テクノロジー

しくみと技術半導体露光装置

日常生活を支え、IoT時代を切り拓く半導体チップを作り出す製造装置

自動車やスマートフォン、家電、ゲームなど…。あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代において、これらの製品に搭載される半導体チップの需要はますます増加していきます。その製造に欠かせない半導体露光装置には、世界最先端の光学技術、精密技術が必要です。

2021/04/22

半導体露光装置のしくみ

半導体チップの製造工程において、「露光」をする役割を担当しています。半導体チップは、ウエハーと呼ばれる半導体基板に微細な回路パターンを露光して作られます。半導体露光装置は原版となるレチクルに描かれた回路パターンを、投影レンズを介して、縮小し、ウエハーに露光します。装置の中は、レチクルステージ、何枚ものレンズ群からなる投影光学系、ウエハーステージの3つの機構に分けられます。
電子回路パターンが描かれたレチクル(原版)がレチクルステージに置かれ、上から紫外線(UV)光を照射すると、レチクルを通ったUV光は投影光学系を通過して、ウエハーステージの上に置かれた半導体基板に、レチクルの電子回路パターンを結像します。ウエハーと呼ばれる半導体基板には、UV光が当たると性質が変わる樹脂(レジスト)が塗ってあり、光が当たった部分には、レチクルに描かれた電子回路パターンが転写されるしくみです。

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半導体露光装置の技術

解像力を高める投影レンズの設計・製造・制御技術


理論限界の解像力を実現する究極の収差制御

半導体チップは、原版(レチクル)に描かれた回路パターンを、ウエハー上に縮小投影露光して製造するため、投影レンズの解像力を高め、パターンを微細化することで、回路の集積度を向上させることができます。
露光装置には、i線波長(365nm)を含む水銀ランプやKrF波長(248nm)を含むエキシマレーザーといった紫外線(UV)光源と、高開口数の投影レンズが搭載されています。キヤノンでは高度な光学設計技術に加えて、数nm精度のレンズ研磨技術、超精密光学系の機構設計・組立・調整技術を駆使し、理論限界の解像力を有する投影レンズを製造しています。さらに、露光時の気圧、温度などのわずかな環境変化による収差の発生を補正するために、精密なレンズ駆動機構も搭載し、高解像力を実現しています。
(※)nm ナノメートル、10億分の1メートル


オーバーレイ精度・スループットを向上させる高加速度・高速ステージ制御技術


世界最高レベルの加速度(※1)と高精度制御技術により高精度・高生産性を実現



半導体露光装置を支える技術として、回路パターンの微細化技術とともに重要なのがステージの高速化技術と同期制御技術です。ステージを高速で駆動し、かつ高精度に位置決めすることにより、生産性と良品率を高め、高性能な半導体製品の大量生産を可能にします。
スキャナー方式(※2)の半導体露光装置では、ウエハーステージとレチクルステージを同期させて、連続的に動かしながらウエハーに露光します。キヤノンでは、位置決め精度1nm以下という非常に高精度な同期制御技術を実現しています。特殊リニアモーターや軽量化・高剛性ステージなどの技術により、レチクルステージで12G以上(ウエハーステージはその4分の1)という高い加速度で繰り返し加減速駆動し、高い生産性に貢献しています。

(※1)世界最高レベルの加速度
2018年8月時点、キヤノン調べ。

(※2)スキャナー方式
ステップアンドスキャン方式の露光装置。レチクルを固定して露光することを繰り返すステッパー方式と比較して高精度化が可能。


ビッグデータ解析技術による安定稼働支援


露光装置の性能を限界まで引き出すAIシステム

半導体露光装置の高い生産性と露光精度を実現するためには、ハードウエア性能を最大限に引き出し、かつその状態を維持することが重要です。
キヤノンの半導体露光装置に導入されている診断システムは、半導体露光装置のさまざまな現象や状態の変化を的確に検出するために、EDA(※)にも準拠した高速データ転送技術、およびディープラーニングやその他の機械学習アルゴリズムを活用したビッグデータ解析技術を駆使しています。露光装置の稼働データやウエハー測定装置、周辺装置の稼働データを高速に収集、解析することで、人間には判断が難しい装置の稼働状況の変化を捉え、異常を検知。さらに予知・保全につなげることで、装置産業に求められる安定稼働を実現しています。

(※)EDA Equipment Data Acquisitionの略称。データ収集に関する半導体製造装置の標準規格(SEMIスタンダード)のこと。

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