お風呂場などの湯気のたちこめた場所で、電灯の光がぼけて見えることがあります。
霧の中の外灯もぼけて見えますね。これはどんな現象なのでしょう。
光は、波の性質、粒子の性質を兼ねそなえています。この現象は、そんな光の波としての特徴のひとつ「回折」によるものです。回折は、物体に光があたったとき、光が物体の影の部分に回り込むことから起こります。お風呂場では、水蒸気の粒子に光があたって回り込むため、光はまぶしくなくなり、ぼやけて見えるのです。
光の回折は、平行に進行する光が障害物に出会ったとき、障害物の裏側(影の部分)に回り込む現象です。光は、下図(1)のように、少し折れ曲がっていきます。 下図(2)は、しきり板に光をあて、しきり板のスリット(狭いすき間)を利用して起きる回折現象の図です。光は波でもありますから、狭いスリットや小さな穴を抜けると、平面波から球面波に変化するのです。水の波の場合に同様に変化するのと同じです。このように、光の進行方向が変化するのが回折なのです。小さな障害物だと回り込み、狭いスリットだと球形波となり、広がって弱まりながら進むので、光がぼやけて見えることになるのです。
回折でおもしろい現象は、しきり板に小さな穴(ピンホール)を開けて光を透過させるとよくわかります。ピンホールをまっすぐに通った光はスポット光になりそうですが、実際は違います。明暗の縞からなる同心円状の縞模様になるのです。中心に近いほど鮮明で、遠いほどぼけて広がる縞模様です。これを回折像といいます。この模様は定式化されることがわかっていて、「二次元フーリエ変換」といいます。光の回折を利用して高速に演算処理する「光コンピューター」も提案されています。
レンズは光を集めて像を結ぶための一種の穴「開口」です。これを通る場合にも、光は回折します。回折による縞模様の広がりぐあいは、光の波長が大きいほど大きく、穴の直径が小さいほど大きくなります。顕微鏡や望遠鏡では、対物レンズの直径はこのような穴(開口)とみなされますので、回折は分解能に大きな影響を与えることになります。小さな開口だと像がボケてしまうからです。つまり、理想的に設計されたレンズにおいてさえ、焦点を合わせても光が点に結ばれず、ぼけてしまうのです。これを、レンズの「回折限界」といいます。
このため、原子などをレンズで拡大してみようとすると、巨大な口径の対物レンズが必要になります。しかし、そのようなレンズの作成は困難なので、光の波長より小さい波長の電子線を利用した「電子顕微鏡」を利用することになります。波長が小さくなるので回折像も小さくなり、高い分解能が得られます。