キヤノンサイエンスラボ

写真

光が描く絵を、そのまま忠実に写し取ること。
中世手描き画家の時代に登場した写真の仕組みは、フィルムの時代を経て現在のデジタル時代まで、その夢を着実に進歩させてきました。
小さな壁穴を通った光は、部屋の反対側の壁に外の景色を逆さに写し出します。ヨーロッパ中世の画家たちは、この壁の光の跡をなぞって正確なスケッチを描きました。
もともとカメラという言葉は、画家がスケッチに使った補助装置である「カメラ・オブスキュラ(Camera Obscura)」というラテン語からきています。Cameraは「部屋」、Obscuraは「曖昧な、暗い」という意味。つまり「暗い部屋」がカメラの語源なのです。
19世紀前半、カメラ・オブスキュラ装置に感光性をもった銀の化合物を塗った金属板をセットして、自動的に風景を写し取る技法が発見されます。これが写真のはじまりです。やがて金属板はフィルムとなり、さらにモノクロームからカラーフィルムへと進化してきました。現在ではデジタルカメラの光素子が光を感じ取り、被写体をデジタルデータとして定着させています。

小さな穴を通る光で景色が写る

暗い部屋に壁や板戸の小さな穴から光が入ると、反対側の壁に外の景色が写ります。これが写真の基本原理でもある「小穴投影」現象です。小穴投影で写るのは、左右上下がさかさまになった逆転像です。その仕組みは単純です。光の入らない箱に小さな針穴(ピンホール)をあけ、なかに印画紙をセットするだけです。穴はテープなどで閉じておき、印画紙をセットしたら写したい風景に向けて数秒間光を入れます。印画紙を現像すると、風景が印画紙に浮かび上がってきます。針穴の部分にレンズと絞り、シャッターを取り付けて光を調整し、壁や印画紙の部分にフィルムやCCDセンサーを置いて感光させるのが、現在のカメラの仕組みです。

銀塩フィルムが化学反応して像が現れる

フィルムカメラは「銀塩カメラ」とも呼ばれます。これは、カメラのフィルムがハロゲン化銀(塩化銀・臭化銀・ヨウ化銀など)を感光用の物質として使っているからです。ハロゲン化銀は光を吸収すると内部の電子が結晶の一部に集合して、感光核を作る性質があります。フィルムにあたった光がハロゲン化銀を化学変化させて、フィルム上に画像パターン(潜像と呼ばれます)を作るのです。
感光したフィルムを現像液につけると、感光核の周囲が銀粒子に変化して光のあたった部分が黒くなります。これが「像が現れる」処理、つまり「現像」です。ハロゲン化銀を還元する薬品が現像液なのです。

写真:モノクロ写真のネガ

現像しただけでは、フィルムには未感光のハロゲン化銀が残っています。未感光のハロゲン化銀を溶かす薬品に入れると、黒い銀粒子だけが残り、ハロゲン化銀が取りはらわれます。これが「定着」です。カメラの内部で光にあたったフィルムが潜像を作り、薬品による現像と定着のプロセスを経てネガ(光のあたった部分が黒くなった像)ができるのです。このネガに光をあてて下に置いた印画紙を感光させると、ネガの黒い部分が白く、ネガの白い部分は黒く感光した画像ができあがります。これがモノクローム写真の原理です。

カラーフィルムは3色で色を再現する

ではカラーフィルムはどのように色を写し取っているのでしょう。カラーフィルムには、上から順に青、緑、赤の光に感光する3つの感光乳剤層が重ねて塗られています。
ハロゲン化銀に色素を加えると、ある特定波長の光だけに反応して感光するようになります。カラーフィルムにあたった光は、青・緑・赤の各層を感光させます。カラーフィルムには発色剤がふくまれていて、現像・定着の薬品処理をほどこすと、青・緑・赤の補色にあたるイエロー・マゼンタ・シアンの3色を発色するネガ画像ができあがります。ネガフィルムで赤いリンゴが緑になっているのは、このためです。

イラスト:カラーネガフィルムの断面

ネガ画像に光をあて、イエロー・マゼンタ・シアンの補色を印画紙上に発色させれば、被写体のもとの色が再現されます。これが発色現像法のカラー写真の原理です。

デジタルカメラは光をデータで記憶する

いま写真はフィルムからデジタル画像の時代に変わっています。画像を小さな点(ピクセル)の集合と考え、ひとつひとつの点の光の情報を数値化して記録したものがデジタル画像です。デジタルカメラでフィルムの役目を果たすのはCMOSやCCDセンサーといった撮像素子です。受光素子(フォトダイオード)が光に反応して電荷を蓄え、電荷の量を数値に変換してデジタル画像を生成しています。デジタルカメラにもRGBの3色の原理が応用されています。CMOSやCCDセンサーは光の強弱だけに反応するセンサーです。いわばモノクロームフィルムと同じです。デジタルカメラでは、光をRGBにわけてからCMOSやCCDセンサーにあて、各色の強弱を別々にデータ化することで色を表現しています。

デジタルカメラで撮影された画像はフィルムのように劣化することがありませんし、もちろんモニター画面上に映し出したり、プリンターで出力するなどさまざまな方法で観賞することができます。

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