キヤノンサイエンスラボ

レーザー

人工的な光では、多分野に応用されているレーザー光もあります。
20世紀の重要な発明とされるレーザーの仕組みを理解しましょう。
レーザー光が誕生したのは1960年です。「レーザー(LASER)」とは、“Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation”の頭文字から名付けられました。語源の英文は、「誘導放出を利用した光の発振・増幅器」という意味です。このレーザーは、方向、位相、波長がそろった人工の光で、これは、電子の「励起状態」「基底状態」をうまくコントロールすることで作ります。波長や位相がバラバラなほかの光と違い、わずかな光から強力な光を作って制御できるので、人工光の主役的な存在となっています。現在は、CD-ROMや光ファイバーなどの工業製品はもちろん、医療分野やエンターテインメントなど、多方面に活用されています。

レーザー光を生み出す電子の分布

物質中の原子や分子が光(電磁波)を放出するのは、最も外側の軌道を回る電子が外部からエネルギーを得て、より外側のエネルギーの高い軌道へ飛び上がり、元の軌道へと落ちるときです。これを「自然放出」といいます。また、高いエネルギー・レベルへの飛び上がりを「励起」、もとのエネルギー状態を「基底状態」といいます。
この様子を、5階建てビルとエレベーターにたとえて見てみましょう。

このエレベーターは、外部からエネルギーが与えられると5階に直行します。1階が基底状態、5階が励起して飛び上がった状態と考えてください。エネルギーが与えられてエレベーターが動き出すと、1階から5階に直行する人が出てきます。ところが、5階の励起フロアはせまくて不安定なため長居できず、ほとんどの人は4階に降りていきます。4階は「準安定状態」というフロアです。この4階は5階に比べて長くいることができますが、多くはエネルギーを放出して1階の基底フロアに降りてしまいます。こうして下図のように、1階の基底フロアに大部分の人がいて、一部が4階の準安定フロアにいるという分布状態ができあがります。

では、エレベーターに連続してエネルギーを与えるとどうなるでしょう。エレベーターに乗って次々と5階の励起フロアに直行、そして4階の準安定フロアに降りる人が増えてきます。1階の基底フロアにいる人よりも準安定フロアにいる人のほうが多いという、逆転現象が起きてくるのです。これを「反転分布」といいます。しかし、準安定フロアは完全に安定ではありませんから、反転分布になってひとりがエネルギーを放って1階に降りると、それをきっかけになだれを打って1階の基底フロアに降りようとする動きが発生します。このようなエネルギー放出を「誘導放出」といい、これがレーザー光のもとになる現象です。

光を発振・増幅させる仕組み

誘導放出によって得られる光は、前後左右さまざまな方向に放出されます。波長は一定ですが、位相はバラバラでそろっていません。この光を、両端に鏡(1枚は半透のハーフミラー)を配置した筒の中に入れ、鏡と鏡の間を何度も往復させてやると位相と方向がそろった波の光だけが強まりあって残ることになります。このように、完全に波長と位相がそろった干渉しやすい「コヒーレント光」ができあがり、強さがある程度以上になると、ハーフミラーを突破して光が外に出ます。これが、レーザー光です。

レーザーには、いろいろな物質が使われます。宝石のルビーでは、黄緑色、青色の光が5階の励起フロアに昇り、4階から1階に降りる際に波長694ナノメートルの赤色の光を放出するため、赤色のレーザー光を得ることができます。「半導体レーザー」では、pn接合したダイオードを利用しています。

自由電子レーザーの仕組み

これまで述べたレーザーの原理は「三準位レーザー」といわれるものです。このレーザーのデメリットは、使う物質によって得られる光の波長が決まってしまうこと。任意の波長のレーザー光を得る「自由電子レーザー」もあります。自由電子レーザーは、「光速に近い速度で直進している電子の進路を急に曲げると光が飛び出す」性質を利用します。下図のように磁石のN極S極を向かい合わせに配置したところに、高速な電子を打ち込むと、電子は磁界の影響を受けて蛇行しながら光を発します。

これを先のように前後の鏡で増幅すると、レーザー光が得られます。 入射する電子のエネルギーを変化させればレーザー光の波長を変えることができ、マイクロ波から紫外線に至るまでのレーザー光を得ることができます。