や対応方法の共有を行っています。

自社生産拠点における人権侵害リスク評価と改善活動

キヤノンでは、国内外の自社59の生産拠点において、RBAのSAQ(Self-Assessment Questionnaire)を用いた人権侵害リスク評価を実施しています。SAQでは、児童労働、強制労働、結社の自由や団体交渉権の確保などを確認しています。さらに、SAQに加えて自主的に内部監査の実施とRBAの外部監査を受審しています。2022~2023年に国内外の21カ所の生産拠点でRBAの外部監査を受審し、指摘された以下の項目について是正・改善を完了、または改善に向け継続的に取り組んでいます。

  • 一部の海外生産会社での労働時間管理
  • 工場・食堂・寮の非常口、消防設備、避難経路図の不備
  • 応急処置キット、保護具の管理
  • 妊娠・出産に関するリスクアセスメント

児童労働・強制労働・不合理な移動制限の防止

キヤノンでは、国内外の自社の生産拠点において、RBAのSAQを用いた自己点検を行い、児童労働や強制労働および職場や施設内での自由な移動に関して不合理な制限がないことを確認しています。また、身分証明書などの個人関連書類の原本についてもSAQを通じて会社で保管をしていないことを確認しています。

児童労働を防止するために、入社時の年齢確認を徹底するとともに、万が一、就労可能年齢にいたらない従業員が発見された場合に備えた対応フローを整備しています。また、18歳未満の若年労働者については、時間外や夜勤、危険な業務への従事を禁止し、健康への配慮を行っています。

サプライチェーンにおける人権尊重

キヤノンは、RBA行動規範を採用した「キヤノンサプライヤー行動規範」を策定し、労働・安全衛生・環境・マネジメントシステムなどに配慮した調達活動を推進しています。また、主要サプライヤーについては、RBA行動 規範の遵守に関する同意書を取得するほか、サプライヤーにおける児童労働・強制労働・不合理な移動制限・過重労働を防止し、労働安全衛生を確保することを目的に、RBAのSAQを用いた自己点検を毎年実施しています。一部の主要サプライヤーについては、キヤノンが自己点検結果の検証や現地監査を行っています。さらに、経団連の「パートナーシップ構築宣言」に賛同し、不合理な原価低減要請、適正なコスト負担をともなわない短納期発注、急な仕様変更を行わないことや労務費上昇分の影響を考慮した価格設定などを通じて取引先と連携・共存共栄を進めてまいります。また、サプライヤーや業界団体と協力しながら、責任ある鉱物調達の取り組みも進めています。

サプライチェーンマネジメント

継続的なモニタリング

「キヤノングループ人権方針」で表明した内容の遵守状況については継続的にモニタリングするとともに、人権DDについては、継続的に特定・評価手法を改善し、定期的にグループ全体で確認していきます。また、社会的な要請やステークホルダーとの対話、キヤノンの事業状況に応じて、キヤノンの人権への取り組み内容は適宜見直しを行っていきます。

現代奴隷法への対応

自社およびそのサプライチェーンにおいて強制労働、人身取引、児童労働のリスクについて問題のないことを確認し、年次のステートメントを公表することを義務づける現代奴隷法にもとづき、キヤノンは情報開示を行っています。

現代奴隷法への対応