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色と光

花と光のふしぎな関係

桜、チューリップ、菜の花、ネモフィラなど、春はたくさんの花が咲く季節です。その多くは春になって昼が長くなると花を咲かせます。逆に菊(きく)などの花は、秋になって夜が長くなると咲きます。花と光にはどのような関係があるのでしょうか。

桜と菜の花

桜と菜の花

春に咲く長日植物

植物は成長のために光を利用するだけでなく、どう活動するかも光で決めています。光によって昼夜の長さを感じとり、花を咲かせる時期を決めている植物も多くあります。この性質から見た、長日(ちょうじつ)植物や短日(たんじつ)植物といった分け方があります。

長日植物とは「日が長くなると咲く」植物という意味です。夜の長さが短くなっていく春から初夏の季節に、1日の暗い時間、つまり夜が約11時間より短くなると花芽(かが=花に成長する芽)を作って花を咲かせます。チューリップ、菜の花、ネモフィラのほか、カーネーション、ペチュニア、あやめ、だいこん、小麦などが長日植物です。

逆に「日が短くなる」と、つまり夜が長くなると咲くのが短日植物です。秋から冬の初めにかけての季節に、暗い時間が約13時間より長くなると花芽を作ります。菊、コスモス、ポインセチア、稲などが有名です。
また、このどちらにもふくまれない植物、たとえばトマト、きゅうり、エンドウなどは、暗い時間の長さに関係なく花を咲かせるので、中性(ちゅうせい)植物と呼ばれます。

長日植物のあやめ

長日植物のあやめ

短日植物のコスモス

短日植物のコスモス

桜が咲くには温度の影響も

花が咲くのには昼夜の長さだけでなく、気温の変化なども影響をあたえる場合があります。例えば春の花として有名な桜は、花の時期こそ春ですが花芽を作るのは前年の夏で、冬を越した後で暖かくなると開花します。
なかでも日本各地で親しまれているソメイヨシノは、花がいっせいに咲くことで有名です。ソメイヨシノは百数十年前に人間によって品種改良で作られた種類で、タネから育てると別の種類になってしまいます。そこで成長したソメイヨシノの枝を、同じ桜の別の種類であるアオハダサクラやオオシマサクラなどにつないで育てる方法(接ぎ木)や、枝を土にさして苗にする方法(挿し木)で育てます。長い間、この方法で数を増やしてきたため、すべてのソメイヨシノは同じ遺伝情報をもつ“兄弟”で、一本一本の性質が良くにています。このため同じように昼夜の長さ、温度の変化などのようすを感じとり、いっせいに花をつけると考えられています。

花が咲くには、光だけでなく、気温の変化や栄養のちがいなどのさまざまな条件が影響しています。そのくわしいしくみには、わかっていないこともまだたくさんあります。

ソメイヨシノと富士山

ソメイヨシノと富士山

光の色も感じている

植物は光の量だけでなく色も感じとっていることが、電照(でんしょう)栽培についての研究からもわかっています。
電照栽培とは、昼夜の長さによって花が咲く時期がちがうという植物の性質を利用して、夜に照明を当てて花が咲くタイミングを変える栽培方法です。花が咲く時期を普通と変えて、長い期間にわたって同じ花を楽しめるように考え出されました。

たとえば、カーネーションなどの春の花は夜が短くなる季節に咲くので、夜にも光をあてると早く咲かせることができます。逆に短日植物の菊などは夜に光を当てることで、開花を遅らせています。

日本では1950年ごろから電球(白熱電球)を使った電照栽培が始まり、その後、電力が少なくてすむけい光灯やLED照明を使った電照栽培がおこなわれるようになりました。しかし、けい光灯などでは花が咲くタイミングをうまくずらせないことがあり、理由として考えられたのが「電球とけい光灯などの光にふくまれる色のちがい」でした。

菊の電照栽培

菊の電照栽培
夜に光をあてて人工的に夜の長さを短くすることで、開花を遅らせて花屋さんなどに出荷します

人間の目には同じように見える白っぽい光でも、照明のしゅるいによって光にふくまれる色にはちがいがあります。
光はプリズムなどをとおして見ると、さまざまな色の光からできていることがわかります。色のちがいは光がもつ波の性質の、波長(波の山から山までの長さ)のちがいによって生まれます。私たち人間は波長が短い光を青く、長いと赤く感じます。

プリズムに光を入れると、波長の短い青は大きく曲がり、長い赤はあまり曲がらないため、色が分かれて見えます。

電球(白熱電球)は太陽光のようにさまざまな色の光をふくんでいますが、太陽光にくらべて青が少なく赤や赤外線に近い暗い赤色(遠赤色と呼びます)、さらに赤外線が多くふくまれています。
けい光灯ではいくつかの色が特に多く、電球色LEDは緑から赤が多いものの、遠赤色や赤外線はあまりふくまれません。
これらの照明を同じ明るさで夜間に当て続けた実験では※1、つぼみをつける本数や時期に違いが見られました。例えば長日植物のシュッコンカスミソウでは、電球や電球色LEDの照明を使うと、つぼみが、より多く、より早くついたのです。花を咲かせるのに光に含まれる色の違いが影響するのです。

※1 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の野菜花き研究部門による実験

照明に含まれる光の色の成分

照明に含まれる光の色の成分
同じ明るさの光でも、照明のしゅるいによってふくまれる波長には大きな差があります。
提供:「農研機構」(提供情報をもとに改変)

照明ごとのつぼみのつき方の比較(シュッコンカスミソウ)

照明ごとのつぼみのつき方の比較(シュッコンカスミソウ)
白熱電球や電球色LEDでの照明で、つぼみをつけた本数がいちはやく増えました。
提供:「農研機構」(提供情報をもとに改変)

それぞれの植物には好きな色がある?

さらに、さまざまな色の光を植物に当てて調べた実験では、植物の種類によって花が咲くタイミングのずれにいろいろなパターンがあることがわかりました。
菊の仲間やひまわり、ベゴニアなどでは、赤を中心に黄色や緑の光を当てて育てたとき、開花を遅くできます。これに対してほうれん草やペチュニア、スターチスなどでは、同じ赤~黄色や緑の光で逆に開花が早くなることがわかりました。ストックやシュッコンカスミソウ、パンジーなどでは、遠赤色を中心に赤色や黄色の光で開花が早くなりました。
植物の種類のちがいによって、感じとる光の色もちがうのです。

花屋さんに並ぶひまわり

花屋さんに並ぶひまわり

植物は人間とはちがったしくみで色を感じとる

植物は、花を咲かせるだけでなく、実をつけたり、葉を落とすなど、さまざまな活動をします。これらの活動のために周囲のようすを知る重要な手がかりのひとつが光です。植物が二酸化炭素と水と光を使って酸素とでんぷんなどの養分を作り出す「光合成」では、クロロフィルという物質が光を受け止めることがよく知られています。クロロフィルがどれほど光を受け止めるかが、成長のきめてのひとつです。

さらに、ほかにも光を感じる物質があることがわかっていて、その代表がフィトクロムという物質です。大きくPr型とPfr型と呼ばれる2種類があり、赤、遠赤色を吸収します。特にPfr型は、ヒトには見えない赤外線に近い遠赤色の光もよく受け止めます。また、青や紫の光を受け止めるフォトトロピンやクリプトクロムと呼ばれる物質もあります。

クロロフィルは光合成で養分を作るときにはたらきますが、これらの物質は光を受けると、植物の体をつくっている細胞の増え方や性質の変化をおこさせます。つまり茎や葉を伸ばす、伸びる向きを変える、花芽を作る…といった、植物の成長や活動のようすが変わるのです。

人間が明るさを感じる波長(左)と植物のフィトクロムが受け止める波長(右)

人間が明るさを感じる波長(左)と植物のフィトクロムが受け止める波長(右)
人間が明るさを感じるときには、緑色の光の影響を強く受けます。いっぽう植物のフィトクロムは赤色や遠赤色をよく受け止めます。
提供:「農研機構」(提供情報をもとに改変)

このように植物は、いくつかの物質がそれぞれことなる色の光を受け取り、色ごとの明るさや、明るさが続く時間などをもとにして、成長したり花を咲かせているのです。

情報協力:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)

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