しくみと技術FPD露光装置
液晶、有機ELなどのディスプレイ生産
に欠かせない製造装置
テレビやスマートフォン、デジタルサイネージなど映像表示に欠かせないフラットパネルディスプレイ(FPD)。この製造に不可欠なのが、ガラス基板に微細な画素回路を形成するFPD露光装置です。高度な光学技術や高精度・高速な位置合わせが必要とされ、パネルの品質・生産性に直接関わる重要な役割を果たしています。
2021/4/22
フラットパネルディスプレイ(FPD)露光装置のしくみ
FPDとは、フラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display)の頭文字をとったもので、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの総称です。テレビやパソコン、スマートフォンなど、身の回りの大半の表示デバイスに、大小さまざまなFPDが使われています。
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キヤノンの露光技術
キヤノンは、高品質な映像美を生み出すディスプレイパネルづくりに不可欠な高精細露光装置のトップメーカーです。キヤノンのFPD露光装置は、フォトリソグラフィプロセスの中の露光工程において巨大で高精度な凹面ミラーを核とする反射光学系利用するミラープロジェクション方式を採用しており、ミラーを使って一括露光を行うため、つなぎ目のない高精細パネルを実現します。
大画面一括露光光学技術
巨大な凹面ミラーを使った超精密プロジェクター
フォトリソグラフィの世界では、半導体のICチップのような小面積への露光に加え、液晶や有機ELディスプレイなどのより広い面積への一括露光技術が必要となっています。キヤノンは1980年にミラー投影光学方式の露光装置(MPA:Mirror Projection Aligner)を独自に開発しました。
基本構成は、極限の加工精度で造られた大きな凹面ミラーと小さな凸面ミラー、台形ミラーからなります。ユニット上部に装着されたフォトマスクに強力な紫外線を照射し、5回の反射を経てガラス基板上にフォトマスク上の回路パターンを正確に転写露光します。数㎛単位の微細な回路パターンを、大型のガラス基板に転写する時、キーとなるのが凹面ミラーです。直径約1.5メートルの大型凹面ミラーは、高い光学技術と生産技術があるからこその差別化要素となっています。
また、キヤノンの露光方式は光学的に完全対称系の構造であるため、原理的に斜めからの光で生まれるコマ収差(光のにじみ)の発生が無く、さらにレンズを使った屈折光学系で問題となる光の波長の違いによって生じる色収差(色ズレ)も生じないという利点があります。最も良好な結像特性が得られるのは、円弧状の範囲となるため、この円弧状の露光領域をスキャンすることにより、大面積において高い解像性能を実現しています。
大面積均一&高照度照明系
均一で明るい照明光
FPD露光装置は、生産効率を高めるために常にタクトタイムの短縮が求められています。感光性レジストにフォトマスクのパターンを転写露光するフォトリソグラフィ技術においては、紫外線照明系の照度アップにより露光時間を短くすることができるため、タクトタイムを大きく短縮させることができ、パネルメーカーの生産性向上に貢献しています。 加えてミラー投影光学方式の露光装置(MPA:Mirror Projection Aligner)は、色収差が生じない利点を活かし、解像性能を落とすことなく広い波長範囲の紫外線(i線:365nm~g線:436nm)を有効活用することで照度アップが可能となります。さらに高精細な装置では、より短い波長(DUV波長帯:290nm~380nm)に対応しています。 また高出力な紫外線ランプ3灯の光を束ねることにより、さらなる高照度化を図っています。この場合、単に紫外線ランプの数を増やして照度アップを行うと、照度ムラが大きくなるため高い解像性能を得ることができません。3灯ランプで紫外線を束ねる機構においては、フライアイ(ハエの目)レンズや他の光学系で精密に調整するなど光学技術を駆使し、高照度かつ均一な照明光を実現しています。
ハイブリッド・アライメント技術
素早く正確に計測し、タクトタイム短縮
キヤノンのFPD露光装置では、プレートを乗せるステージ駆動を高速化することに加え、異なる2方式のアライメント機構を併用することでアライメント計測時間を短くし、さらにタクトタイムを短縮しています。
高速アライメント計測技術の開発にあたっては、ガラス基板が熱処理などを経ると基板の絶対寸法自体が変化してしまう課題があります。そのため前工程で形成されたパターン座標にはさまざまな歪みが生じており、この歪みの状態を正確に把握するために多くの基準点の位置計測が必要となります。
従来は、実際のミラー光学系の光路を通してフォトマスクと基板のアライメントマークの重なり状態を計測する方式(AS:Alignment Scope)を採用していましたが、光路を通さずに基板の近くで直接マークを観測し、間接的に位置合わせをする新たな計測方式(OAS:Off−axis Scope)を導入しています。この2つの方式で同時に歪みを把握する「ハイブリッド・アライメント・システム」により、タクトタイム短縮と計測精度向上の両立が可能になりました。
長ストローク&高精度&高速ステージ
小型トラックほどの重量物を素早くメートルオーダーで移動し、サブミクロンで位置合わせ
タクトタイム短縮には、基板を載せているプレートステージの長ストローク&高速駆動も必要です。しかし、大面積のガラス基板を載せるプレートステージはとても重く、小型トラックほどの重量のあるY方向ステージの上で、軽自動車ほどの重量のあるX方向ステージを精密かつ高速に駆動することになります。
キヤノンでは、レーザー干渉計によるナノメートルレベルの超精密計測と強力なリニアモーター、エア・ベアリング技術により、この大型ステージを長ストロークで高速かつ高精度に駆動制御しています。
これにより、メートルオーダーのストロークとサブミクロンレベルでの位置合わせ能力と、高速駆動によるタクトタイム短縮を両立させています。
さらにプレートステージのスキャン速度やスキャン方向を微調整しながら転写露光することで、前工程の熱処理などで生じた基板上のパターンの歪みに対してフォトマスク上のパターンを補正しながら合わせ込む技術も取り入れ、正確性と生産性の両立を実現しています。
スキャン速度とスキャン方向を微調整することで、前工程で歪んだパターンに合わせてフォトマスク上のマスクパターンを補正して露光する技術
歪んだパターンにも柔軟に対応する非線形歪み補正技術
大面積のガラス基板は、前工程の熱処理などで絶対寸法自体が変化し、形成されるパターンもさまざまに歪んだ状態となっています。そのためそのままでは歪みの無いフォトマスク上のパターンと、前工程で基板に形成されたパターンを正確に重ね合わせることができません。 FPD露光装置では、ステージ駆動を微調整するスキャン補正機構に加え、スキャン補正では対応しきれない非線形な歪みに対しては、X,Y方向で独立した倍率補正機構を導入しています。 X,Y方向で光路の曲げ量をステージスキャン中に動的に調整することにより、結像されるパターン自体を拡大・縮小投影することを可能にしています。 この技術をスキャン補正機構と組み合わせることで、基板上のさまざまな形状の歪みに対してフォトマスク上のパターンをより正確に合わせ込むことができます。