フィルムの技術の発展にともなって、カメラ本体の性格も大きく変わりました。それまでのカメラは、撮影(さつえい)したフィルムを印画紙に重ねてプリントするため、大きなプリントを得るにはフィルムのサイズも大きくする必要がありました。このため、カメラ自体がたいへん大きく、ふつうの人が持って歩くというより、写真屋さんのためのプロの道具でした。
この事情を一変させたのが、ドイツのオスカー・バルナックによる小型カメラの開発です。バルナックは、当時映画用に使われていた長いロールフィルムを1.7mに切断し、小型の入れ物(パトローネといいます)に入れて使うことで、かばんやポケットに入るサイズの高性能カメラを考えました。これが1925年、エルンスト・ライツ社から発表された「ライカA型」で、その後のフィルム式カメラの基本となりました。現在でももっとも多く使われている35mm幅(はば)のフィルムはこのとき誕生した規格です。
バルナックの発想は、精密なレンズとカメラで小さなネガをつくり、それを引きのばして大きなプリントを得るというもので、この考え方も現代のフィルム式カメラに受けつがれています。カメラは世界中で作られ、レンズやフィルムの発展によって、さらに小さなサイズのカメラも登場。写真技術は市民のものとして広がっていきました。ちなみにキヤノンは、世界一のカメラ作りを目指すメーカーとして、1937年に創業しました。
1980年代、フィルム全盛の写真技術に劇的な変化が起きます。「画像を電気信号に置きかえて記録する」ビデオカメラ(動画)の発展をうけ、スチル(静止画)の世界にも電子式カメラ、すなわちスチルビデオカメラが登場したのです。1984年に開催(かいさい)されたロサンゼルスオリンピックでは、キヤノンが開発したスチルビデオカメラのシステムが投入され、報道写真の画像伝送に利用されました。
以後、写真技術の電子化の流れはさらに加速し、アナログからデジタルへと移行します。デジタルカメラは最初はきわめて高価でしたが、1990年代にはさまざまな普及(ふきゅう)モデルが登場し、一般(いっぱん)市民がふつうに使える道具となっていきます。21世紀に入ると、同時期に普及(ふきゅう)した携帯電話(けいたいでんわ)に搭載(とうさい)されるなど、デジタルカメラはごくふつうの撮影(さつえい)装置として受け入れられ、現代の写真技術の中心的な存在になっています。